第136話 ひと段落は後日談の始まり




「金が欲しいかァー!?」

『おー!』

「お金が欲しいかァー!?」

『おー!』

「そんじゃあ掘って掘って掘りまくれェー! 緊急クエスト! 『新秋!聖堂騎士団主催』、開幕! ドンドコドンドンパフパフパフーンッ!」

『おおおおおッ!』




「なにこれ」




 俺達の目の前で繰り広げられるは、まるで宗教団体の集会染みた熱狂。実際この場所が聖堂騎士団鬼の涙の詰所前広場であることを踏まえれば、宗教団体の集会というのも間違いではない。


 しかし、木製メガホンを握り叫ぶタマモを除けば、この場に居る人間は冒険者ばかり。

 いかにも新人って風貌の冒険者から、ベテランの風格を漂わせる有名なパーティーもチラホラ見える。


 中には〈紅葉おろしのリーマ〉の姿も──ひっ、目が合った。


「さあさあさあ! 第二回目となりました──もとい、金鉱採掘依頼! 依頼の主旨は前回同様、免罪符の原料となる金の採掘となっております!」

「免罪符とはなんですか?」

「では、説明いたしましょう!」


 疑問を呈したのはマインだが、首を傾げる冒険者は一人二人ではない。

 ちょうどいいタイミングだと、タマモはフンスフンスと鼻息を荒くし、声を張る。


「免罪符とは! 要は魔人化を抑える術式が描かれた巻物すくろーるです!」

「魔人化とはなんですか?」

「魔人化とは! 体内に存在する魔の因子が増殖し、肉体が変化した状態です!」

「魔の因子とはなんですか?」

「魔の因子とは! 遡ること神話の時代──」


『遡るなー!』

『何時間掛かんだ!』

『そんな調子で大丈夫か?』

『大丈夫だ。問題ない──うっ!』

『おい!? 言ってる傍から貧血で倒れる奴が!』

『神は言っている……ここで死ぬさだめではないと』


「なんと!? さすれば──でぇい! 〈回復魔法ティオ〉!」


 一番いい装備頼みそうな人は、間もなくタマモの〈回復魔法〉によって治癒された。

 けれどナイスタイミングだ。このまま質問で本題が進まない方が問題である為、質問したくて堪らないマインには後ろに下がっていてもらう。


「後でアスお姉ちゃんに教えてもらおうね~」

「了解いたしました」

「えっ」


 さて、解説役のタマモは大袈裟なくらい身振り手振りを──いや、それ意味あるのか? ってくらい謎の動きを交えつつ、改めてクエスト内容の解説に移る。


「やることは単純! 金が必要だから掘って掘って掘りまくる! これに尽きます!」

『掘った量で報酬は変わるのかー!?』

「当然! 今回の依頼は歩合制! 掘っていただいた量に比例して報酬金も増えます!」

『掘れなかったらタダ働きなのか!?』

「そこはご安心を! 最低保証はありますとも!」

『金以外に掘り当たったらどうなるんだー!?』

「銀や銅などの貴金属も免罪符の材料となるので回収いたします──が、しかァし! 引き取りの際、きちんとその分の報酬金は上乗せいたします! いたしますともォ!」

『うおおおお!』


 ライブに来た時のような熱狂の波が俺達の周囲で巻き起こる。

 そして俺達は初めてライブの熱量についていけない新参者。たとえ今ここでウェーブが始まったとして、俺達は付いていくことができないだろう。

 現に、人探しが旅の中核をなすうちの面子は食指が動かないご様子だ。


「……言われるがまま付いてきましたけど」

「オレ達がやる必要はあるのか……?」

「こんなにたくさん人居るもんね……」




「ただし! 彼の大迷宮〈金字塔〉は魔物の巣窟……とある勇敢な冒険者の手により迷宮主は討たれたものの、未だ凶悪な魔物が闊歩しております。彼の魔物を打ち払い、魔人となった無辜の民を救えるのは我々だけだッ! さあ、今こそ弱き人々の為に立ち上がりましょー!」



