07
「あ、こんにちは」
まさか二度目があるとは思っていなかったから固まった。
「おーい?」
「ああ、姉とはどうだ?」
「普通に仲良くできているよ、勝手に不安になっていただけだったからね」
「そうか」
これぐらいしか聞きたいことがないからこれで終わりだ――と片付けて挨拶をして別れようとしたら腕をがしっと掴まれてしまった。
「奏子さんや蘭子じゃないからって流石にどうかと思うけど」
「いや、私達は友達ではないだろう?」
私なんかと話をするぐらいなら彼女の姉のところにいった方が遥かに楽しめる、また、先程まで過ごしていて過剰になってしまうということなら他の友達のところにでもいけばいい。
私みたいに家族以外とは一緒にいられない人間はなかなかいないからな。
「でも、共通の友達がいるでしょ? あなたにとっては家族だけどさ」
「言いたいことがあるなら言えばいい」
「そうしようとしたのにあなたが逃げようとするからだよ」
逃げる、ねえ。
なにも怖くない彼女から逃げてどうするというのか説明してもらいたいものだ。
「連絡先を交換しようよ」
「まずその前に自己紹介ではないか?」
「ああ、そうだった。私は――なに?」
「いや……」
妹がいたような気がしたが勘違いか。
「私は
「そうか、よろしく」
「次は連絡先ね」
「ああ」
友達になったら即交換が普通みたいだから違和感は――ある。
私に用事があるとしたら直接来ればいいしなにかがあったら姉を頼れば情報を得ることは可能だからだ。
なんかこれだと人の彼女とこそこそしているように思えてくるから後でちゃんと話をしておこうと決めてスマホをしまった。
「でさ、蘭子がさ」
「ああ」
「なんかね、すぐに触ってくるの、髪とか手とか色々なところにさ」
「そうか、姉らしいな」
家族に対してだってそうだったのだから好きな人ができればもっと出していくに決まっている。
というか、好きな人に触れられて気になるものかと考えていたら「でも、好きだからいちいち気になっちゃうというか……」と乙女みたいなことを言ってくれた。
「ならやり返してやればいいだろう」
姉は自分がやるのはよくてもやられるのには弱いから攻めてやればいい、そうすれば少なくとも場所は選ぶようになる。
その場合は二人きりになれたときに過激になるかもしれないからそうなったら上手くコントロールすればいい。
条件みたいなのを出すのも効果的だ、私はそれで姉と上手くやってきた。
「攻め攻め唯になるってこと?」
「あ、ああ」
急に姉みたいになるのはやめてもらいたいがそうだ。
「んーできないことはないけど……」
「まあ、そこは自由にしてくれればいい」
「お手本を見せてよ」
「姉相手にしていいのか?」
「うん、家族ならノーカウントだから」
それなら早い方がいいということで突撃をした。
今日も今日とて寝ていたから普通に起こしてから頭を撫でてみた。
「おお、まさか雪の方からしてくれるとはね」
「こんな感じだ、ただいまの私では効果が薄いみたいだから伊藤がやってみてくれ」
「わ、わかった。えっと、これぐらいの力加減で……」
「くふふ、いつもツッコミを入れてくるぐらいだったのに結局唯ちゃんが触りたかったってことなんだね?」
うん、こういう誰か他に人がいる状態では冷静だが二人きりになった途端に、というパターンだろう。
多分成功だ。
「ねえ、これ逆効果じゃない?」
「照れ隠しだろう」
「どうかな~?」
「ねえ、絶対に違うよこれ」
ふむ、それなら昔の私は結構影響を与えられていたのかもしれない。
いまとなってはなにも意味のないことだが積極的になっていたら姉と、なんて可能性もあったかもしれない、なんてな。
