第19話 コンビネーション
機転を利かしてブラッドバットとの戦いを回避した次にジャグラッドの洞窟へ入ってきたパーティは散々な結果となる。
ブラッドバットが通路に放たれているという情報に、後衛は射手2人に神官1人という構成だった。
射手は投げ網弾を発射するクロスボウを手にしている。
これは発射と同時に錘をつけた網が広がって標的を絡め取るものだった。
素早く空を飛ぶ複数の相手に対して威力を発揮する。
ブラッドバット対応としてはいい選択だった。
問題はテニアスによって新たに隠し部屋に補充してあったスケルトン3体が加わっていたことである。
薄暗い住処から明るい通路に追い出されたブラッドバットは枝にぶら下がっているのが常態だった。
捕まる形状のものがない通路においてドアの把手は貴重な突起物である。
ブラッドバットがぶら下がることで隠し通路が開いていた。
1つの空間における組み合わせによっては2種族のモンスター同士でつぶし合いが始まることもある。
ただ、スケルトンは侵入してきた人間を殺せと命じられており、ブラッドバットは対象ではない。
もう一方でブラッドバットからすれば血の流れていないスケルトンには全く興味がなかった。
ほとんど置物のようなものである。
このため、スケルトンもブラッドバットも獲物がおらず、待ち構えている状態だった。
そこへ侵入してきた冒険者たちは異なるモンスターの連合軍に面食らうことになる。
キイキイと鳴きながら群れて飛んでくるブラッドバットに投げ網を発射して数匹をまとめて無力化するまでは良かった。
あとは難を逃れた数匹を倒すだけだと前衛が勢いづく。
そのタイミングで角を曲がって現れたスケルトンに驚愕することになった。
脅威度ではブラッドバットよりもスケルトンの方が高い。
戦士たちはスケルトンを優先的に叩くことにする。
この判断自体は正しい。
けれども戦士たちはブラッドバット対応として軽めの武器を所持していた。
斧やハンマーなどの打撃力に優れた武器を持っている者がいない。
これは骨を砕くことで行動不能にするスケルトンとの戦闘において不利となる。
ベテランであれば対処のしようもあったが初心者には難しかった。
加えて数が減ったとはいえブラッドバットもまとわりつく。
さらにこのパーティは後衛が射手2名だった。
クロスボウは1度発射すると再び投擲物を装填するのに時間がかかる。
もともと手元に用意していたのは投げ網弾だった。
スケルトンに打撃を与えられる
この間に顔に張りついたブラッドバットのために気が削がれた戦士が脇腹を斬られ倒れた。
数が減り戦士2人への負担が大きくなる。
「助けてくれ!」
花形である前衛の誇りをかなぐり捨てて後衛に支援を要求した。
射手の1人はようやくボドキンのセットを完了してスケルトンに向かって撃ち放つ。
宙を飛んだ矢はスケルトンが武器を持つのと反対の手に命中した。
尺骨を粉砕するが行動に支障が出るほどのダメージではない。
もう1人の射手はクロスボウを構え慎重に狙いをつける。
そこにブラッドバットが一直線に向かってくるのが見えた。
コウモリの一匹にできることなどたかが知れている。
冷静な判断ができるならブラッドバットは無視してスケルトンを撃つべきであった。
だが、目の前の脅威を無視できずクロスボウの先端を持ち上げてブラッドバットを撃つ。
錘入りの膨らんだ矢じりが直撃しブラッドバットは即死した。
やったぜという高揚感が射手の中で湧き上がったと同時に冷める。
2体の相手を強いられていた戦士が血しぶきをあげながら床に倒れた。
最後に残った戦士は大振りの一撃を自分の相手に加える。
スケルトンが下がりながら受けた隙に身を翻すと背を向けて逃げ出した。
倒れた2名の戦士にスケルトンがさらに攻撃を加えて膾にしている間に後衛のところまで逃げてくる。
「おい、引き上げるぞ」
戦士は返事を待たずに扉を開けた。
前衛がいなくなってはどうしようもない。
後衛の3人も脱出するしかなかった。
三叉路まで引き上げると仲間を捨ててきたことに対する後ろめたさが大きくなる。
引き返して遺体の回収をすべきか逡巡した。
最初にダンジョンに入ったパーティで1人生き残ったリーレルに対する周囲の目線も思い出す。
「やはり、あいつらを捨ててはおけない」
「1人でなんとかなるの?」
「それは分からないが……、クロスボウを1発ずつ当ててくれればなんとかなるはずだ」
「応援を呼んでこよう。その方がいい」
そんな議論をしていると逃れてきた扉が開いた。
「スケルトンソルジャー! 追いかけてきたの?」
スケルトンは押すや引くといった動作をすることができる。
人間を殺せと命じられているために追いかけてくるのは当然といえば当然だった。
実は片手を粉砕された1体はもう一方の手に斧を手にしているため把手を引くことができない。
そのため、追いかけてきたのは2体だけだった。
しかし、そんな事情は冒険者たちは知らないため、すぐにでも3体目が現れるかと浮き足立つ。
あいにくとまだ新たなボドキンをクロスボウにセットすらしていない。
こうなると歯ぎしりしながらも後退するほかなかった。
駆け足で通路を巡り階段を上って外へと出る。
日の降り注ぐ空の下で戦士は外壁を拳で叩いた。
「くそっ」
激情をほとばしらせると町へと歩き出す。
「ぐずぐずしてないでギルドに戻るぞ」
ギルドに戻るとその辺りでだらだらしている連中に声をかけまくった。
ただ、2人欠けたパーティに助太刀しようという者はいない。
そもそも、ジャグラッドの町でギルドにダンジョン入りを認められた冒険者は少なかった。
その認められた者が挑戦してこの体たらくである。
戦士は広間の隅っこに1人で座っていたリーレルに声をかけた。
「手を貸してくれ」
リーレルは座ったまま体をビクッとさせる。
「なんで私なんだ?」
「スケルトンとやりあったことあるだろう? それに全くの新人よりは体が強化されているはずだ」
他のメンバーが全員死亡した日にリーレルはスケルトンを倒している。
僅かとはいえ強くなっているという実感もあった。
実際のところ、まだ許可が出ないでギルド内でくだを巻いている連中よりリーレルの方が実戦においてしぶといはずである。
ただ、リーレルは救援要請に応ずるには複雑な気持ちを抱いていた。
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