第61話 死隊は告解の始まり
場所は大聖堂のとある一室。
「〈
今では魔都ドゥウスを支配するネビロスの居城でもある大聖堂にて、部下からの報告を聞いた主は鬱陶しそうな面持ちを湛えていた。
〈灰かぶり〉とはディア教国の聖堂騎士団。
ドゥウスを攻め落とした魔王軍とは因縁深い関係にある勢力の一つでもある。
「現在、正門より攻め込んできた〈灰かぶり〉はそのままここに向かって真っすぐ進軍を続けている模様です。迎撃部隊は出ておりますが……」
「奴らも死に物狂いだろぉ……? そう易々とは止められまぃ……」
見透かしたようにネビロスは漏らす。
現在ドゥウスは魔王軍の地上侵攻の要。早々にここを攻め落とさなければ、まず間違いなく真っ先にやられるのはディア教国だ。
ただでさえ10年前の聖都陥落で戦力が激減している以上、先手を許すわけにいかないだろう。
「涙ぐましいなぁ」
しかし、ネビロスはそれを嘲笑った。
「おい、ハエル」
「は!」
「『
「かしこまりましたぁ! ネビロス様の素晴らしき研究の成果を愚かな人間共に見せつけてやればいいのですね! 不肖ハエル、そのお役目しかと──」
「早く行けぇ」
「ははぁ! ただちにぃ!」
鬱陶しそうに促す主に、ハエルは深々と頭を下げて退室した。
残された悪魔はもう一体。
「セルグラト。おまえは地下からぁ……」
そこまで言いかけたところでネビロスの口は止まる。
「ネビロス様?」
「……おぃ、ナベリウスから侵入者の報告はぁ……?」
「現時点で地下水路から侵入者が入り込んだと報告は上がっておりませんが……」
「定期報告はぁ……?」
「定期報告は──」
そこまで口にしたところでセルグラトはハッとした。
恐る恐る面を上げれば、眼前の主は瘦せこけた頬に青筋を立てていた。
「あのネズミ共ぉ……どうやら地下から潜り込んできたようだなぁ……」
「地下のケルベロスを突破して……? ……ネビロス様、わたくしの愚考をお聞き入れいただけないでしょうか」
「……言ってみろぉ」
「
「数はぁ」
「ケルベロス二体を突破できる戦力を仕留められるだけを」
「それでいぃ」
理解している部下に頷いたネビロスはそのまま語を継ぐ。
「地下は任せたぁ……確実にネズミを仕留め、おれの前に差し出せぇ……」
「ははぁ!」
「さっきのが斥候かどうかは分からんが、どうせ騎士共が潜り込んでいるはずだぁ……」
ネビロスの冷ややかな声色が響き渡る。
異様な寒気に包まれる部屋の蝋燭が全て消え失せる。するとネビロスは踵を返し、スタスタと部屋から出ていこうとする。
「ネビロス様はどちらに?」
「……“実験場”に向かう」
「! というと……!」
ネビロスの青い唇は弓なりの弧を描いた。
「折角の全面戦争だぁ……研究成果のお披露目にはちょうどいいだろぉ?」
嬉々と歪むネビロスの顔。
それはまさしく悪魔の如き笑みだった。
***
一旦中央区画まで戻ってきた俺達は、そこで捜索組と撤退組に分かれた。
「元気でやれよ、ソドム。ゴモラ。それにペロ~」
『グルルルルッ!』
「おう、犬っころ共。一体全体俺の何が気に入らねえか腹を割って話し合おうじゃあねえか」
「やめろ、犬相手に!」
別れる間際まで威嚇してくるケルベロス共には中指で十字を切る。
どうだ、こいつが俺の捧げる十字架だ。しかと目に焼き付きやがれ。
そんなこんなでケルベロスとガンを飛ばし合っていたら、アータンから返されたマントをベルゴに引っ張られる形で引き摺られた。ぐぇー、苦しい。
「アータ~ン、リーンを頼んぞぉ~」
『うん、わかってるー!』
『ライアー!』
「おん? なんだよ、リー……」
『F〇ck you』
「女ぁ~。今からお前を殴りに行こうかぁ~?」
と、両手の中指を突き上げるリーン相手に掴んだ拳を使おうとしたが、これもマントを引っ張るベルゴに止められた。
ちくしょう……俺はネイティブ発音でファッキュってくる女にさえ立ち向かえねえのかよぉ……!
