第107話 聖女は救命の始まり




「あんの野郎……!」




 俺はまさに今、全力疾走中だった。

 会談の間から飛び出したサルガタナスを追っている。サタナキアとのやり取りから察するに、どうやら狙いは聖女のようだ。


 やっぱ転移術ってチートだわ。

 絶対成功にげるコマンドなんて、RPG脳からしてみれば喉から手が出るほど欲しい性能じゃんか。


 それさえあれば、雑魚敵に死に体のパーティーを蹂躙されることも、全滅して所持金が半分に減ることもなかったのに……!


 クソが、考えていたら腹立ってきた。

 この鬱憤、晴らさでおくべきか……!


「待ちやがれ、サルガタナス!」

「! その鉄仮面は!?」

「サルフール!?」

「名前が合体した!?」


 誰かと思えばルフールだった。

 危ない危ない。危うく純度100%の八つ当たりをぶつけてしまうところであった。


「──どういう状況だ?」


 ただならぬ気配を感じた。

 自然と発する声音も真剣なものとなり、広大な通路にポツンと座り込んでいる聖女と近衛の様子を観察する。


 すると、視界に飛び込む漆黒の球体。

 一切の色彩どころか光の反射さえ映らない謎の物体を前に、ツーッと背中には汗が伝った。得体の知れぬ不安が胸の中で膨らむ。


「ルフール、こいつは──」

「ア、アグネス様が……」

「うん?」


 話に割って入る一人の女。

 彼女は確か新しいインヴィー教国聖女だ。ゲームでは登場していなかったので顔は知らないが、インヴィー教の罪派を一掃された後で任命された娘だったはずである。


 涙ぐんでいるが、どうやら血濡れの足が痛むからではなさそうだ。


「急に悪魔が現れて……アグネス様がその中に……」

「……あ?」


 思わず低い声が出てしまった。

 自然と足は進み、黒い球体まで近寄る。


 見れば見るほど不気味な感覚だ。

 そこにあるのにないような、まるで空虚そのもの。油断すれば、この果てしない暗黒へ意識を呑み込まれそうになる。


「こん中か」

「ッ、待ってください!」

「婆さんはあいつと二人きりなんだろ? さっさと脱出させねえと」

「それができないんですよ!」

「どういう意味だ」


 逼迫したルフールが語る。


「この球体は奴の──サルガタナスが生み出した〈聖域〉です! 単なる〈聖域〉であるのなら魔法陣に干渉すれば解除はできます!」

「ならさっさと──」

「ですが! これは!」


 百聞は一見に如かずと、ルフールが試しに血濡れの矢を球体に近づける。

 すると血濡れの矢はぐにゃりと。暗黒の外周に沿うようにして曲がり、果てにはメキメキと音を立ててシャフト部分がへし折れる。


 