「仕方ないですねぇ……ちょっとだけですよ?」

「ツルハシを握るのは久しぶりか」

「えへへっ。実はちょっと採掘してみるの夢だったり……」


 お前らへの愛が留まるところを知らない件について。

 という訳で、我ら人助けジャンキーはもれなく金鉱採掘クエストに臨むことが決定した。なんとも救えない救世主の集まりなのであった。




「──〈金字塔〉……?」




 この一人を除いては。




 ***




 マインにとって、それは聞き覚えのある単語だった。


(金字塔……)


 虫食いの記憶の中、その風景は際立って輝いていた。

 目も眩むような黄金が四方八方を覆っている、まさにこの世の黄金郷。俗人であれば──否、たとえ高潔な精神を宿す聖人であろうと、その場に居れば変心の末、俗物に成り下がるであろう。


は……?)


 ただし、マインが視ていた部分は違った。


 黄金の風景。

 虫食いの風景。


 ああ。

 その人型の虫食いさえなければ、もっと綺麗に輝けているだろうに。


(違う。じゃない)


 微かな記憶の残滓の中、黄金以上に輝くモノもあった。


 それは人型で。

 互いを心配し。

 互いを鼓舞し。

 そして、強大な悪魔を討ち取った勇敢な戦士だった。


 獄卒島で戦った冒険者と重なる彼らも、また冒険者と呼ばれる人種だったのだろう。

 ただし、はそれとはまったく違っていた。


(分からない? ううん、これは……)