「ファッキュってくるってなんだよ」
冷静なシャックスのツッコミを受け、俺達はようやく実験場へと向かうことにした。
「なるほど。話を聞く限り、どうやらその“実験場”とやらは刑務所があった場所にあるようだな……」
シャックスの話を聞いたベルゴは、お手製の地図と自分の記憶を頼りに、ネビロスの実験場の場所を推測する。
その結果、元々刑務所があった大きな建物の可能性が浮上した。
「まっ、たしかにスペースには困らない場所だな」
「……そこが人を弄ぶ場所になってるかと思うと、な」
怒りに震える拳を握るベルゴ。
そこは本来罪人を捕えておくべき場所。
そこで悪魔の非人道的な行為が繰り返されている相手が無辜の民だと思えば、その怒りや悔しさは俺が察するに余りあるだろう。
「……早く助けなければ」
「あぁ……!」
取り返さなければならぬ場所を目指す内に、俺達の走るスピードはみるみるうちに速くなっていった。
しかしだ。
急ごうとすればするほどに足音は大きくなる。
当然、それを聞きつける悪魔の兵士も居るわけだ。
「おい、こっちの方から物音が──ぎゃ!!?」
「切り捨て御免!」
なのだけれども、こんな状況で取り合っている暇はない。
見敵必殺。角ですれ違う瞬間、鋭い一閃で悪魔の首を刎ねる。死体代わりに残る鎧は水路に沈めて証拠隠滅よ。
今まで下手に殺さなかったのは、見回りの悪魔にシャックスの姉が居る可能性を危惧してだ。
でも実験場に送られたと聞いた今、そこまで気にする段階ではなくなった。
足音を聞きつけてやって来る悪魔共を、出会い頭に次から次へと斬り倒していく。
「切り捨て御免! 御免! 御免!」
「おぉ……容赦ねぇ……」
「トラッシュストラッシュ! トラッシュストラッシュ!」
「急に変な技になったな」
「T・S! T・S!」
「略すな」
「──Sorry……」
「んで、キメ顔決めてんじゃねえぞ」
そんなこんなでバッサバッサと斬り倒していくことしばらく。
「もうすぐ近いぞ! 頑張れ!」
「やっとか……!」
「ひぃ……ひぃ……脇腹が痛ぇ……!」
全力で走り回り疲労困憊の俺とシャックスに、ベルゴが激励のような言葉を送ってくれる。
ありがとう、ベルゴ。
俺はお前のそういうところ大好きよ。
「ん、んで……あと距離はどのくらいだ……?」
「100メートル先を左──」
「よっしゃあああ!」
「──だったんだが、水門が下りてるな……」
「クソがあああっはああああん!!?」
「ライアァーーーっ!?」
直前で告げられた俺は、角を曲がったところで停止する間もなく水門に激突した。
ポンコツナビゲーションが。
貴方はいつだってそう。過ぎてからやっと大切なことを教えるんだから。
「す、すまんライアー。久々に来たから水位が下がっていたことに気づかなくてな」
「いや、俺も悪かった。誰のことも顧みずに突き進む人生の危うさに気づいたよ」
「物理的な壁にぶつかってその教訓を得るなら儲けものだな……」
ベルゴに手を引っ張られて俺は立ち上がる。
なるほど、たしかにベルゴが言った通り地下水路の水位が下がっている。
そして俺が激突した壁こそ、彼の言う水門とやらなのだろう。
「にしても、普通通り道ごと塞ぐかぁ?」
「こうやって侵入者の進路を塞ぐ仕組みなのだ」
「あー、なるほど」
つまりこいつは俺達の侵入が完全にバレたことの証拠だ。
まあしかし、今更だろう。室内で〈
「この先が騎士団の詰所──実験場なのか?」
「ああ、そうだ。しかし弱ったな。詰所に直通の通路はここだけだったんだが」
「それならぬ゛ぅ゛う゛ん゛!!!」
「しまった!!? こやつ!!」
「お前の理性に歯止めは利かねえのか」
俺が貫手で水門を貫くのを見てベルゴは驚き、シャックスは呆れていた。
どうだ、これがストロングアサシンの奥義『ぬ゛ぅ゛う゛ん゛』だ。どんなに硬い扉が閉まっていてもこの貫手を前にすれば無意味、無力よ。
道がなければ切り拓けばいいじゃない──初代ストロングアサシン、パワー・アントワネットもそう言っていた。嘘である。
「よーし、今の内に通れ~」
「お前さらっとスゲェことするよな……」