「こいつは……まさか!?」

「ええ。恐らくこれはサルガタナスの〈シン〉由来の〈聖域〉です」

「空間を捻じ曲げて作った立体型の〈聖域〉か……!?」

「……自分も、同じ見解です」

「チッ!」


 手を抜いていたつもりはない。

 それでもあの時、サルガタナスを仕留め損じた自分の不手際を呪い、俺はフィクトゥスを〈聖域〉に叩きつけた。


 だが幻影で形成された刃はこれまた歪みに耐えきれず、衝突した傍から──否、そもそも触れてすらいないのだろう。

 強烈な歪みが発生している領域に侵入した途端、刀身は剛力で捻じ曲げられたかのように歪み出す。そして、原型を保てなくなった幻影は間もなく瓦解した。


「力尽くじゃ無理か……!」

「すでに魔法でも破壊を試みてはみましたが結果は──危ない!」


 ルフールが言い切る前に邪魔が入った。

 小盾を振り上げた彼が何かを弾く。数秒後、景色にはどこからともなく一本の矢が現れた。


 既視感の“不可視”。

 心当たりのある術だと見立てを立てた俺の脳裏には、少し前に刃を交えた一人の悪魔の姿が脳裏を過る。


「──〈湮滅いんめつのフォラス〉、か」


 咄嗟に周囲を見渡す。が、魔力含めて一切の気配は感じられない。

 恐らく奴の〈罪〉──〈湮滅〉には、魔力そのものを隠匿する能力があるのだろう。俺の〈虚飾〉だって同じだ。予想外というほどではない。


 だが、状況としてはよろしくない。

 奴は考え得る限りの中で最悪の──奴の中では最善の手を取ってきやがった。


「居直って支援に回りやがったか」


 周囲を一望。

 やはり姿を見ることは敵わないが、“居る”という確信だけはある。


 通路にしては横幅も広く、天井も十メートル近くある構造。天井付近に配置されている等間隔の梁も、上に待ち伏せして狙撃するにあたって絶好のポイントと言えよう。


「アグネス様は避難を優先するように仰っておられましたが……!」

「──そうだな。その方がいい」

「良いのですか!?」


 察するに、アグネスを見捨てられないのだろう。

 苦悩が表情に滲み出るルフールであるが、俺の返答を聞くや、思わずといった勢いで聞き返してきた。分かるよ、その気持ちは。


 でもな、


「良いも悪いも、ここで立ち止まってたらそれこそ奴らの思う壺だ。当初の予定通り動いた方がいい」

「しかし、そうするとアグネス様は……」

「心配するな。俺が何とかする」

「手があるんですか!?」

「無いわけじゃない……一応、な」


 驚愕する余り瞠目するルフール。

 その懐疑がありありと滲む瞳に対し、俺は真っすぐな視線を突き付ける。


「……分かりました」

「ありがとうな」


 たった数秒。

 それだけの時間でルフールは俺の言葉を信じてくれた。何の根拠もないだろうにお人好しな騎士だなぁ……まあ、そういう人間は嫌いじゃない。むしろ大好きだ。


 ルフールは踵を返す。

 先も話した通り、当初の予定だった避難場所への案内を再開する気なのだろう。そちらの方が俺としても有難い限りだ。


「──俺がしっちゃかめっちゃか暴れても、向こうの所為にできるしな」

「あっ、そういう腹積もりだったんです!?」


 見えない相手の対処法、その一『とりあえず範囲攻撃』。

 実に古典的でシンプルなこの方法、周りの物がぶっ壊れるという欠点に目を瞑れば効果的だ。ぶっ壊れるという逃れられぬ欠点に目を瞑れば。


 許せよルフール。

 一刻を争うんだ。


「マザー・アグネスを救えるのでしたら建物の被害程度いくらでも目を瞑りますよ!」

「助かるマジカルぶっ放し五秒前」


「ま、待ってください!」


「え、ちょっ、急に止めないで。溢れる魔力が止まらない」

「溢れる想いが止まらないみたいな!?」


 魔力を収束させている最中、予想だにしていない方向から待ったが掛かった。

 極彩色の髪をした聖女──インヴィー教国の聖女だ。


「アグネス様をお救いする方法に心当たりがあります!」

「ちょっと暴発しそうなので一旦ぶちかまします〈魔神の弾丸デウス・エクス・マギア〉」

「いきなり最上級魔法をっきゃあああ!?」


 やめられない、止まらない。

 そんな感じで手から離れた魔法の弾丸は、ものの見事に天井で大爆発を起こした。不完全なまま発射してしまったが相当の威力だ。爆心地からはガラガラと音を立てて瓦礫が振ってくる。


 途中、『ぐぬぅ!?』と悲鳴が聞こえた気がする。

 やっぱもう一発ぶち込んだ方がいいだろうか?


