第12話 「あの背中が、“焔”になる瞬間を私は見た」

ワカバ視点


 瓦屋根に座る私は、ただ、目を離さずにいた。

 剣士の矜持? 武の美学? ――そんな言葉じゃとても足りない。

 あの月明かりの下にいる男は、燃えていた。誰より静かに、誰より確かに。


「ソーエン……見えないって、そんな無茶を……」


 蒼き焔は禁止。

 それでも彼は、規則と美学の狭間で“焔”を纏っていた。

 違反ではない。ただ、見えないだけ。


 ――いや、“誰にも見えない”のに、“私には感じる”。

 あの時、風が止み、空気が濃くなる感覚。観客たちがざわつきもせず、ただ息を呑んでいた。

 彼の気配が、温度となって戦場全体を染め上げたのだ。


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「剣と剣が語る、過去と今」


 ヨシツネの“千本桜”――それは、演出の極致。

 舞い、咲き、千の手で千の刃を振るう。確かに美しい。

 でも、ソーエンが踏み込むだけで、空気が変わる。


 「……慢心が命取りだぜ。ヨシツネ。いや――“曲芸師”くん」


 あの一言で、空が凍った。

 ソーエンの剣が空を裂き、無数の“桜”を断ち切る一閃。

 私は知っていた。“見えない焔”は、演出ではなく、“感覚”なのだ。


 彼は見せるために戦っていない。

 彼は“届かせるため”に、焔を纏った。


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「私はあの夜、“伝説”を見届けた」


 ヨシツネの刃が震える。

 降参を口にした彼の声は、もはや剣士ではなかった。

 ソーエンの刃が、月を背に静かに光る。


 「我が姫の配下に下れ」


 ――その“姫”が誰かなんて、私は知っている。

 そして、きっとヨシツネも気づいたはずだ。

 その男が、誰のために戦っているのかを。


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✍️あとがき(ワカバの語り)


 観客たちは歓声を上げ、剣士の名を叫ぶ。

 でも私は、ただ呆然と、その焔を見ていた。


 彼は勝った。いや、“証明”したのだ。

 “剣”は演出じゃない。刃先に宿る感覚――

 戦場を焦がす静かな焔は、演技じゃない。生き様なのだ。


 ――蒼き焔の剣士、ソーエン。

 この目で見届けた。あの背中に、確かに“伝説”が宿ったことを。


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