「そこのシャックスくん、早くお通りなさい。見てごらん、俺の膝を。間もなく笑い死ぬぞ?」
「すぐに通らせていただきます!」
普通に考えてみろ。
水門って滅茶苦茶重いんだぞ。そもそも人間が持ち上げるものじゃねえ。
なので、さっさとベルゴとシャックスには先に通らせる。
彼らが先へと進んでいく足音。
そして、また別の方向より聞こえてくる足音を耳にしながら。
「さて」
そこで俺は水門を持ち上げる手を引き抜いた。
直後、支えを失った水門は落ちてくる。
『おい、ライアー! 何をする!?』
「──どうやらお客さんみたいだ」
『なんだと!?』
貫手で開けた穴の奥より顔を覗かせるベルゴに、俺は来客の存在を伝えた。
「お前らは先に行け。俺はちょっくら粗茶ぶちかましてから先に行く」
『しかし……!』
「さっさとシャックスの姉貴見つけなきゃなんねえだろ。それに見たろ? 俺の剣捌きをよぉ。敵なんかサクッと倒して追いついてやるわい」
『……』
俺の言葉を聞いたベルゴはしばし口を紡ぎ、
『……分かった。死ぬなよ』
「死なねえよ。……あ、そういえばお前達に言っておくことがある」
『なんだ?』
「俺、実は故郷に帰ったら結婚するんだ──」
『やめろ! 変な前振りは!』
「それにな、子供も生まれるんだ。帰ったら結婚と出産祝いに皆で一杯やろうぜ。ヘヘっ、実はいい酒を箪笥に隠しててな。それで──」
『逆にそこまで即興で嘘を言えることに感心するわ』
沈痛な声音でそう言ってきたので、適当にあるだけ死亡フラグを立ててみる。
本音を言えばもっと積み上げられそうだったが、呆れたベルゴの溜め息が聞こえた為、新記録樹立には届かなかった。
「ま、心配すんな。俺を誰だと思ってんだ。プルガトリア一の勇者だぜ?」
『はぁ……分かった。危なそうならさっさと逃げろよ?』
「分ぁってるよ」
しっし! と手で促せば、壁穴の奥に見えていたベルゴの顔が見えなくなった。
そして壁の向こうから人の気配が消える。
「……気づかれてたかな。まあいいや」
さてと、と。
二人を見送ったところで、俺は背後から迫ってきた来客の方へと振り返る。
「二度も親友を殺させるわけにはいかないからなぁ」
「──」
「聖騎士が相手……いいね、箔が付くよ。勇者名乗るんだったなら、それくらいの相手を倒した実績は欲しかったところだ」
対峙する騎士は一人。
ただし、〈灰かぶり〉伝統の鎧に金色の不死鳥を描いた団章を掲げた男だった。
〈
またの名を〈聖騎士レイエル〉。
紛れもないディア教国の英雄だった。
実際に対面するのは二度目。
しかし、溢れる魔力は以前対峙した時とは比べものにならない。あの時対峙した時でさえ圧倒されるようだった威圧感がチンケに思えてしまうプレッシャーを放っている。
「どうやら肉体は本物みたいだな」
「──」
「ハッ、口を利いてくれないたぁ寂しいねぇ。高名な死霊術師名乗るんだったらおしゃべり機能ぐらい付けてほしいと思わないか?」
「──」
「ったく……遊び心がねえよな~」
無言のまま剣を抜くレイエルに対し、俺もまた剣を抜く。
今回は以前のようにベルゴの援護はない。
正真正銘の一対一。負ければ死は免れない決闘だ。
「──頼むぜ、イリテュム」
俺が抜いたのはフィクトゥスの方ではなくイリテュム。
『虚飾』の名を宿した罪器に魔力を流し込めば、たちまちに伝説の剣を模っていた形状に変化が訪れる。
それを見て尚、鉄仮面の如く表情の動かないレイエルは剣を構えるだけだった。
「ただの剣だと思うかぁ?」
チッチッチ、と。
空いた手の人差し指を振り、俺はにやりと笑ってみせる。
「それが違うんだよなぁ。こいつは王都伝説の贋作師が打ってくれた最高の一振り──」
一切の世辞も抜きに、俺は輝きを増すイリテュムを構える。
「とくと味わってくれよ」
返答はなく。
しかし、紫電は閃いた。
ここは地上の光も届かぬ暗闇。
偽物の勇者と、死体の聖騎士が相まみえるにはちょうどいい場所だ。
***
「ライアーの奴、大丈夫か……?」
地下水路を進む中、シャックスが不安そうな声音を漏らした。
「大丈夫さ。あやつはああ見えてできる男だ。もしも本当にダメだったら上手く逃げ果せるだろう」
「それならいいんだが……」