 ……いや、そっちは一旦後回しだな。


「──で、その方法ってのは?」

「切り替えがお早い……!?」

「頼む、早く聞かせてくれ」

「あっ……は、はい!」


 狼狽えていた聖女に催促すれば、彼女は慌てて説明を開始した。


「直接干渉できないのであれば〈転移魔法ミグラーテ〉はいかがでしょうか?」

「〈転移魔法〉……なるほど、その手があったか!」

「現在国家で運用されている〈転移魔法〉は、大聖堂に設置された転移門間の距離が離れているので膨大な魔力が要りますが……目の前だったら!」


 語気を強めて語るインヴィー教国聖女。

 確かに彼女の言う通り〈転移魔法〉であれば、空間そのものを捻じ曲げ、外界と内界を断絶しているサルガタナスの〈聖域〉に侵入できるかもしれない。

 遠方への転移には事前の詳細な座標指定──要は転移門の設置がマストであるが、視界に入る程度の距離ならその必要もない。


「今すぐやれそうか?」

「お時間をいただけるのであれば!」


「お待ちください! いくら何でも危険です!」

「先にご避難を! 貴方様は怪我を負われているのですよ!?」


 横槍──というには些か自分本位か。

 声を上げたのは彼女の近衛。己が責務を果たそうとする彼らは、傷と危険を省みずに〈転移魔法〉を行使しようとする聖女に待ったを掛ける。


 考えてみれば当然だ。

 スーリア教国のみならず七大教国における聖女の存在は余りにも大きい。

 万が一にでも出先で亡くなろうものなら、その余波は国全体に及ぶことになる。無論、悪い意味でだ。


「お考え直しください! 貴方様は聖女なのですよ!?」

「聖女だからこそ──では?」

「っ……!」


 しかし、聖女は動かず。

 先程までの動揺が嘘のように落ち着き払った様子で、凛然たる眼差しを己が近衛に向けるではないか。


 思わず背筋が伸びてしまった。

 見ていただけの俺でこうなのだ。矛先を向けられた近衛はと言えば、返す言葉も見つからないとひたすら口を喘がせていた。


 そこへうら若き聖女は、畳みかけるように続ける。


「救える命を見捨てて己だけ生き永らえて、それを一体誰が聖女と呼びましょうか? わたしは皆様ほど知識も経験も豊富な訳ではありません。それでも、何か一つだけでもわたしの力が誰かを救う手助けとなるなら……そこで手を差し伸べられる者こそ、聖女に相応しいのではないでしょうか?」