 思い出そうとする度、思考が明滅する。


 頭が揺れる。

 息も荒くなる。


 ただ思い出そうとしているだけなのに、まるで全身がそれを拒絶するかのような反応を見せるのだ。


 それでもマインは試みた。

 感覚としては深淵を覗き込む行為に近い。


 同時に、マインは気がついた。

 自身にとって、それが深淵を覗き込む行為に近いのだ、と。


 理解した時、マインの目には自分の顔が視えていた。

 目の前には黄金の壁がある。

 曇りも陰りもない貴金属の輝きは、そっくりそのまま辺りの風景を反射してみせていた。






『──?』






「っ!?」


 黄金に映る自分が話しかけてきた。

 鏡に映る自分なら、自分と違う行動を取るはずがない。それくらいの常識があるからこそ、マインは驚愕したのであった。


 その様子を隣に居た人間は心配する。

 チョンチョンと指先で肩をつついてくる人間。マインが反射的に振り返れば、そこには自分より頭一つ分背の高い少女が、心配そうな目をして見つめてきていた。


「マイン大丈夫……? どこか調子悪い?」

「いえ。そういう訳では……」




「それでは本日の説明は以上! 解散──と、その前に! 今回の依頼に参加される皆様の為に、すぺしゃるなげすとをお呼びしております!」




 その傍ら、いつの間にやら進んでいた説明会も佳境に入っていた。


「我々〈鬼の涙ラクリマ・ラルウァ〉団長レイムの、御成~り~!」


 ただし、残念かな。

 只今記憶喪失中の人造人間にとっては、いくら有名な人間がやってきたところで感動も感慨もありはしない。






何故なにゆえ……」






 はずだった。


……」


 首筋に伝わる命を吸われるような感触。

 それが添えられた刃によるものだと理解したのは、マインが背後に立つ男の存在を知覚してからだ。


 妖のような男だった。

 肩から靡かせる外套は、相当使い込んでいるのかボロボロの襤褸同然。藁で編んだ大きな笠の下では、漆塗りの烏の仮面が鈍い光沢を放っている。


 夜道に立っていれば、百人中百人が振り返って衛兵を呼ぶであろう風貌だ。

 威圧感なら魔物にも負けぬ男が、今、合口式で黒漆塗りの刀を、見た目だけは年端もいかない少女の首に添えている。

 この状況だけを見れば事案でしかないが、直前に発した『魔物が』という単語がよろしくなかった。


「え……魔物?」

「あの女の子がか?」

「おいおい……」


 場が緊張感に包まれる。

 中には剣呑な空気に当てられ、自身の得物に手をかける冒険者も居るほどだ。


「ちょっ……ま、待ってください!?」


 すぐさまアータンがフォローに入ろうとする。他の面々も同じだ。

 だがしかし、誰よりも早く動いたのは──。


「ちぇすとぉーーーーーっ!!」

「ゔっ」


 全員の視界を横切る黄金色の残像。

 否──〈鬼の涙〉が副団長タマモは、目にも止まらぬ速さの跳び蹴りドロップキックを、見事『団長』と呼んだ男に見舞わせるのであった。

 余りの超展開、そして超威力。

 詰所よりも高い土煙の下、タマモは男に馬乗りになったまま、その体を海老反り状に引き上げていた。


「なりませんよ団長ォーーーーー!!」

「っ……っ……!!」

「魔物だろうが罪人だろうが、世の為人の為、粉骨砕身働く者は受け入れる!! それこそがアヴァリー教の教えではありませんか!!」


 それは、溜め息が出るほどに美しい駱駝固めキャメルクラッチであった。

 剣呑な空気が一変、白熱したプロレス会場と化したことで現場は困惑一色に染まる。


「あ、あの……」


「魔物だからといきなり刃を突き付けるとは無礼千万言語道断!! アヴァリー神にお代わりし、タマモが団長に制裁致します!!」

「──」


「死んじゃう!? その人死んじゃいます!!」

「待ってください」

「マイン!? 駄目だよ! いくら怖い目に遭わされたからって息の音を止めようとするのは!」

「違います」

「え、そうなの?」


 物騒過ぎる内容は否定し、マインは未だに固められている男の下へ向かう。

 そして、こう問うのだった。






「アナタは……ワタシを知っているのですか?」






「  」

「……答えてはくれないのですね」

「マイン。あのね、人はキャメられてると話せないのよ」


 今日は一つ、学びを得た。




 ***




 昔々、あるところにたくさんの人々が住んでいました。

 毎日、人々は一生懸命に働き、笑顔の絶えない暮らしを送っていました。


 しかしある日、罪派と呼ばれる悪い狂信者たちが現れ、こう言います。


『この町の人間を、魔王様に捧げる供物にしてやる!』


 罪派は恐ろしい呪文を唱えると、人々はなんと、悪魔の姿に変わっていきます。

 悪魔になってしまった人々は困惑し、さらには罪派の僕である罪獣が暴れ、聖都は瞬く間に混乱の渦へと呑み込まれました。


 ですが、そこへとある勇敢な冒険者がやってきました。


『私達が、彼らの病を治しましょう』


 そう言うと、勇敢な冒険者は罪派と罪獣を倒し、免罪符の材料を集めに向かいます。

 勇敢な冒険者の向かった先は、太古の昔、とある強欲な錬金術師が暮らしていた迷宮です。中には錬金術師が集めた黄金の山があると噂されていましたが、今まで誰もそこへ辿り着くことはできていません。


 数日後、勇敢な冒険者は抱えられるだけの黄金を持って帰り、


『黄金の亡霊は、我々が討った』


 勇敢な冒険者の言葉を信じて人々が迷宮に向かうと、そこには床も、壁も、果てには天井までもが黄金に覆われた景色が広がっていました。


『ありがたや、ありがたや』


 山のような黄金を前に大粒の涙を流す人々は、勇敢な冒険者を勇者と呼び、彼らの偉業を永遠に讃えましたとさ……。




「──その冒険者こそ、新進気鋭にして各地の凶暴な魔物やを打ち倒し冒険者……エルさん御一行だったのです!」




『お~』




 ぱちぱちぱち~。

 拳を握り、熱く語るタマモに全員で拍手を送る。あのキャメルクラッチの後、詰所の一室を借りて行われるは、今回の依頼に至るまでの事細かな経緯の説明。何故か昔話口調ではあったが、最低限の要点がまとめられているという意味合いでは分かりやすかった。


