（ここは、どこだ……？）

　水の中を揺蕩うクラゲのような感覚だった。

　何となく周囲を見回すけれど、気づけば俺は見知らぬ空間にいた。

（そうだ。俺は確か、死んだはず）

　断片的な記憶が脳裏に浮かんでくる。

　誰も守れなかった。自分だけが最後まで生き残ってしまった。

　なのに、結局は恨みを晴らすこともできず、返り討ちに遭って自分も死んだ。

（これが死後の世界なら、みんないるのかな）

　そう思って周囲を見回すも、どこまでも何もない空間が広がるだけだった。

（みんなを守れなかっただけじゃない。俺は姉ちゃんも悲しませてしまった）

　大切な姉がいる。

　姉の知らないところで自分が死に、後々警察から報告がいったらさぞかし悲しむだろう。

　そんな姉の姿を思い浮かべると、申し訳なくて仕方がなかった。

　姉は両親が死んでから俺の親代わりとしても育ててくれたっていうのに。

（何も恩返しもできていないのに……。俺はいったい何をやってるんだ）

　目の前が真っ暗になる。

　このまま意識がなくなっていくのだろう。

　そう思っていた時だ。

　どくん、どくんと心臓が熱い。

（なんだ、これ。胸が熱い）

　胸の熱さと同時に光が空間に現れた。

　ゆっくりと目を開くと、目の前には巨大な太陽のような光があった。

　熱く、力強い光に俺は思わず手を伸ばす。

　光は筋を伸ばして、俺の腕を伝い、心臓へと流れ込んでいく。

　心臓を起点にして、全身に何かとんでもなく強力なものが巡る感覚、火照る体に力を込めて俺は叫ぶ。

「くっ、うあああああああっ！」

　そうして、俺は光に包まれた。

　◆

「う、うぅ……」

「良かった！　気がついたんだね！」

　目を覚ますと、木にもたれかかっている状態だった。

　そばにいたのは、エマンと呼ばれていた人だった。

「俺、死んだんじゃ……」

　そう言うと、エマンがある場所を指差した。

　心臓の部分を指さしていたので、視線をそこへやると、橙色に輝く鉱石が埋め込まれていた。

「な、なんだこれ……！？」

　驚き、勢い余って立ち上がるも目眩でふらつく。

「危ない」

　すかさずエマンが支えてくれた。

　ゆっくりとエマンに誘導されながら再び地面に座る。

　自分の身体によく分からないものが埋め込まれている事実を気にせずにはいられないが、それよりも友人たちがどうなったか思い出す。

「みんなは？　俺の友達はどうなったんですか？」

　エマンが悲しい表情で自らの背後を示した。

　そこにはエマンが移動させたのであろう。

　友人たちの遺体が並べられていた。

「あ、あぁ……。あぁぁぁああぁぁぁっ！」

　涙がとめどなくあふれてくる。

　喉がかれるほどの絶叫を止められない。

　どうしてだ。どうしてみんな。

　俺だけが生き残るなんて……。

「すまない。僕の力が及ばなかったばかりに」

「あんたたちは何なんだ？　いきなり現れてこんな……」

「説明させてくれるかい？」

　俺は友人たち一人一人に触れていき、ごめんと謝罪した。

　そして、涙の痕を残しながらエマンを見据える。

「僕はエマン。君も見たあの男。コーバックという敵を追って《この世界》にやってきた」

「この世界にって、まさか、あなたは異星人ってこと？」

「厳密には《救星者》って呼ばれてるんだけど、そういう解釈で構わないよ」

　エマンは説明を続けてくれる。

　先ほどの戦闘で、コーバックの攻撃が俺の心臓を貫いた。

　別の星の人間を巻き込んでしまい、エマンは絶望に暮れた。

　自分の目の前で誰かに死んでほしくない。

　本当なら全員を救いたかった。

　けれど、他の三人は既に絶命していて手の施しようがなかった。

　唯一、まだ息が合った俺だけ可能性があった。

　そう思ったエマンは、自分の武器である《スターブランド》から、とても大切な核を取り出して、俺の心臓のあった位置に埋め込んだらしい。

「俺に、武器の核を埋め込んだ？　そんなことで生き返るの？」

「僕の武器である星槍スターブランドは、僕のいた世界の星が生み出した武器なんだ。核には星が誕生してから蓄えられてきたエネルギーを凝縮した鉱石――《マヴェディーシ》が使われている。途方もないエネルギーだ。もしかすればと賭けに出たが、無事勝てて良かったよ」

　エマンの話を聞いていて、俺はさっきまで見ていた夢のことを思い出す。

　夢の中で見た太陽のような力強い、温かな光。

　あれはもしかすると、マヴェディーシの光だったのかもしれない。

　そう思いながら自分の胸に埋まっている鉱石に手を当てる。

　どくん、どくんと心臓のように脈打つ。

　もう人じゃなくなってしまったのかとなんとも言えない気持ちになる。

　が、とりあえず、俺はエマンに感謝を述べた。

「感謝されることなんてないよ。巻き込んでしまって本当にすまない」

「助けてくれたことには感謝します。ただ、自分だけが生き残ったのが許せない……」

「それは君のせいじゃない。すべてコーバックが悪いんだ」

　エマンの口から発せられたコーバックという名前。

　それが、自分たちを悲惨な目に遭わせた存在なのだと認識すると、俺の心に沸々と怒りと憎しみの感情が湧き上がってくるのだった。