第二章 怠惰の聖騎士

第38話 作曲は鼻歌の始まり




 聖都グラーテを発ってから数日。


「うぇ……足が痛いぃ~」

「頑張れアータン! 負けるなアータン! 次の宿場町までもうちょっとだ!」

「うぅ~、頑張る……」


 俺とアータンの二人は、ディア教国へと向かうべく王都を目指していた。

 ……のだが、一つ前の駅馬車が全て埋まっていた為に、次の宿場町まで徒歩で向かっていた。幸いそう距離は長くないものの、それでも20㎞も歩けば脚が棒になるだろう。

 案の定、うちの可愛い可愛いアータンは、歩き慣れていない長距離歩行に音を上げていた。


「も、もう無理……ちょっと休憩……」

「そうだな~。この辺で一旦休憩がてら昼飯にするか~」

「ごめんね、ライアー……私なんかの為に……」

「『私なんか』なんて言わないであそばせ!」

「似非お嬢様が出てきたぁ……」


 俺のおふざけに対するツッコミにいつものキレはない。

 なるほど、相当疲れているな。

 なんか最近アータンのツッコミを元気の指標にしているところがあるが、それなりに精度は高いので役には立つ。

 冒険に無理は禁物だ。限界以上に頑張ってへとへとになるよりも、適度に休憩して余力を残した方が絶対にいい。でなければ、死ぬほど眠い夜中に夜盗に襲われて……なんていう地獄を見ずに済むのだ。


「昼飯は……そうだな、チャーハンにしよう」

「チャーハン?」

「米と具材を炒めた後、仕上げに卵も入れて炒める料理だな」

「へー、ピラフみたいだね」

「嘘だ。今のは焼き飯の作り方だ」

「しまった、油断してた!? ……じゃあチャーハンの作り方は?」

「卵を炒めてから米と具材を入れて炒める料理」

「……そんなに変わらなくない?」


 鋭いなアータン。俺もぶっちゃけそう思う。

 けど、あれなんだろ。卵を先に炒めることで卵と米が絡み合って食感が……こう、いい感じになるんだろ。


 とにかく、米と卵を炒めりゃあチャーハンになるんだよォ!

 大切なのは俺達がそいつをチャーハンと信じてやれるかだ!

 信じてやれよ、仲間だろうが!


「この朝に炊いた米と卵、そしてビュートから譲り受けた料理のさしすせその一つ! 醤油さえあれば美味しく完成しちまうわけよぉー!」

「料理のさしすせそ?」

「おう。俺の故郷の料理に欠かせない調味料の五つだ」


 日本料理って言っても通じないだろうからこう答える。

 ギルシン世界で日本というと、東方にあるサブソーレ群島───現アヴァリー教国が該当するのだが、その話はまた今度することにして、と。


「へー! 料理のさしすせそって何があるの?」

「さ! 砂糖!」

「うん」

「し! 醤油!」

「うんうん」

「す! スォイソースしょうゆ!」

「うん?」

「せ! せうゆしょうゆ!」

「ううん??」

「そ! ソイソース!」

「醤油四回出しゃばった?」


 アータン……醤油はな、万能調味料なんだよ。

 実際、醤油は旨味の素であるアミノ酸が豊富なのだ。小さい頃、まだガキだった俺は『醤油うんめぇ~』とか言いながらチビチビ舐めていたわけだが、実際に旨味がたんまりと入ったチート調味料だったわけね。ただし、良い子の諸君は醤油を舐めるなんて真似はやめよう。いつか高血圧になっちゃうぞ。