 さて、これを聞いてハッキリさせたいことと言えば、


「そんなこんなで迷宮を支配していた主は打ち倒された! ……筈なのですが」

「その魔物にうちのマインが似てたと」

「いやはや。申し開きのしようも御座いません」


 狐っ娘は肩を落とし、シュンとする。

 その隣ではつい先程まで、三里12㎞離れた現場まで数分で辿り着く人間からキャメられていた男──〈鬼の涙〉団長ことレイムが座っていた。


「ほら! 団長も謝ってください!」

「ゔっ」


 いや、座っているというかほぼ気絶している状態な、これ。

 たった今、『ツレを起こさないでくれ。死ぬほど疲れてる』状態になったけれども。


 だがしかし、抜けかけた魂はタマモのボディーブローと共に、レイムの鳩尾から肉体へと注入されていた。


 ……バキボキと骨が折れている音がするが大丈夫なんだろうか? 怖いから聞かんとこ。


「ですが、うちの組は出自を問わぬ方針! 魔人だろうと罪人だろうと、真面目に働くならというヤツです! なのに団長と来たら……」

「……御免」

「二文字で済ませないっ!」


 再び鳩尾にボディーブローが叩き込まれる。

 いい加減鳩の尻尾が千切れかねない殴打音が響くが、そこは流石団長だ! あんな超威力のボディーブローを喰らってもケロリとしていやが……いや、泣いてる? 団長さん、もしかして泣いてる?


「だが……酷似……」

「そんなに似てるんですか?」

「……双子……」


 なんだかデジャブを感じるが、インヴィー教国を旅していた時にアータンがアイベルに間違えられていた感覚に似ている。あの悪評バージョンが、さっきの一幕に繋がったと推察できる。


 その結果が──。


「なんか……すみません」

「とんでもない! こちらこそ団長の早とちりで協力してくださる冒険者さんに刃を向けてしまい……団長! ここは一発腹を切って詫びましょう!」

「……仕方……無し」

「タマモ、介錯いきます!」

「すみません。やめてくれません?」


 まさかのハラキリ宣言である。

 止める俺も思わず敬語になっちゃったじゃない。


 しかし、濁流のようなやり取りの中に、一筋キラリと輝く情報が垣間見えた。

 目敏く目を付けたのは俺だけではない。やや身を乗り出したベルゴがタマモに話しかけた。


「タマモ殿。そのエルという冒険者達の中に、アイベルという魔法使いが居たのでは?」

「おお、よくぞご存じで!」

「スマン。彼らについて少し伺いたいのだが……」


 口火を切ったのはベルゴだった。


 さて、ここまでの話で薄々察している人間も居ることだろう。

 『ギルティ・シン外伝 悲嘆の贖罪者スケープゴート』本編にて、各地を渡り歩く本物勇者達には、当然の如くアヴァリー教国に立ち寄るパートが存在する。


 その際、立ち塞がる敵とやらがタマモの語った罪派シンぱだ。

 あの解釈違いな危ないバカ共がやらかす事件こそ、シムローも触れていた住民の魔人化事件。スーリア教国でも罪派が用いた住民に罪冠具を行き届かせ、頃合いを見計らったところで術式を発動──住民を魔人にさせて聖都を混乱に陥れる。