「見ていました、また頼まれて動いていたんですね」
「ああ」
「でも、お姉ちゃんの頭を撫でる必要はなかったと思います、それに本当に求めている人間がここにいます」
真顔でふざけるところは妹である程度耐性ができていたと思っていたが……。
それにこういう行為はたまにされるからいいのであって短期間で何度も繰り返されてもただ価値がなくなっていくだけではないだろうか。
勉強なんかは私よりもできるのにそういうことはわかっていないことが不思議だった。
「そう気にしなくたって奏子に対しては何度もしているだろう?」
ただ、わかったうえで求められたからと繰り返している私も同じようなものか。
「そう考えると雪さんって残酷な人ですね」
「残酷になるかどうかはこの先の私の行動次第だ」
「だってこの手でお姉ちゃんにも自由にやってきたわけですからね」
「でも、もう伊藤の彼女だからな」
一緒にいられて嬉しいとかそういうことを恥ずかしがって言ってこなかったのだから距離ができて当たり前だ。
姉に対しては変な感情があったから絶対に手が届かない距離になってよかったとすら思う。
「あ、いま地味にショックを受けませんでしたか?」
「どうだろうな、もう授業が始まるから戻るぞ」
「あ、はい」
その後は特になにもなく今日も無事に放課後になった。
いちゃいちゃ組がいちいちこちらに〇〇にいってくると残して出ていって、クラスメイトも微妙な状態になっている間に出ていって一人になった、はずなのだが。
「いたのなら声をかければいいだろう?」
なんとなく意識を向けた際に顔が見えたら私でも普通に怖い。
「最近はこういうことも増えましたね、お母さんが早く帰ってくるようになったからですか?」
「いや、そんなことはなかったのだが」
確かに三十分ぐらいは早く帰ってくるようになった。
姉にアドバイスされたのもあって変に避けずに、かといって積極的に話しかけるのは無理だったがなるべく顔に出さないように努力をした結果、少しはマシな感じになった。
だからこれは関係ない。
「それなら私がぐいぐい来て困っているからですか?」
「奏子、私は別に奏子が私に対して積極的になっていることについて嫌だと感じたことはない。いまは夏でこれぐらいの時間が一番暑いからだ」
夏の少し薄暗くなった時間に歩いていることが好きだった。
それぐらいの時間なら大して暑くないうえにそれぞれの家からいい匂いがしてくるからわくわくする。
だが、本当は家に帰ったら誰かがいてくれて誰かがご飯を作ってくれていることを期待しているのかもしれなかった。
本当に小さい頃以外は自分で作ることが当たり前だったからな。
まあ、仕事をしていた母より遅く帰る小学生なんて塾とか仕方がない事情がある場合以外は問題でしない、待っていたところでただお腹が減るだけだから当たり前と言えば当たり前なのだが。
「奏子も嫌ではないならゆっくりしたらどうだ?」
「わかりました、それなら今日もここに座ります」
「ああ、それでいい――こちらを向くのか」
同性とか異性とか関係なくこれだと外の人間と仲良くできなくて妹に手を出すやばい姉みたいに見えてきたりはしないだろうか。
「顔を見られないと寂しいですからね」
「ん? なにか塗っているのか?」
「あ、お姉ちゃんから貰ったんです」
「え、蘭子はお化粧とかに興味はないだろう?」
「伊藤先輩から勧められたみたいで結構影響を受けているみたいですよ?」
そうか、なら今日も気が付かなかっただけで妹みたいに塗ってみたりしていたかもしれないのか。
段々とそっち方向に本格的になっていく姉は……見たくないな。
知らないよという話でしかないがそれこそ私にとって残酷なのは姉なのかもしれな、い?
