第34話 休息
テニアスは苦笑をする。
「私のことを信用できないんじゃなかったっけ。とりあえずは従うって話だったと思うけど」
「それはそうだけどさ。テニアスの方が立場が上なわけじゃない? いつでも私のことをいかように出来ちゃうわけだし、いざとなればいつでも口は塞げるでしょ」
「そんなことを言ってもダメだよ。今はまだ話せない」
「ちぇ。まあいいや。とりあえず、ダンジョンの管理の手伝いをすれば役に立てるわけだよね。何かやらせてよ。そちらの小さな子もお手伝いしているんでしょ?」
エゥリィは退屈そうにしているシャーガルに視線を向けた。
シャーガルはちょうど欠伸をしていたところだったが口に当てていた拳を振り上げる。
「私の名前はシャーガル。小さい子なんて呼ばれたくないわ」
「それは失礼。それでシャーガルはテニアスのことを手伝っているのよね。だったら私にも何かさせて」
シャーガルは空中に飛び上がった。
「やる気があるのはいいけど、あなたに何ができるの? こう見えても私は本に書かれている内容を教えることもできるし、魔法だって使えるわよ」
どうだと言わんばかりに胸を反らせる。
エゥリィはあごに手を当てた。
「うーん。一応ものを投げるのは得意だよ。さっきもやって見せたけどまぐれ当たりじゃないからね」
足下の小石を拾いあげる。
「向こうの壁の色の白くなっているとこ」
手首のスナップを効かせて投げた小石は宣言した標的に命中してカンと音をたてた。
10歩ほど離れた親指大の的に当てるとはなかなかの腕前である。
テニアスは素直に感心した。
「凄いな」
シャーガルも目をパチクリとさせる。
エゥリィは少しはにかむと肩をすくめた。
「当たるは当たるんだけどさ、威力がないんだよね。鎧兜に身を固められちゃうと手も足も出ない。それに手持ちのもの投げちゃったら、もう何もできないし」
「それでも身軽な魔法使いにとっては脅威となるわけか」
「まあ、後ろから狙うとか不意を突けたときとかならね。反撃されたらひとたまりもないから」
「普段はその腕前を隠していたわけだ」
「まあね。でも、もうそんな余裕がないから私の情報はフルオープンです。テニアスには何も包み隠さす公開しちゃいますよ」
「分かった。その投擲の技量の活用方法は後で考えておくよ」
テニアスの返事にエゥリィはニコリとする。
「よろしくお願いします」
「それじゃ、また来るよ。何かあれば声を出してくれれば聞こえるから」
テニアスはそう告げると鍵を取り出して管理室の扉を開いた。
油断なくエゥリィを見ていたシャーガルは声をかけられて一緒に扉をくぐる。
管理室に戻ると開口一番疑念を呈した。
「急に協力的になっちゃって怪しくないですか?」
自分でもよく分からない対抗意識に突き動かされている。
「うーん、そうかなあ。やっと状況を理解してくれたのかなと思っていたんだけど。それに私を騙して何かエゥリィに得がある?」
「ここの管理者になれるじゃない」
「中味がスッカスカでお金もないダンジョンで苦労ばかりなのに?」
「そんな実状は見えてないでしょ。エゥリィの目にはデュラハンを引き連れていて凄く格好良く映っているのかも。それなら乗っ取りたくなっても不思議はないよね」
「だとすると切り札の投擲のことは秘密にしているんじゃないかな。まあ、あの魔法使いを倒すところは既に見ているか」
「他にもまだ能力を隠していたりして」
「それでも、そんなに強くはなさそうなんだよな。ここに入って来れなかったわけだろ。つまり私よりも弱いとダンジョンには分類されているわけだ」
「そうかなあ。ところで、話は変わるけど、エゥリィにこの国の王様をおびき寄せて倒すってことは言わないんだ」
「知らなければ誰かに話すことはないからね。生まれたばかりのヒヨコみたいなダンジョンが王様を害そうとしているなんてこの段階で知られたら終わりだから」
「ふーん。前から言っているけどマスターは慎重だよね」
「そりゃそうさ。もともと無理筋の計画なんだから。どこかで躓いたら挽回は難しい」
「そうかもね」
「さてと、私もちょっと休むことにするよ。怪我もしたしね」
テニアスは肘掛け椅子に体を預けると目を瞑った。
普段ならテニアスは睡眠を取ることは必要ない。
やはり、直接冒険者と対峙したことによる負傷は想像以上に体への負担が大きいようである。
どれぐらい時間が経ったのか、ペタペタと頬を触る何かでテニアスは目を覚ました。
それと同時に複数の声が聞こえてくる。
「マスター、起きて。あの声うるさいんだけど」
「おーい、聞こえる? カンテラの油が尽きたんだけど。暗いし何も見えない。ねえ、油補充して。無視しないでよ。まさか、出かけて不在なの?」
ふうとテニアスは息を吐いた。
それから笑みを漏らす。
シャーガルか小首を傾げた。
「この状況に笑顔になる要素がある?」
「賑やかだなと思って」
「えー。邪魔しちゃ悪いと思って私は静かにしているのに。そういうのが良ければいつでも騒々しくできるんだけどな」
「たまにはってことだよ。シャーガルにはいつも助けてもらって感謝してる」
テニアスはそっと手を伸ばしてシャーガルの頭を人差し指の腹でそっと撫でる。
「ん、もう」
乱れた髪の毛を手で直しながらシャーガルはまんざらでもなさそうな顔をした。
「マスターは新しもの好きでしょうがないですね。エゥリィがうるさいので早くカンテラを持っていってあげて……。あ、そうだ。マスターの体の調子はどう?」
テニアスは服の焼けた部分の体を改める。
すっかり傷は塞がっていた。
「大丈夫みたい。前よりも調子いいかも」
「なら良かった」
「心配してくれてありがとう」
テニアスはシャーガルに頷いてみせる。
それから棚に歩みよった。
棚には今までの犠牲者が残したカンテラがいくつも置いてある。
それを2つ手にしたテニアスはその状態でゆっくりと呪文を唱え始めた。
詠唱が終わると両手を寄せる。
カンテラが融合して1つになった。
テニアスは満足げな表情をする。
「よし」
「どんなのができたの?」
「燃料が長持ちする。通常のものの10倍は灯していられるんじゃないかな」
「凄いじゃない。あ、でも、冒険者にはあまり必要ないか。カンテラ頼りの初心者は半日も使えれば十分だし、何日も連続でダンジョン攻略するような腕なら魔法の明かりを使うもんね」
「ということでエゥリィに渡してくるよ」
カンテラに火を灯し扉を開けて第4層に歩み出るとすぐにエゥリィが寄ってきた。
「遅いよ」
文句を言うが先ほどまでの勢いはない。
「ごめん。疲労が大きかったみたいで意識が戻らなかったんだ。それで、このカンテラなら相当長持ちするから」
テニアスは手にしていたものを渡した。
「ありがとう」
「それじゃ、私は戻るね」
「そんなに急いで戻らなくてもいいでしょ? 少し話がしたいんだけど」
「いや、このままだと冒険者がここに到達するのは時間の問題だからね。途中の備えを手厚くするか、もっと安全な場所を作るかしないとエゥリィが危険だよ。何ができるか検討したいので色んなものが揃っている場所に戻らなきゃ。食料はまだ足りるよね。何かあればまた呼んで」
つまらなそうな顔をするエゥリィを残してテニアスは鍵を使って管理室へと戻る。
置き去りにされたエゥリィは唇を尖らせた。
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