 反論は──なかった。

 あるはずもなかった。


 言葉を失い、立ち尽くす近衛。

 その様子を見た聖女は、少しばかり申し訳なさそうな笑みを湛える。


「すみません……我儘を言ってしまって」

「──彼女の言う通りです」

「!」


 一人、聖女が隣に並び立つ。


「聖女とは他者の命を救うことが使命。ここでアグネス様を見捨てては、聖女の名折れです」

「同感だ」


 また一人、聖女が歩み出る。


「このままでは先代や歴代の聖女に顔向けできん。胸を張って祖国の土を踏み締める為にも協力は惜しまない」

「右に同じく」

「せ、僭越ながらわたしも!」


 一人、もう一人と。

 遂には五人の聖女全員が〈聖域〉を囲うよう配置に着く。錚々たる面子が並び立つ光景は壮観と評するより他なく、近衛を務める騎士達もしばし責務を忘れて立ち尽くしていた。


「み、皆様……!?」


「〈転移魔法〉の術式は覚えておいでで?」

「はい! ここは指定する座標空間部分を皆で分担しましょう!」

「では私が水平軸を請け負おう」

「それならわたしは垂直軸を」

「じゃ、じゃあ残りの軸はわたしが!」


「ヒュ~♪」


 テキパキと術式を構築し始める聖女達。

 仕事の早さに思わず口笛を吹いてしまった。直後、窘めるような視線があちこちから突き刺さるが知ったこっちゃない。いや嘘ごめん。やっぱ居心地悪いわ。


 だが、アグネス救出には聖女の手を借りるべきだ。

 何故なら、俺ができる方法は余りに。可能であれば最後の奥の手として取っておきたい。


 だからこそ、今は彼女達の手を止めさせる時間も惜しい。

 責めるような視線を浴びる中、俺はゆっくりと、誠意を表すように頭を下げた。


「お願いします。少しだけ時間をください」

『……』

「俺は彼女を──聖女アグネスを救いたいんです」


 真摯に。

 真剣に。


 俺がこの場で真っ先に出来ることはそれだった。

 騎士達は閉口する。


「──馬鹿を言うな」


 ダメか、と肩を落としそうになる。


 現実はなんて──。


「我々は命を賭して聖女を守る近衛騎士」

「聖女が命を賭すのなら、我々も命を賭さぬ理由はない!」

「〈聖域〉を展開せよ! 聖女に指一本触れさせるな!」


 現実はなんて……人の温もりに溢れているのだろう。

 正直断られていることも覚悟していた。

 だが撤回しなくちゃならない。彼らこそ聖女の近衛に相応しき高潔な騎士だ。聖女の意思を尊重し、人命の為に己が命を投げ打てる者は、この世にどれだけ存在するんだろうな。


「……ありがとう!」

「喜ぶのは早いですよ」


 思わず目頭が熱くなる中、冷静なルフールの声が意識を引き戻してくれる。


 足音が近づいてくる。

 それも複数、強大な魔力を伴って。


「……みたいだな」

「どうやら嗅ぎつけられたようですよ」


 間もなく、崩落していない通路側より人影が現れた。

 肩から垂らすペリースに描かれる団章は銅色に輝いている。金は団長、銀は副団長、それに次ぐ銅となれば──。


「──騎士隊エクエス隊長、ハカミヤか」

「ルフール副団長。聖女の皆様を連れてどこへ行かれるおつもりで? さあ、安全な場所に案内致します。聖女をこちらへ」


 淡々と。

 不自然なくらい冷静に振舞う女騎士ハカミヤは案内を申し出る。ただ彼女の後方に待機する大勢の騎士の存在が、名状し難い威圧感で以てこちらを脅迫しているように思えて他ならなかった。


 しかし、これに対しルフールは涼やかな態度で返答する。


「それには及ばない」

「しかし……」

「それよりも顔でも洗って来たらどうだ? ちょっとぐらいは目が覚めるかもしれないぞ」

「──やるぞ」


 やはり、というべきか。

 リオに魅了せんのうされていると思しきハカミヤは合図を出し、控えさせていた騎士達を突撃させてくる。


「ルフール!」


 数は十人ほど。

 有象無象で副団長に勝てる道理はない。ただし、そこに隊長が加勢しているとなれば話は別だ。


 隊長とは、団長・副団長に次ぐ実力者。

 剣術、魔術、騎乗術、従魔術、聖域術、医術の各部門における最高峰の技術を持った者のみが至れる次元だ。

 副団長も大抵が元隊長という点を考慮すれば、隊長が特定の分野において、副団長を上回る力を有していてもおかしくはない。


 多勢に無勢。

 そこに大物食いの可能性も出てくるとなれば、俺が手を貸さない理由はなくなる。


 しかし、




「──余り舐めないでいただきたい」




 旋風が。

 フッと旋風が吹き抜けたかと思えば、ハカミヤの後ろに続いていた騎士達が宙を舞った。あれは──〈風魔剣ベントディウス〉だろう。それにしたってはやい、疾過ぎる。


 余りの早業に舌を巻くハカミヤ。

 彼女だけは風の刃を切り払い、真正面から副団長と切り結ぶに至った。しかしその表情は優れたものではない。


「くっ……!」

「上に立つ“席”の重み、お前も理解しているはずだろう」

「おのれ!」


 ガキィン! と。

 ルフールは事も無げにハカミヤを押し返す。力量差は一目瞭然。息を呑んで見守っていた聖女の近衛らも、思わず感嘆の声を漏らしていた。


 心のどこかで不安に思っていたことがどれほどの侮辱だったか。俺は、その勇敢な後ろ姿を見て全身が打ち震えた。



 そうだ──これこそが副団長。



「我こそが〈鋼鉄の処女〉副団長ナンバーツー、ルフールなり! 教団の教え、そして、団長ハハイヤの命に殉じる貞潔なる聖堂騎士! 副団長たらんと研鑽を重ねてきた今、易々とこの命を奪れると思うな!」