「それじゃあチャパティ以来のライアークッキングの始まりだぁ!」

「わぁい!」

「まずは火を用意するぅ! アータン、火を熾してたもれ!」

「うん!」


 今回料理のサポートをしていただけるのは、駆け出しの魔法使いアータン先生です。

 悪魔の軍勢をクソデカ水龍で粉砕した彼女ですが、繊細な魔法操作もお手の物。料理に適した火を熾してくれる。

 魔法は便利だ。薪やらなにやらがなくとも火を点けられるのだから。俺も〈火魔法〉使えるようになりたかったです。


 しかし、ないものねだりをしてもしょうがない。

 俺はアータンにスキレットを託し、〈火魔法〉の上に構えるよう指示を出す。


「そこに油を入れ、鍋をチンチンになるまで熱するんだ。チャーハンは火力が命だからな」

「へー」


 アータンが感心しながら聞いている姿を横目に、俺は具材を切っていく。

 今回の具は干し肉だ。程よい塩気と乾燥によって生まれた旨味が、いい感じにチャーハンとマリアージュしてくれるのを期待してのセレクトである。

 だが、このままデカくて硬い干し肉をぶち込むわけにはいかない。細かく切り刻んでから入れた方が食べやすいだろう。


 というわけで、鍋が温まるまでの間、干し肉を包丁で細かく切っていくことにする。

 まな板の上に干し肉を置き、リズムよく包丁で刻んでいく。

 タンタンタンと、まるでリズムゲームだ。


「~♪」

「鼻息なんか歌ってごきげんだね、ライアー」

「アータンタンタンタンタカタ~ン♪ タンタカアータンタンタンタ~ン♪」

「何その歌!?」

「え?」


 アータンを崇め奉る歌だが……?


 なんて言ったら、アータンが顔を真っ赤にしながらポコポコ殴って来る。

 はっはっは、全然痛くないぞ。でも手に持っているスキレット、めちゃめちゃ熱放っているから近づけるのやめて。めっっっちゃ怖い。


「恥ずかしいからその歌やめて!」

「どうして……カワイイのに……」

「禁止!」

「……タンタカアータン……」

「き・ん・し!」


 禁止されてしまった。

 こうやって宗教というものは弾圧されていくんだな……俺は悲しいよ。


 こうしてリズムも刻めなくなった俺は、黙々と干し肉を刻むことになった。

 心なしかまな板に振れる包丁の音も虚しく響いている。


「じゃあ、熱したスキレットに溶き卵を投入しまぁす……」

「そんなにテンション下がるの!? 私が悪いの!? あぁ~、もう! 分かったから! 鼻歌なら許すから!」

「フーフンフンフンフンフンフ~ン! フンフフフーフンフンフンフ~ン!」

「なんでそんな全力なの!!?」


 料理で気合いを入れるべきはそこじゃないよ!? とのアータンの正論が青空に響く。

 かくして主神より許しを得た俺は、『アータンの歌(仮称)』を鼻歌で歌いながら、溶き卵に朝炊いた米をぶち込む。

 チャーハンは火力と時間が命。高火力でサッと炒めてこそ、パラパラながらしっとりと水分を含んだ極上のチャーハンになるのだ。


 そこに醤油のコクと塩気、干し肉のうま味、さらにはネギの風味なんかが加われば……あ。


「ネギがねえ!!」

「え?」

「ネギネギネギ!? ネギが無ぁぁあああい!! アータン、ネギ無いよぉぉぉおお!!」

「私に言われても……」

「アータン、ちょっとチャーハン見てて!! 速攻でネギ見つけてくるから!!」

「嘘!? ちょっと、ライアー!?」


 ネギっぽい野草なんてそこら中に生えてんだろ!

 幸い金がない時代からよく野草を採っていたから、そこら辺の見極めはできる。


 チャーハンをアータンに任せた俺は、早速周囲を探索してネギの代わりとなる野草を探す。


「あった! タマタマタマネギ!」


 俺が見つけた野草は『タマタマタマネギ』と言われるネギ属の野草。たまたま見つけたタマネギだからタマタマタマネギなのではなく、たまたまタマネギみたいになったネギだからタマタマタマネギなのだ。れっきとしたそういう品種である。

 基本的にはほとんどネギっぽい見た目をしているが、10分の1ぐらいの確率で鱗茎がタマネギのように丸っこくなるという面白い植物だ。


 でも、基本的には味がネギ寄りなので、調理用途もネギに倣った方がいい。


「よっしゃ! 待ってろアータン!」


 美味しいチャーハン作ったるからな!

 待っとれぃ!


 そんなことを考えながら戻っている最中だった。


「ん?」


 何か聞こえてくる。歌のような声だ。

 だが間違いない、これはアータンの声だ。俺がアータンの声を聞き間違えるはずがない。

 一体何の歌を歌っているのだろう……足音を立てるのを止め、隠密でアータンの下まで近寄っていく。


 すると───。


「アータンタンタンタンタカタ~ン♪ タンタカアータンタンタンタ~ン♪」


 天使が歌っていた。

 もしくは妖精さんかな?

