友達面接
9月。とある上場企業では、今年も新卒を採用すべく、面接試験を開いていた。この企業の特筆すべき点は、選考に「友達面接」というプロセスがある点だ。友達面接とは、就活生本人ではなく、その友人を別室に呼び出し、就活生本人の長所や短所を話して貰う面接スタイルだ。 なんでも、就活生は自分を良く言うような大ウソを無限につくため、就活が嘘つき大会になってしまっている現状を憂いた採用担当がそのような面接スタイルを思いついたらしい。そうして協力して貰った友人には、交通費に加えて、ちょっとした謝礼金が企業から渡される。そんなわけで、今日の面接会場には多くの2人組が訪れた。
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「おい、練習した通りに頼むよ。俺の就職がかかってるんだから」
「わかってるよ、ジュンならきっと受かるさ」
「今のうちにおさらいしておこう。ジュンさんの長所はどこですか?」
「ジュンには主体性があります。キャンプや旅行など、集団で遊びに行く際にはいつもリーダーをやっています。僕はジュンと同じ居酒屋で働くバイト仲間なのですが、後輩にものを教えるのが上手いということで評判ですよ」
「バッチリだ。続いて、ジュンさんの短所を教えてください」
「短所も訊かれるのかい?」
「そういう噂だよ」
「わかった。ジュンは、ちょっと不潔な所があります。皆でクリスマスパーティをしているとき、トイレのあとに手を洗わずに皆のポテチをつまむし、彼の机の中には鼻をかんだあとのティッシュがたくさんつまっていますよ」
「わああ! 本当のことを言ってどうするんだよ。」
「だって本当のことじゃないか」
「本当のことを言うメリットなんてないんだよ。こういうのは、業務に関係のない短所を挙げるんだ。改善に向けて努めていることもセットでアピールするんだ」
「じゃあこれでどうだ。ジュンは少し頑固で、一度やると決めたことはやらないと気がすまない点が短所ですね。この前皆で、お昼何食べる~? という話になったときに、彼がどうしてもうな重が食べたいと言い出して、隣町の隣町まで彼の運転する車で行くことになったんですよ。でも彼はそうやって頑固を発動するとき、自分が運転したり奢ったりして周囲への迷惑は最小になるように振舞おうとしている節があるので、憎んでいる人はいませんよ」
「OK、まあいいだろう。いよいよ面接の時間が近づいてきた。マジでよろしく頼むよ。俺が受かったら焼肉奢るからさ」
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「それでは、伊藤ジュンさんのご友人の方はこちらの部屋にお越しください」
「失礼します」
「今日はよろしくお願いします。ここでの会話内容は選考以外には一切使用しないので、正直なお話を聞かせてください」
「ええ、そのつもりです」
「それでは、友人である貴方から見て、ジュンさんの長所を教えてください」
「女性と仲良くなるのが上手いですよ。なんせ年に4人とは付き合ってますからね。同じ頻度で別れているということでもありますけど(笑)。私よりも男性としての魅力が高いんだと思いますよ。なんせ私の彼女を取ったこともありますし。」
「そうなんですか。どんな女性がタイプなんですか?」
「意思が弱くて奉仕的、引っ張ってくれる人を求めている女性がタイプみたいですね。ある程度仲良くなると結構殴るみたいなんですけど、それでも文句を言わない女性が好みみたいです」
「わかりました、ありがとうございます。それでは、ジュンさんの短所を教えてください」
「シンプルに倫理観がないですね。バイトで気に入らない客が来たら、腹いせとして次に運ぶ料理に唾を吐きかけて提供するんですよ。気に入らない客とは別の客の料理にですよ。あと他人の容姿イジりしか雑談ネタがない点と、新入生に飲酒を強要する点が短所です」
「わかりました、ありがとうございます。」
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「おう、手ごたえどうだった? 変な質問されなかった?」
「練習通りだったよ。印象良い感じの反応だったけど、落ちてたらごめんね~!」
「いいよいいよ、お前も頑張ってくれたんだから、あとは俺が頑張るだけだよ」
小話 @e_nunuma
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