「何故抱きしめられているのだ?」
胸が大きくなくてよかった、もし大きい胸のせいで呼吸ができないなんてことになったらいよいよ終わる。
相手が妹だからこそだ、少しぐらいは妹に勝っているところもあってほしいだろう。
「悲しそうな顔をしていたのでしました」
「ああ。はは、残酷なのは蘭子だからだ」
「やっぱり……」
姉に関することで勘違いをされているみたいだから答え合わせがしたいのもあった。
今度こそ終わりだ、もうこれ以上広げることはない。
「だが、勘違いはしてくれるなよ、本当に特別な好意があったとかではないからな」
「いちいちそうやって言わない方がいいと思います、それこそ疑われますよ」
「疑ってもいいから奏子はわかりやすく行動をしてくれ」
とりあえず今回も抱きしめることはやめさせた。
座らせておくのもいまの気分的に微妙だからやめさせて窓際まで移動する。
窓際だったら向こうにばかり意識を向けていていつまでも帰らずにいただろうからその点については感謝しかない。
「奏子は窓際の席だろう? いつもどんな感じなのだ?」
「夏になってからは暑いです」
「はははっ、確かにそれは気になりそうだ」
メリットがあればどんなことにもデメリットがあるのは当たり前か。
そこまで極端に弱くはないが暑くて一人教室内で汗をかいていたら変人どころではないから廊下側だったことに感謝をしておこう。
「でも、たまに雪さんが体育で活動しているところを見られるのでお得な気分になるときもあります、あとお姉ちゃんも見えますがはっきり言って目立ちすぎていてこちらが気になります」
「とはいえ、女子はほとんど体育館で活動しているからな」
「だからこそですよ」
「そうか」
私は意識していないときにたまたま妹や姉を発見できたときが新鮮でよかった。
先輩は自由行動をあまりしていないからそういうことも全くないのもあって本当に存在しているのかと不安になってくるときがある。
それでも姉と一緒に来たりするときもあるから妄想とか幽霊ではないことは確かだった。
「そろそろいいですよね、アイスでも食べながら帰りましょう」
「わかった」
予想していた時間よりも早かったからまだ少し気になるレベルではあったがいちいち言ったりはしない。
途中のコンビニで約束通りアイスを買って食べながら歩いた。
その後に母作のご飯を食べたわけだが普通に私よりも上手で複雑な気持ちになったのだった。
「ここ、ずっとあなたといきたかったの」
「思い出の場所とかですか?」
「元彼氏が教えてくれた場所だったのよ」
そうか、これも忘れがちになるが先輩は経験者か。
私よりも遥かに進んでいた先輩は妹に興味を持ち、本人にもそのままぶつけた。
だが、そこで受け入れられるかどうかは運で、上手くいかなかったことはまた私のところに多く来るようになったことからもわかる。
「学校に来なくなったりしなくてよかったです」
「ああ、あの日のことは本当に恥ずかしいわ。それなのにあなたは馬鹿にしたりはせずになんならお店にまで付き合ってくれたわよね」
「壁にぶつかってしまったことが本当ならそのまま放置しておくことは不安だったので」
壁にぶつかっていなくても本人から聞いてほしいことがあると頼まれたら受け入れるしかない。
逆にあそこで無視をして帰ってしまうような人間ではなくてよかったと思う。
「本当にぶつかったのよね、人生で一番携帯の画面を見ていた日だったわ」
「いい方にも悪い方にもすごいですね」
「そうなのよ、ただあなたと話をしていたら落ち着けて……」
「少しでも役に立てたのならよかったです」
うん、先輩は感情的になることも少ないから落ち着いて相手をできる、ただいまとなっては妹みたいな過ごし方も嫌どころか歓迎しているぐらいだからみんな違ってみんないいというやつだ。
私はどうなのだろう?
「待って、私はあなたのことを好きになるべき――きゃっ」
「ちゃっかり進めようとしないでください」
いつの間にか存在していて止めようとするのはいいのだが急に両手が見えたら冬でもないのに震えてくるからやめてもらいたい。
というか、どうして毎回毎回素直に声をかけないのか。
「もう……奏子さんはいつもどこからか見ていて聞いているわよね」
「当たり前です、雪さん関連のことなら尚更です」
「もう少しぐらいは優しくしてちょうだい、私だって雪さんといたいのよ」
そうだな、出会ったからにはすぐに終わりにはしたくない。
かといって一方通行では意味がないから相手から言ってきてくれているのはいいことだった。
「ただ一緒にいる分には問題はありません」
「……すぐに止めるくせによく言えたわね」
「なにか?」
「いえ、なんでもないわ」
仲良くなりたいなら自然と出てしまう怖い顔にも負けずにぐいぐいいくべきだ。
それは私にも刺さることだから最近は意識して気を付けている。
これが意識せずにできるようになったらそのときは、うん。
「さ、帰りましょう」
「ふふ、そうね」
「ああ」
まあ、本当のところを知ろうとこの二人がお似合いなのは変わらなかった。
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