 いや、あれはアータンだ。


「アータンタンタンタンタカタ~ン♪ タンタカアータンタンタンタ~ン♪」


 アータンがつい先ほどの歌を口ずさみながら、チャーハンを炒めていたのだ。

 俺が居ない間、きっとああやって歌いながらチャーハンが焦げないよう掻き混ぜてくれていたのだろう。

 しかも、リズムに乗って頭がゆらゆら左右に揺れている。

 無意識なのか意識的なのか定かではないが、ただ一つだけはっきりとしている事実がある。


「いや、え……尊……」

「はっ!?」


 思わず漏れた俺の声に気付き、アータンの肩がビクリと跳ね上がる。

 少女が振り返れば、照れ顔は茹蛸の如く真っ赤に染まり上がっていた。


「き……聴いてた?」

「聴いてた」

「……だ、だって……なんか頭に残るメロディーだったから、つい……」

「……二番考える?」

「却下!」


 でもこの後二番を一緒に考えた。

 チャーハンはちょっと焦げたが、美味しかった。




「……で、そのタマネギは何?」

「タマタマタマネギ。たまたまタマネギっぽくなったネギだ」

「この世に絶対は無いんだね」




***




 『アータンの歌(決定版)』を完成させ、チャーハンを食べてお腹いっぱいになった俺達は、再び目的地に向かって足を動かしていた。

 昼食前まであんなにへとへとだったアータンも、チャーハンを食べた途端に足取りが見るからに軽くなっている。ご飯を食べれば元気が出るとはマーターさんの談だ。


「にしてもまだまだ宿場町まで距離あるな~。なんか聞きたいこととかある?」

「聞きたいこと? そんなの急に聞かれても……あっ」


 そういえば、とアータンは俺の方に顔を向けてきた。


罪化シンかについて聞かせて。特に……あの、罪度シンどⅢっていうの」

「おお、あれか。でもどっから語ったらいい? 何も制約がなければ俺は小一時間語るけど」

「じゃ、じゃあ魔人の姿について……ライアーはどうして鷲獅子グリフォンみたいな姿になったの?」


 どうやらアータンは罪化───その中でも罪度Ⅲに至った際の魔人化について興味があったようだ。

 罪度Ⅰ・Ⅱに対し、明らかに外見に大きな変化が現れるⅢ。その変わりようを見て、Ⅱまでにしか至っていないアータンは自分がどのような姿になるか疑問になったのかもしれない。


 となれば、あれから語るしかあるまい。


「アータン、この前プルガトリア大陸の人間が、色欲の勇者デウスと魔人の姫の血を引いているって話はしたろ?」

「うん」

「色欲の勇者はな……真の勇者だったんだよ……」

「へ?」


 アータンが『何言ってんだコイツ?』みたいな視線を向けてくるが、それでも俺はこの古の勇者に対する畏敬の念を抱かずにはいられなかった。


 初代ギルシンこと『ギルティ・シン 色欲のエデン』主人公デウス。

 まだ地上に数多く暮らしていた魔人族と仲睦まじく暮らす人間の青年の一人だった彼は、ひょんなことから本作のラスボス〈原罪の魔王〉に目を付けられ、あろうことか股間の聖剣に貞操帯という名の罪冠具を嵌められることとなる。

 その封印を解きつつ、魔人の姫達と子を成す為、共に〈原罪の魔王〉を倒す旅に出る……というのが本作のあらすじだ。


 見るからにアホっぽい導入のエロゲー……そう、エロゲーなのである!

 初代ギルシンはⅡ以降のコンシューマーゲームとは違い、成年向け同人エロゲーとして発売された恋愛シミュレーション&RPGの純愛メスケモハーレム異種姦ゲームだ。

 当時としてはまだまだ世間に認知されていなかった亜人ジャンルの先駆者として海外を賑わせ、そして日本にも多くの愛好者を生み出した罪深き一作である。


 ファンからの愛称が『天才!ムラムラ動物園』や『メスケモイキそう天外!』、『ダーウィンがイけ!』な辺り内容が察せられるだろう。


 人外ジャンルなんて基本的に一般層には受けづらいだろうに、本作はその高い壁を画力と神懸かり的デザイン、そして画期的システムでぶち壊した───当時まだ人外が性癖でなかったと語るプレイヤーがそう評していたのが印象的だ。


