魔法で英雄になるために。~とある道化師の英雄譚~

コモンピープル

第一章 違えた道を歩まぬように。

第1話

 英雄に憧れた。

 ドラゴンを倒し、姫を救う。厄災に立ち向かい、世界を救う。困っている人に手を差し伸べ、決して見捨てない。

 そんな、みんなを救う英雄に。


 だが、僕が産まれ持った物語まほうは「道化クラウンのまほうの物語」だった。


 ◇



「__以上で登録作業は終了です。なにかご質問はございますか?」

「だ、大丈夫です!」

「では、こちらが冒険者カードです。決して無くさないように」


 受付のお姉さんから受け取ったのはひんやりと冷たい無機質なカード。

 だが、それを受け取る僕の手には熱が籠っていたと思う。


 幼い頃から、憧れた英雄への第一歩。冒険者へと成れたのだから。


 冒険者カードを受け取った僕は早速街の外に出かけた。

 冒険者、それは未知へ挑む荒くれ者共。

 彼らの稼ぎ方には二種類ある。

 魔物と呼ばれる異形の存在を狩り、その素材を冒険者ギルドに納品する形。

 そしてもうひとつが依頼を受け、護衛や魔物狩りを行う形だ。


 基本的に初心者が行うのは前者の方だ。

 後者は一定以上実績を詰んだ冒険者に指名という形ではいることがほとんどで、自発的に受けられるものでは無いのだ。


 と、言うわけで街から三十キロほど離れた森の中へ目当ての魔物を探しに来ていた。


『グギャッ、!』


 間抜けな声とともに現れたのは、子供くらいの背丈で痩せこけた体躯の化け物。

 今回の対象、ゴブリンだ。


 その手の鋭い爪で切り裂かんと、迫ってくる。


 ギルドに登録したのは今日だが、ゴブリンと戦うのは初めてではない。


「だから、知ってる」


 いつもこの動き、いつもこの攻撃。

 魔物は、一説によると生き物ではない。

 神々が試練を与える為に生みだしたハリボテの命。


 だからなのか、低級の魔物になればなるほど予め決められているかのように毎度同じ動きをするのだ。


 大振りの攻撃をよけ、隙ができた所を長剣で切りつける。


「ふぅ、とりあえず1匹だな」


 ゴブリンの腹を開き、中から魔石を取り出した。

 この魔石というのは、魔物にのみ存在する心の臓。

 ギルドで買い取って貰える大切な収入源。


「あと、二匹くらい探すか」


 問題なく戦えた、問題なく倒せた。


 大丈夫、僕は戦える。


 その日は何事もなく狩りを終えた。


 ◇


『戦士系統の『物語』持ち募集中です!』


 時刻はお昼をすぎたところ。

 三つの小ぶりな魔石を持ってギルドに戻った僕は、ギルド内での呼び掛けに耳を傾ける。


 彼等はパーティを組むために声をかけていたのだ。

 魔物と戦うなら当然一人より、二人、三人の方がいい。

 だから、その仲間を募集していた。


 人には生まれ持った役割があって、神様はそれを「物語《まほう》」として人々に与えた。


 戦うべき者には、戦士の物語を。

 商いをするべき者には、商人の物語を。

 そして英雄に成べき者には、英雄の物語を。


 彼等が求めていたのは戦士。


 僕では、なかった。


 なのに。


「そこの君!見たところソロのようだね!良かったら僕のパーティに入らないかい?」


 声をかけてきた。


「あ、いやぁ、その」


 軽装備に身を包んだ好青年。

 屈託のないその誘いに思わず口ごもる。


「おや、その手に持ってるのはゴブリンの魔石だろ?ソロってことは戦士系だね!ちょうど募集してたんだ」


 グイグイと誘う青年に、断りを入れようとした時。

 その後ろにいた男が声を上げた。


「あれ……?お前、ライトだろ!?」

「あ……、アザーくん?」


 最悪だった。

 そこにいた彼は同郷の人間。

 五年前、十歳の頃に言い渡された僕の物語を知る人間。


 誰もいないところで一旗揚げようと出てきたのだ。

 故郷から離れ、新天地で冒険者になるために。


「クラドさん!そいつ誘ってもしゃーないっすよ」

