第35話 ダンジョン改造

 報酬が置かれる壁際の台のところに行くとテニアスは新たな収入を確認する。

 機能を追加したため新たに手に入るようになった支払い明細を見て首を傾げた。

「10人分しか入っていない。どうしてだろう? 5人と6人で11人分のはずなんだけどな」

 テニアスが詳細を確認すると、どうやら魔法使いを倒した分の報酬が支払われていないことが判明した。

 念のために倉庫に確認しにいくと首に刺し傷の残る魔法使いの遺体は相変わらずそこにある。

 うろうろしているテニアスが気になったのかシャーガルが飛んできた。

「どうしたの?」

「うん、報酬が足りなくてさ。魔法使いの分の報酬が支払われていないんだ」

「それってエゥリィが倒した分だからじゃない? 彼女ってあくまで冒険者でしょ」

「そういうことか。まあ、私が倒したわけじゃないのは確かだね。それじゃ、例えば魔法などで混乱させて冒険者が同士討ちしたときの扱いはどうなるんだろう」

「それは大丈夫。ダンジョン経営指南書の状態異常のページに支払われるって書いてあった。マスターも読んでみる?」

 シャーガルはひらりと飛んで書棚の1冊の前で停止する。

「さすがだね。ありがとう。助かるよ。でも、シャーガルがそう言うなら間違いない。後で勉強するけど今は直接確認しなくてもいいや」

 索引の妖精シャーガルは羽を震わせて1回転すると空中で優雅に一礼した。

「マスターのお役に立てて光栄です。他にお知りになりたいことは?」

「管理者の許可がない限り誰も入れない部屋をダンジョン内に作ることは可能なのかな?」

「それってほぼ管理室のことでは?」

「そうなんだけど、エゥリィは入れないだろ。このままだと今いる場所に冒険者が到達しちゃうし、かといってそれを阻むために強力なモンスターを放てばエゥリィがやられてしまう。だから、どこかにエゥリィを隔離する必要があるんだ。サブ管理室のようなものができないかな?」

「作れますけど入室制限が通常の管理室と同じようにかかりますね」

「そうか。ダメか」

「マスターがもう少し成長すればエゥリィを眷族化できると思うんですけどね。そうしたら、管理室への入室を許すことができます」

「すぐには無理だよね。それじゃ間に合わなそうだ」

 テニアスは困った顔で思案をする。

 その様子を見ていたシャーガルが1つの提案をした。

「特定の品を身につけていないと動作しない仕掛けというのは作れます。最も深き迷宮で第8層に下りるために必要なエンブレムは有名ですね、同じようなものを導入してエゥリィだけに持たせるんです」

「なるほど。それはいいアイデアだね」

「まあ、この手の愛人宅の鍵は高いんですけどね」

「ん? 愛人宅の鍵ぃ?」

 テニアスが素っ頓狂な声を出す。

 シャーガルはニヨニヨとした。

「特定の相手にだけ入ることを許すアイテムをダンジョン界隈ではそう呼ぶんです」

「ああ、そういうことか。さすがシャーガルは色々と知っているなあ」

「そんなことは……ありますよ」

 エヘンと誇らしげな顔をする。

 そして、すぐにシャーガルは悪い笑みを浮かべた。

「本当に愛人にしちゃうという手もあるんですよ。眷族化の1歩手前ってことで」

「うーん」

 テニアスは渋い顔をする。

「そもそも眷族化にも気乗りしないんだよね」

「マスターは潔癖だなあ」

「そういうんじゃないよ。これまでも自由を奪われていたのに、また私に強制的に従わされるのはちょっとね。奴隷から奴隷なんて嫌でしょ?」

「そういうマスターだって従わされている相手がいるじゃないですか」

「私はそれしか選択肢が無かったから。そういう究極の選択は私だけで十分だよ。それでさっきの話だけど、どんな仕掛けがいいかな?」

 話題が元に戻ってシャーガルはつまらなそうな表情になった。

 それでも問われれば真面目に答えようとする。

「それなんですけど、ちょっと工夫が必要だと思います。単純に開かない扉があるだけだと冒険者の興味を引きますよね。中には力技で突破しようというのも出るかもしれません」

「まあ、好奇心は刺激されるだろうな」

「なので、反応しないんじゃなくて、特殊なアイテムの有無で行き先が変わるようにする必要があるんです。扉だと難しいので、例えば円筒形の部屋を作って扉のついた壁ごと左右に回転するようにします。上から見て右回転か左回転かをアイテムの有無で変わるようにして、その先に通路を用意しておけば疑念は抱きにくいでしょう」

「ああ、なるほど。転移床の行き先を変えるのでもいいか」

「転移床はめちゃくちゃ設置費用がかかりますけどね」

「そうか。全部でいくらぐらいかかるんだろう?」

「実際にかかる費用はノームに聞いてみてください」

 テニアスはアイデアを書き起こしてノームに見積もりを依頼した。

 概算額はテニアスの想像を遙かに超える。

 10名分の収入があったのでなんとかなるのではないかという考えが甘いことを悟らされた。

 新たに第5層を作り天井を高めにして圧迫感のない場所を作るというのが当初案である。

 完全に分離した2つの空間を作って片方をエゥリィ用にするつもりだった。

 第5層への階段も2つ用意してシャーガルが言ったような小部屋で左右に行き先を振り分ける。

 しかし、無い袖は振れないのだった。

 1番費用がかかるのが第5層の作成だったので、それをまず諦めることにする。

 とりあえず当面の間だけ我慢してもらうということで第2層にもともとあった部屋をエゥリィ用とした。

 これだけではすぐに次の冒険者が到達してしまう。

 そこで廊下からその部屋に通ずる通常の扉を中から外への一方通行の隠し扉に変更した。

 このままでは隠し部屋に入れないので転移床から跳ぶようにする。

 相談したノームからは新たな転移床の設置も費用がかなりかかると言われ、仕方がないのでこれも取りやめた。

 第2層に設置済みの転移床の行き先を2つに分け、指輪を行き先の切り替えアイテムとして指輪ありの場合はこの部屋に跳ぶようにする。

 これなら手持ち資金で足りたし、工期も僅かな時間ですんだ。

 再び転移床を稼働させてからテニアスは鍵を使って第4層に行き、エゥリィに指輪を渡し、てくてくと歩いて第2層の転送床のところまで案内することにする。 

 第4層は渦巻き状になっていることもあって、それなりに長い道のりになった。



 ***


 火・木・日の12時に更新に戻ります。

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