 画力とデザインは、まあ何となくわかる。

 最新作までギルシンのキャラクターデザイン担当の神絵師が、人間と生物の特徴をうまい具合にミックスさせたデザインに仕上げているのだ。これが異形のカッコよさを持ちながら、どこか親しみやすい愛嬌があるときた。


 だが、それでも人外を受け入れづらい層を引き込んだ革新的システムがあった。

 何を隠そう、そのシステムこそ『罪化』だ。

 ゲーム内において、魔人の姫達は〈原罪の魔王〉によって魔の因子を封じ込められ、人間に近しい姿をしている。

 しかし、〈罪〉を解放して罪化していくにつれ、どんどん本来の人外染みた姿を取り戻していくのだ。


 最初に人外をドーンッ! ではなく、『まあ人間かなぁ……?』ぐらいの塩梅から徐々に慣らしていく……!

 まさに悪魔的発想! 18歳を超えた青少年達に新たな性癖を植え付けようとする開発会社の罠よ!


 そして忘れてはならぬのが、本作が恋愛シミュレーションのエロゲーでもあること。

 大体プレイヤーはお気に入りの子を口説きにいくわけだが、同人ゲーにあるまじき丁寧なストーリーを用意されたヒロイン達の魅力は、どんどんプレイヤーを人外沼に引きずり込んでいく。


 最終的にヒロインが人外の姿となった時、プレイヤーはその姿を見て拒絶する───はずもなく『いや、これイケるな……』と自身の秘められていた性癖に気付くことになるのだ!


 かくいう俺もその一人である。人外ってエッチだよね。


 でも、真の勇者はそんな姫達を一人余さず喰らいつくした主人公デウスである。

 あいつ、初見人外でも全員娶ろうという気概あったからね。それでいて誠実さの塊だからね。倫理観バグってんのか?

 流石ストライクゾーンの広さと子種の頑強さを見透かされ、ラスボスに貞操帯(罪冠具)を嵌められた男よ……まあ、最終的にその貞操帯も股間に流れた規格外の魔力で破壊したんだけど。半分ギャグに足突っ込んでるよ、あれは。


 閑話休題。


「罪度Ⅲの魔人化は、膨大な魔力にあてられた魔の因子が発現した結果だ。じゃあ、『この魔の因子はどっから来た?』って話になると、先祖を辿った先にある魔人のお姫様達になるわけだろ?」

「あー、そっか……」


 まあ、全員が全員姫の血筋ってわけでもないけれども、ここで大事なのはそれぞれ別種族の魔人の血を継いだという点になる。

 魔人族はそれぞれ『鳥人族』、『獣人族』、『木人族』、『竜人族』、『鬼人族』、『虫人族』、『魚人族』の七種だ。


 当然、魔人族とデウスの間には魔人と人間のハーフが生まれるわけだが、子孫を残すにはどんどん交配を続け、さらなる次代を生んでいかなければならない。

 血が薄まるとはいえ、流石に近親で子を成すわけにはいかない。そこでハーフの子が別の人間、または同族と子を成す。それを何代も続けていけば、一見人間の姿にしか見えない魔人の血を継いだ子供も生まれてくる。


 そんな魔人の血を継いだ人間同士がくっついたらどうなるだろう?


 ……そう。二つの魔人族の血を継いだ血統が生まれるわけだ。


「簡単に説明するとだ、俺達が罪化してどんな魔人に変身するかは、ご先祖様から受け継いだ魔の因子がどれぐらいの割合かによるってとこだ。俺の場合、鳥人族と獣人族の血が半々ぐらいだったんだろうな」

「だから鷲っぽい部分と獅子っぽい部分がある鷲獅子になったってわけだね!」

「Excellent……」

「なんで急に滑舌良くなったの?」


 アータンはそうは言うものの、話を聞いている相手の理解が早いというのはストレスがなくていいね!