「むしろ先回りしていてもおかしくはない」
「……たしかに」
「だろう?」
本人が聞けば『お前ら俺にどういうイメージ持ってんだ』とツッコまれそうな会話であるが、生憎と彼はこの場には居ない。
「……すまない」
「ん? なんか言ったか?」
「いや、なんでもない。先を急ごう」
ライアーに向けて感謝を告げたベルゴは、不思議に思ったシャックスの問いかけを有耶無耶にして先へと進む。
「この先、もうすぐ地下の闘技場に着く」
「地下に闘技場ぉ? なんだってそんなもの……」
「随分昔は死刑囚を魔物と戦わせていたらしい。まあ、とっくの昔に閉鎖されて、今ではもっぱら
万が一魔物が外に逃げないようにも便利だ、とベルゴは語る。
魔物は魔物。たとえ事故でも魔物が自由の身となり、市民が怪我を負えば聖堂騎士団が責任を負わなければならない。
そういう意味でも地下の闘技場を闘技場として使うのは都合が良かった。
「少し広いところに出る。場合によっては敵が待ち構えているかもしれん。覚悟しろよ」
「お、おぅ!」
「それでは──行くぞ」
いよいよ実験場目前までたどり着いたベルゴは、地下水路と闘技場を繋ぐ扉に手を掛ける。
(敵は──)
ゆっくりと扉を開く。
その際、周囲への警戒は緩めない。
最大限の警戒を払いながらクリアリングを行い、安全確保に努める。
闘技場には──誰も居なかった。
「ほっ……」
「シャックス」
「うぉ!? な、なんだよ……急に声掛けんな」
「敵が居る」
「は?」
言われるや否や、シャックスは周囲を見渡した。
しかし、彼の目には人影一つさえ見つけられはしなかった。
「……本当に居るのかぁ?」
「ああ。姿を隠しているらしい。どうやら待ち構えていたようだな」
「お、おい……敵が居るっつったのは自分じゃねえか! どこ行く気だよ!?」
「決まっている」
堂々と闘技場に足を踏み入れるベルゴは、少し進んだところでスゥ、と息を吸った。
そして、
「──我は元〈灰かぶり〉騎士団長、ベルゴ!! 身を隠している悪魔よ、出てこぉい!!」
鼓膜が張り裂けんばかりの大音声。
これにはシャックスも大いに顔を引きつらせ、『こいつ……!?』とでも言いたげな表情を浮かべていた。
しかしだ。
「──お早い到着だ」
まるで自分達が来ることを分かっていたとでも言わんばかりの言葉が、闘技場に響き渡る。
スッと。
音もなく一つ分の人影が、闘技場に零れ落ちた。
「わたくしの見立てよりずっと早い。流石はケルベロスを突破してきただけはある」
「貴様は?」
「わたくしはネビロス様の片腕、〈
牛の頭蓋骨に眼鏡を掛けたような姿の悪魔が指を鳴らす。
次の瞬間、闘技場の外周へ次々に何者かが現れた。
「……こやつらは?」
「我らがネビロス様の崇高な研究により生み出された屍兵──『
「死隊……?」
怪訝そうに眉を顰めるベルゴは、ゆらりゆらりと歩み寄って来る人影をジッと見つめる。
たしかにセルグラトが紹介したように、全員が鎧を身にまとい、まるで騎士の如き姿をしている。
だが、何かが引っかかるベルゴは一瞬逡巡し──ある一人を見た途端、悍ましい答えにたどり着いた。
「まさかこやつらは……!?」
「その通り。我々が回収した騎士共ですよ」
「死んだ騎士を死霊術で操っているのか!?」
ベルゴは激高し、声を荒げる。
そう、今彼の前に立ちはだかる死霊の騎士は〈灰かぶり〉の鎧を纏う、正真正銘元聖堂騎士団員であった。
ちょくちょく見たことのある顔が居るのはその為だ。
10年以上もの間弔われなかった彼らの死体は、レイエルと同じように悪魔に弄ばれ、人類に仇なすという最大限の侮辱を受けていた。
「この外道めが……ッ!!」
「それはあくまで人間の観点からの物言いです。我らにとって屈強な騎士の肉体は、優秀な屍兵を生み出す素体……むしろ、利用しない方が彼らに対する冒涜だと捉えますが?」
「その為に国に、人に!! かつての仲間に刃を向けさせることがか!!?」
いよいよ堪え切れなくなったベルゴは剣を抜いた。
身の丈ほどもある巨大な剣の刀身に光が差し込み、ギラギラとした反射光を辺りに撒き散らす。
しかし、それを見た屍兵『
(騎士の数は……八!)
