第4話 姉とチートと哺乳瓶
双子の姉、ツカサ——前世では俺の妹だったはずの名前だ。なのに今世では姉として先に生まれた彼女が、すでに対抗意識を燃やしてきている。
俺がハイハイを覚えた日に、ツカサもハイハイを習得していた。まるで、成長速度を競っているかのように。移動距離、腕の角度、テンション。すべてが“勝負”めいてる。
……いや、なんかめっちゃ俺をガン見してくるし。
言葉の習得すら競ってるレベルで、草生え散らかすってやつだ。
「オギャア! オギャア?(言葉を発せぬ今でも…お前、転生者だな?)」
「ばぶ…ばぶ!(あたりまえよ。負けないんだから!)」
「あらあら〜。二人とも、いつも一緒で仲良しさんね〜」
「……ああ。ずっと、こうやって仲良くしていけたらいいよな…」
もちろん、この歳じゃ言葉も文字も通じない。手話くらい知ってれば、少しはマシだったか……とふと思った瞬間。
ふと目にしたNHKの手話ニュース。
手遊びだと思っていた“それ”が、言語として脳に染み入る感覚。あれ……理解できてる?
「だうあぅ…? あう、あう!?(待って…これ、わかる!?)」
もしかして——転生の特典は、“関心を持った分野に潜在的な才能が目覚める”系?
興味が才能を引き出す、系のチートスキルか?
「だうあうだぶう!(やったぞ、これチートきた!!)」
「優ちゃん、ニュースを見てからずいぶんご機嫌ね〜?」
「この年齢からニュース理解なんてありえんだろ…。ただテレビが珍しいだけってことで片付けられる。ありがたい」
両親は元アイドル——芸能界のステージに近すぎる家庭環境。なのに前世の俺は働くことを放棄したまま人生を終えた。
今度こそ違う。
「……だうあうだぶう!(今世では、働く! 本気で)」
決意と共に、哺乳瓶のミルクをごきゅごきゅ飲み干す。
この一滴が、語られる俺の新たな一歩になる。
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