 そして、陥落した聖都を魔王軍に明け渡す。

 それこそが奴らの計画……だったのだが。


「勿論いいですとも! 彼らは今やアヴァリー教国の英雄! タマモの知る限りの情報をお教えいたしましょう!」


 さっきの昔話風解説の通り、罪派自体は本物勇者がパパッとやっつけて解決。

 罪派の秘密兵器こと罪獣も、あっさりやっつけて聖都掌握の野望は潰え、聖都の平和は守られた! 本物勇者つおい……。


 けれども、重要なのはそちらではない。

 探し人の行方に王手が掛かった状況に、ベルゴはさらに前のめりになる。鍛え上げられた胸筋のせいで威圧感が凄まじい。デッケェ雄っぱいである。

 そして、反対側にもこれまた胸筋を鍛えた男根得おねえさんが前のめりになっている。やらしい雄っぱいである。


 それはさておきドッキドキ。


「では、彼らは今どこに──」

「アイベル殿は万万千千ばんばんせんせんなる魔力と魔法を駆る、まさに現代の大魔導士! 龍神を彷彿とさせる炎の魔法を操る姿は、圧巻の一言に尽きましたね!」

「いや、聞きたいのは武勇伝の方ではなくてだな……」


「ベルゴさん!」


「アータン?」

「──聞こう」

「アータン??」


 お姉ちゃんの武勇伝を聞きたいアータンが待ったをかけた。

 やれやれ、これだからうちの我儘なお姫様は……。


「ったく、今回だけだぞ?」

「いや、止めましょうよ!? ああもう! タマモさん、とりあえず本題を──」

「彼女だけではありません! 華麗なる聖槍せいそうの修道士、ヴァザリア殿もまた驚嘆するべき御業の使い手でした!」

「続きをお伺いしましょう」

「畏まりました!」


 太ももに両肘をつき、両手に口元を持ってくるアス。

 由緒正しき司令官スタイルで耳を傾ける姿は、最早一部たりとも横槍を入れぬ決意で塗り固められたかの如き不動の佇まいだった。


 これで本物勇者一行の話を聞きたい派は四人。

 多数決により敗北が決まったベルゴは、肩身が狭そうにソファの隅へと追いやられた。いつの時代、どこの世界でも、父親とは嫁や娘には勝てない定めなのであった。


 残念だったなぁー、ベルゴぉー!

 オタクはなァ……本編の後日談が、三度の飯より大好きなんだよォーーーっ!


 さて。


「続きをオナシャス」

「畏まりました! ヴァザリア殿の肉体を活性化させる魔法を転用し、高めた身体能力より繰り出される槍術は、神に捧し神楽の如く! それでいて自らを魔風と化し、苛烈な一閃を見舞わせる姿は修羅か、はたまた風神か!? あの鮮烈な風が頬を撫でる感触……タマモが思いを馳せぬ日はありません……」

「……成長しましたね、ヴァザリィ」


 ホロリ。

 弟(妹)の成長を喜び涙する姉(兄)の感動的なシーンだ。脳がバグっちゃう。


 だが、感動的なのはそれだけではない。ヴァザリアの強さにも、ゲームをプレイした人間なら感動したはずだろう。

 彼女は一言で言えば、僧侶と武闘家を合わせたような性能のキャラだ。僧侶のサポート系魔法を武闘家の素早さで繰り出しつつ、守りの固い相手は高頻度のクリティカル攻撃でぶっ飛ばす。要するに二つの職業ジョブのいいとこ取りである。


 おかげで、耐性が強くて守りが硬い敵が頻出するアヴァリー教国編では活躍してくれたものだ。懐かしい記憶に、思わず俺もしみじみとなってしまう。


 うちの勇者が、色々お世話になっています。


「そうです! 英雄──否、勇者は他にもおられます!」

「あれ? 俺の心読まれた?」

「双剣を流麗に舞わせ、濡羽色の髪を躍らせるルキ殿! 彼女こそあのの片翼! 光と闇を宿せし剣の罪器による怒涛の猛攻! 攻撃こそ最大の防御とは、あれを言うのですね……」 