「おっと、ただの屍兵と見ない方がよろしい」
「なんだと?」
「これはネビロス様が自ら手掛けた特別品……ゆえに、このようなことも可能だ」
再びセルグラトが指を鳴らす。
刹那、異変が起こった。
「うっ!?」
じりじりとベルゴに歩み寄っていた死隊が苦しみ始める。
全身に散見される縫合痕から血が溢れ出し、身を捩る死隊はその場に蹲るではないか。
見るに堪えない光景に目を細めるベルゴ。
しかし次の瞬間、彼は瞠目せざるを得なくなった。
「があああああ!!!」
「なにっ!?」
死隊の全身に走る紋様──否、
〈罪〉を解放した者にのみ発現する紋様に、ベルゴの頬には一筋の汗が流れる。
「馬鹿な……いくら罪冠具を身に着けさせたとて、死体が〈罪〉を解放するなど!!?」
「──そうです。それこそがネビロス様の研究テーマの一つ」
セルグラトは恍惚としたような声色で紡ぐ。
「我らが崇高で偉大なネビロス様が成し遂げし偉業。それこそが『死体の罪化』。生者の特権たる〈罪〉の力をいかにして死体に発現させるか……ネビロス様はその過酷かつ困難な問題を解決してみせたのです!」
「こんなもの……彼らの魂に対する冒涜だ!! 罪とは自分の罪を受け入れる意思の力!! それを他者がどうこうしようなどと!!」
怒るベルゴは切っ先をセルグラトへと向ける。
だが、その切っ先は間もなく眼前に迫ってきた死隊の一人によって阻まれる。
高速で肉薄しての振り下ろし。
罪化に伴う身体能力向上を果たした騎士の一閃に、ベルゴは防御をやむなくされる。
「クッ……!!?」
「貴方にはできる限り長く生き延びていただきたい。そうでなくては折角の実戦データを得られませんからね」
「貴様ぁ……!!」
「そしてこれらのデータはネビロス様の糧に……いずれは魔王軍全体の利益となるでしょう。その礎となれること……貴方は涙を流し、恐悦に浸るべきなのです」
傲岸不遜に語り終えたセルグラトが指を鳴らせば、苦しむ死隊の眼光が一斉にベルゴへと集まる。
誰もかれもが息を荒くし、激痛に喘ぐように身を捩らせている。
体中の穴という穴から血を滴らせる姿は明らかに異常な光景だ。
(死体を無理やり動かされ、罪化を強制され……)
きっと苦しんでいるはずだ。
そう理解し、ベルゴは目を伏せた。
そして──。
「──告解する」
「!!」
鼻につけたピアスに触れたベルゴの声に、セルグラトが被った頭蓋骨の奥の瞳を見開く。
「ほう……罪使いでしたか。これはこれは。重畳ですね。ただの人間よりもずっと有意義なデータを取れる」
「そんなものなど与えはしない」
「……なんですって?」
訝しむセルグラトの声色。
しかし、それに構わずベルゴの声は続いた。
「我が〈
その名にセルグラトは刮目した。
「〈怠惰〉……? まさか──!!!」
その時、彼は猛獣を見た。
ベルゴより解き放たれる魔力。
その超絶的な力が幻視させる〈罪〉の根源を。
「我は──〈
ドギュウ! と。
まるで暴風でも巻き起こったかのような魔力の流れが闘技場を襲う。
常人では立つことさえままならぬ暴風に、八人の死隊は必死にその場に留まろうとする。
だがしかし、彼だけは──ベルゴだけは悠然とその場に立っていた。
灰色の罪紋が光り輝く大剣を片手に──。
「セルグラトと言ったか」
伸びた犬歯を覗かせながら、肉食獣が如き眼光を放つベルゴは告げる。
「──貴様の〈罪〉をこの場で裁く。オレが裁く」
彼は〈怠惰のベルゴ〉。
聖都を焼いた炎に、故郷も、仲間も、家族さえも奪われた男。
ただし、一日として己が力を磨かなかった日はない。
全ては、今日という日の為に。
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