 理解の早いアータンには、手っ取り早く結論を授けて進ぜよう。


「〈罪〉と魔人の姿にはある程度法則性がある。アータンの〈罪〉は〈嫉妬〉だろ? だからアータンの体には魚人族の因子が多くの割合を占めている」

「え、そうなの?」

「だからもしアータンが魔人化したら魚……人魚っぽい見た目になるかもな」

「へー! 人魚に……!」


 〈罪〉と魔人の姿は、ある程度相関関係がある。


 これにはデウスと子を成した魔人の姫達───もとい、種族全体としての気質や罪への意識が大いに関わっている。

 それぞれの姫の対応する〈罪〉はこうだ。


 何よりも誇りを尊ぶ空の支配者、鳥人族の姫アヴィスは〈傲慢〉。

 野生を生き抜く術としての勤勉、獣人族の姫ルパは〈怠惰〉。

 番という概念がなく花粉せいし受粉じゅせい、木人族の姫ピスティーロは〈色欲〉。

 己が納得できぬ不条理には憤る、竜人族の姫ラチェルタは〈憤怒〉。

 欲しい物は力尽くでも奪い取る、鬼人族の姫ラミアーは〈強欲〉。

 子孫繁栄がために喰らい尽くす、虫人族の姫パピリオは〈暴食〉。

 種族全体が雄性成熟のボクっ娘、魚人族の姫ピーシスは〈嫉妬〉。


 と、このようにそれぞれの種族が七つの大罪に関連していた。

 なので、後続のタイトルでは宿した〈罪〉の系譜に応じて、魔人化した姿も〈罪〉に対応した姿になるというわけだ。


 ……まあ、流石に後続タイトルになるにつれて〈色欲〉の木人族設定はきつくなってきたのか、普通に動物モチーフになっていたけど。


 何はともあれ〈罪〉が分かっていれば、ある程度魔人の姿も推察できる。

 人魚になれるかもしれないと聞いたアータンは実に興味津々な様子だ。大人になってもそういうメルヘンは気になるお年頃なのだろう。

 俺はある程度アータンの魔人化した姿は知っているのだが……ゲームで。しかも〈堕天〉の方だが。


 あれはあれで……良い。

 おかげで悪堕ちにもハマりかけてしまった。


 でも、この世界に来てまで推しの悪堕ちを見たいとは思わない。

 ずっと笑顔がカワイイ天使で居てくれ。いや、比喩じゃなくて。


「アータンもいつか魔人になれるといいな♪」

「うーん、そんな積極的になりたいわけでもないけど……」

「でもカッコいいぞ? そしてカッコいい。さらにカッコいいんだぞ?」

「語彙をどこかに落っことした?」


 何を言うんだ。

 俺はいつだってアータンを褒め称える語彙を山ほど考えているぜ。


───ブニッ。


「「うん?」」


 他愛を無いことを考えながら歩を進める最中、何か柔らかい物を踏んだ感触が足の裏に伝わってきた。

 まるで動物の死骸でも踏んだかのような感触だ。


 だがしかしだ。


「……アータン、なんか見える?」

「ううん。何も」


 足元を見てみても、そこには盛り上がった土があるだけでそれらしき物体は見当たらない。


「……擬態した魔物が転がってるのか? ちょっと剣で突いてみるか」

「だ、大丈夫? 襲われたりしない?」

「平気平気。向こうがその気ならもう襲い掛かってるって」

「うーん、それもそうか……」

「あそーれ、ツンツン、ツンツン……」


 剣を鞘に納めたまま、不自然に盛り上がる土を突いてみる。

 やはり手に伝わってくる感触は土よりも柔らかい、もっと肉々しい感触だった。


 やはり魔物だろうか?


「イタッ!」

「ん? アータン、なんか言った?」

「え? 何も言ってないよ?」

「嘘だぁ~。今『イタッ』って聞こえたぞ」

「ライアーが言ったんじゃないの?」

「俺じゃないぞ」

「え?」

「え?」

「……」

「……」


 俺達はそっとその場から足を離し、後退った。

 仕方ない……あれをやるしかない。


「───おうおうおうおう! そこに隠れてる奴出てきなぁ! ここにおわす方をどなたと心得る! 後にも先にも並び立つことのない可愛い天使、アータン様であらせられるぞ!」

「あれ!? なんかデジャブ!?」

「え~い、頭が高い! 控えおろう!」

「ラ、ライアー! そんなこと言ったって伝わるはず……」


「はぁ……はぁ……どっちかって言ったら頭は既に低いんですけどね……」


「きゃあああああああッ!!? 〈火魔法イグニ〉!!! 〈大火魔法イグニス〉!!! 〈極大火魔法イグニエル〉ぅーッ!!!」

「地獄の三段活用ぉーっ!!?」


 なんか地面に擬態していた蛸っぽい人が現れた。

 けど、すぐさま魔法の火をぶっ放すアータンに焼かれそうになっていた。



 なんだ、こいつ。




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