 お次に出てきたルキって子は、ゲーム本編では序盤から本物勇者に同行する、所謂幼馴染兼相棒キャラだ。

 性能は器用万能の高機動アタッカー。物理・魔法の両方で高威力を叩き出しつつ回復系も扱える為、ネットでは専ら『主人公より勇者している』と評されていた。


 今の話を聞く限り、この世界でも勇者な戦い振りは健在らしい。偽物勇者として鼻が高いよ。


 しかしねぇ……片翼と言うからにはもう片方があるのだから……。


「そう、翼とはふたつなくば飛べぬもの!」

「やっぱ心どくられてる?」

「彼らが飛ぶ鳥を落とす勢いで駆け上がる理由にはエル殿の存在があってこそ! 悪を斬る剣! 善を守る盾! 魔を穿つ弾! ……寡黙なるは語る必要もないが故。タマモは、タマモはあの姿に……フッ。……惚れちまったのです」


 熱弁するが余り、独りでに涙を流すタマモちゃん。仮面を被っているのに百面相だ。見ていて楽しい。


 にしても、エルか……。

 『ギルティ・シン外伝 悲嘆の贖罪者』の主人公であり、素顔を鉄仮面に包んだ寡黙な冒険者。それがエルというキャラクターだ。

 戦闘面では剣と盾を扱う為、双剣使いのルキよりも守りに優れている。事実、覚える特技も味方を庇ったり、自分を犠牲にし発動する技ばかり。


 こういう事情も相まってか、前述の『ルキのが勇者説』を後押ししているのだが……うん。俺も否定できない。


 でも好きなんだよ……。

 寡黙っぽく見せかけて、会話シーンでおふざけ選択肢を紛れ込ませてくる面白主人公はよぉ……!


「……会いたいなぁ」

「ライアー?」


 おっとっと。

 思い出を振り返っていたら、思わず心の声が溢れてしまったらしい。怪訝そうなアータンの瞳がこちらに向けられていた。ので、ほっぺを指先でぺったんぺったんと搗いた。ぺったんぺったんアータンであ『フンッ!』──受け止められた……だと……!?


「──しかし、勇者とは必ずしも人を指す言葉ではありません」

『お?』

「……現代に蘇りし錬金術師。人ならざる宿命ながら、人の心を宿せし造人! 彼女の名を」




「──『モア』」




 答えたのは俺ではない。


「おお!? よくご存じで!」


 全員の視線が注がれる先には、椅子に座りながら俯く少女──マインが、ポツリと


「どうして……ワタシは」

「……必然」

「必然?」


 淡々とした声色に少女が面を上げた先には、レイムが鎮座していた。

 矢張り仮面のせいで表情は窺い知れない。それでも僅かに覗く眼光は静謐で、諭すような視線を、目の前の少女に注ぎ込んでいた。


「……往け」

「どこへ?」

「……迷宮」


 俺は、生粋のギルシンファンだ。

 だからこそ、ゲーム作中で匂わされるだけで明確に開示されなかった設定には、強い興味を示してしまうオタクの性が発症してしまう。


 その内の一つが、これだ。


「ワタシを知っている人が、そこに?」

「……はて」


 ゲーム本編において、アヴァリー教国編のボスを務めるとあるキャラが存在する。


 そのボスには明確な名前はなかった。

 そのボスには明瞭な意思はなかった。

 そのボスには明白な言及はなかった。


 その章で仲間となるキャラクターのバックボーンが明かされていく中で、過去を明かされることもなく新たな仲間に打ち倒されるボスの一人。要はお膳立て、やられ役だ。


 言ってしまえばそれだけの存在。

 RPGならよくある話に過ぎない。


 それでも俺は──いや。

 だからこそは──。


「行こうぜ、マイン」

「……ライアー?」

「今のお前に必要なだ」

「自分探し……」

「人助けのついでに冒険だ♪ 行くぞ!」




 そんな結末を嘘にしたくて、この世界で“冒険”してるんだ。




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