「ルフール……!」



「ルフール殿! 後ろから加勢が!」



「えぇ~~~っ!?」

「ルフール……」


 一秒前までカッコよく決めていたのになぁ……。

 乱高下する株に頭が痛くなるわ。


 まあ、実際頭痛を覚える光景が眼前には広がっていた。


 ハカミヤと同じく銅の団章を掲げた騎士が一人、二人……いやもう四人くらい揃ってるな。

 最早言うまでもないが彼らは聖堂騎士団隊長達だ。

 各隊の特色から鑑みるに、この場に来たのは騎士隊、聖歌隊、従魔隊、聖工隊の隊長達ってところだろう。


「一応聞くけど加勢要る?」

「……いえ、結構です」

「え、マジ?」

「貴方はこれからに行くんでしょう?」


 でしたら、と。

 ルフールは覚悟を決めたような面持ちで続けた。


「六魔柱と戦うなら余計な消耗は避けた方がいい」

「……いいのか?」

「いい訳ないじゃないですか~! って、泣き言言ったら団長に怒られそうですしねぇ……」

「ちなみに怒ったらどれくらい怖い?」

「地震と雷と火事と親父──」

「に次ぐ?」

「より……」

「ほぼ神と同義かぁ」


 そいつは怒られたくないわ。


「けどまあご安心を。なんとか持ちこたえてみせますよ」

「気負い過ぎんな。俺も援護するから」

「六魔柱と戦う余力が残せるのなら──ね。いや本当に。頼みます。余力あるならお願いします」


 頼もしさと情けなさを反復横跳びする男、ルフール。


 俺、こいつのこと嫌いになれないわ。

 なんかシンパシーを感じちゃうもの。


「そうやっていられる内は大丈夫だな」

「ですかねぇ……?」

「ったりめえよ」


 ふと、足元に目を遣った石畳を蹴ってみる。


「──、か」


 そうこうしている間にも隊長達は臨戦態勢を整える。

 隠さぬ敵意がピリピリと肌を刺すが──まあ、六魔柱よりかはまだマシだ。先にサルガタナスとやり合っていて良かった。


 だが、こいつらから聖女を守り切るのは中々骨が折れそうだ。

 いわばこれは防衛系ミッション。対象をいかに傷つけないか、普段とは違う立ち回りが求められる嫌いなゲーマーはとことん嫌いな部類のアレである。


「……俺、こういうの苦手なんだよなぁ……」

「なんでそういうこというんですか!?」

「嘘嘘♪ ……嘘だと、言いたいなぁ……」

「すっごく不安になる言い方するじゃないですか」




 兎も角、ここが正念場だ。

 時間はまだ掛かる。


 それまで俺達は──。




「──死んでも聖女は守り切るぞ」




 この命を懸けて。




 ***




「──聞こえるか? あの音色が」




 円卓の上に立つ悪魔は、割れたステンドガラスの奥を見遣る。


「リオに魅入られた騎士が蜂起したのだ。今頃、警備に当たっていた騎士は混乱しているだろう。何せつい先程まで味方だった者共に斬られているのだからな」


 うっそりと微笑む悪魔は、まるで心地よい音色でも聞くように耳を傾ける。

 しかし、実際に聞こえてくるのは悲鳴と怒号。突然の裏切りに訳も分からず刃を交える騎士達の絶望は、大気を伝って会談の間に響いてくる。


「我輩の腕に掛かれば国一つ堕とすなぞ造作もない。わざわざ配下を潜入させるなど迂遠な手段を取る必要さえない。何故なら我が“眼”に魅入られた者達こそ、我が手足となるからだ」


 そう口にした悪魔は血を流し、膝を突く二人の騎士を見下ろす。

 激しい戦いが繰り広げられたのだろう。広大な部屋のあちこちには剣や魔法で刻まれたであろう破壊痕がいくつも存在していた。




 が、しかし。

 サタナキアは一歩も動かず。




「理解したか? 王手チェックメイトは最初から掛けられていたのだ」




 己を王と豪語する悪魔が、そう嘲る。

 絶望は色濃く、そして確実にスーリア教国を蝕み始めていた。




 運命の時間まで、あともう少し──。




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