「え、なんでだい?ちょうど戦士系を探して……」

「だってそいつ、『道化クラウンの物語』っすよ?」

道化クラウンって、あの大道芸とかの?」

「そうそう、だから他のやつ探しましょ」


 僕を誘った青年は、気まずそうに視線を逸らす。


『なんで、道化師なんかが冒険者やってんだか』


 そんな声がどこからが聞こえた。


「ま、まあ。無理に誘ってごめんね。頑張ってくれ」


 逃げるように青年は他の人を探し出す。

 元々期待していた訳では無いし、いつかはバレるかもしれない事だった。


 だが、悔しかった。


 どこからかくすくすと笑う声が聞こえる。

 それはまるで、道化の物語を指し示すように。

 愚かに、惨めに思えた。


 ゴブリンの魔石を3つ納品した後、逃げるようにギルドから帰った。


「どうだった?初依頼は」


 そうやって尋ねてくるのは宿と併設されている酒場のおじさん。二年前、この街に来た時から良くしてくれている。

 まだ、飯時には早く僕ら以外誰もいない食堂。

 机に突っ伏していた僕は顔だけあげて答えた。


「ゴブリン三匹でした」


 ぶっきらぼうに応える僕に優しく笑いかける。


「はは、新人冒険者にしちゃあ上下出来じゃねえか。ま、坊主に関しちゃ心配はしてなかったが……なんでそんなにへこたれてんだ?」

「いや、実は……」


 そう言って話すのはギルドでの出来事。

 おじさんは僕の魔法が道化の物語であることは既に知っている。

 だから、包み隠さず全部話した。


「なーに腐れてんだ」


 そう言って、一発。遠慮なく頭をどつく。


「痛っ!」

「お前さんな、俺がなんの物語持ちか知ってるだろ?」


 おじさんの物語は「使用人の物語」。

 料理人の世界に入った時、今日の僕のように散々馬鹿にされたと聞いている。


「結局はな、物語なんてのは道標でしかねぇのさ。神様がくれたもんだかなんだか知らねぇが、自分の物語《人生》は自分で紡ぐもんだ。だろ?」


 そう言ってニカッと笑うおじさんは、そのまま一杯の麺料理を僕の前に出す。


「あの、頼んでないですけど……」

「おめでとう、ライト・ストーリーテラー。俺からの奢り、冒険者デビュー祝いだ。たんと食え」

「ありがとう、ございます」


 この店名物のスープに麺の入った料理を食べる。

 温かく、どこか優しい味。


「なーに、泣いてんだ」

「な゛い゛で、な゛い゛でず」


 ただ、温かく優しい味だった。



 ◇


 心機一転、今日も今日とて狩りに出かける。

 昨日のゴブリンの魔石の利益は銀貨1枚と銅貨2枚。

 銅貨10枚で銀貨1枚の計算だから、1つあたり銅貨4枚の計算だ。


 今泊まっている宿代が1日銅貨8枚だから、今のままでも何とか暮らせるが余裕は欲しい。


 だから、今日は昨日とは違う魔物を狩りに来ていた。


『ブモフッ』



「バレットボア」、イノシシという動物によく似た獰猛な魔物。


 四足、低い姿勢。強い踏みしめからの急加速。


 目で追えないような速度で突っ込んでくるそれを、右に大きく逸れることで回避する。


 その速度と威力から初心者ならば苦戦する相手。

 だが、僕にはおあつらえ向きな│物語まほうがある。


「『無力で素晴らしき影武者ファンタスティック・ミラージュ』」


 その言葉を紡ぐと共に現れるのはもう一人の僕。

 今の僕と全く同じ姿格好をした僕が現れる。


 十歳の頃、初めて物語を授かったあの日から使える僕だけの物語まほう

 人によって物語は千差万別。

 これを貰えたから英雄を諦められなかった。

 いや、諦めずに居られた。


 バレットボアは突如現れたもう一人の僕に戸惑い足を止める。

 どちらに突っ込むが迷っているのだ。

 だがその隙が命取り。


 双方向から迫り来る僕に何も出来ずに、バレットボアはその命を落とした。

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