第23話 菱家の到着

 上官景砂が再び目を開けると、そこには見慣れない光景が広がっていた。深い紺色の天井や壁に、紫紺の窓。窓が開いていても、今が何時かもわからなくなるほどに暗い部屋だった。

(ここはどこ? 私はどうして上官家にを離れているの? 明らかにまだ禁足を解かれていないというのに…)

 彼女はゆっくりと体を起こして辺りを見回していると、唐突に頭に激痛が走る。

 記憶の中に残っている最後の一幕は、上官家に用意された部屋で昼餉を食べ終えたところだけだった。そこからここへ来るまでの間に、いったい何があったというのだろうか。

 ちょうどその疑問を解決するかの如く、菱珪玉が上官景砂もの前に現れた。最後に会ってからまだ一日も経過していないくらいなのに、彼は心なしか酷くやつれているように見える。

「菱公子……?」

 上官景砂が寝起きのような声で呼びかけると、菱珪玉は無理したかのような笑みを浮かべた。

「景砂さん。やっと目覚めたんだね」

「? 私は長いこと眠っていたのですか?」

 すると、菱珪玉は穏やかに首を横に振った。

「いや。そういうわけじゃない。今はせいぜい同じ日の夜になっただけだから」

「これがもし上官家なら、規則違反になりますね」

「うん。だけど、ここは菱家だ。上官家のようにやたらと細かい規則は一切ない」

 規則から解放されて喜んでいてもいいはずなのに、菱珪玉の顔は相変わらず暗い色をしている。まるで、生まれた場所であるはずの菱家には全く戻りたくなかったかのようだ。

「ところで、景砂さんは夕餉がまだだろう? 目が覚めているかどうかわからなかったから、大したものは何もないけど、よかったらこれを食べてよ」

 と言いながら、菱珪玉は手に持っていた籠から鶏肉の汁物と肉まんを取り出した。どれも、見るからに出来立てだった。

「菱公子、ありがとう」

「いや、いいんだ。だって、私は上官家を離れる時、確かに君を連れだしたんだからね。それも、危険だと分かっていながら」

 上官景砂は昨日の菱珪玉の言葉を思い出していた。

(あの時行ったこととは明らかに矛盾しているけど、これは一体どういうことなのだろう)

 しかし、その疑問を口にすることなど一切できないまま、菱珪玉が話し続けた。

「景砂さんは私が急に菱家に戻ると聞いて驚かなかったのかい?」

「いえ。驚きました。まさか、これほど早く菱公子が上官家から離れられるとは思ってもみなかったから。事前に、上官家にいる期間が決められていたのですか?」

 だが、菱珪玉は視線を前に向けて言った。

「いや。私も、菱家に戻ることが決まったという知らせを受けたのは、昨日のことだったんだ」

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