時には昔の話をしよう 舞台「麗和落語 2025 夏の陣」より

ゆきてとらえよ

 大麦の

畠にかくるる

 小兎を


 こんな冒頭の詩歌がございます。

 バス停に木枯らしの舞う、そんな通学路はあの街から橋を渡る手前で、近くてどこか遠いようで嫌いではありませんでした。

避けて通れたら、遠回りしていたでしょうね。

 当時好きだった子を麓に、ぼくの実家ですが。いざよいの笛を合図に獣のように走り出すことを夢見ていました。走った先にぼくが見つけていたのは1番乗りのうりぼうでもなく、ただただしがない成長期の痒みなのでした。

 こうやって受験を控えていたぼくたちに、先生がちょっとした課外学習の機会を設けて下さったのです。

そうやってその子は辰の子でぼくの恋とまではいかなくても、外で一緒に遊ぼうよと言って良かったなと今でも思います。特にこともなく受験を乗り越える算段はめいめいの意思に秘密裏に委ねられたのです。

 飽きたあなたを知っていても、山の散策はぼくは高校生の頃までよくやっておりました。ちょうど1人じゃなかったと仕事場で青年の目に熱を向けて身体を前は前へと動かすように。ですから、壁の向こうにあなたの今の姿があって高座はひらひらしています。

 ぼくはカメラの家族動画なんかで、決められたレールを密かに共有して、いつかの再会をかしていたのかもしれません。ただ、待つという意識よりかはやはり、ぼくは兎なのだと思う現在です。


島崎藤村「農夫」『夏草』(『岩波文庫 藤村詩抄』初出は春陽堂、一八九八)より、冒頭抜粋

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