第10話許さない

時刻は深夜0:00を回ったところ。


マーレから聞かされた手紙の内容について調べていればとある人物が浮かび上がった。


「ん?あっ?!テノンどうしたんだ、お前がここに来るなんて珍しいじゃないか。」


「やぁレノン。相変わらず趣味の悪い女漁りかい?」


「今日はやけにトゲトゲしいな。それはあれだろ?この趣味が悪いんじゃなく女の趣味が悪いって言うんだろ。」


「はは!よく分かってるじゃないか。」


女の甲高い笑い声に夜の喘ぎ声が聞こえてくるこの空間は、僕にとってこれ以上ないほど吐き気を覚えさせる。


そんな臭い場所にいる僕に鼻の下を見事に伸ばしたレノンが気づいたみたいで三度見はしていたよ。


こんなところでよくそんな間抜けな顔ができたものだ。


「はぁ。何があったか知らねぇが機嫌悪いからって娼婦殺すなよ?」


「やだなぁ、そんな風に見てるの?」


「前科ありだからな。」


「なんの事だろう?それに今回ここに来たのは別に目的があるからさ。殺す価値もない娼婦なんか眼中にないね。」


「別の目的?」


そう、ここにいるはずなんだ。


ていうかいるね。女の声に混ざってあいつの笑い声が聞こえてくる。気持ち悪いね。


「ある男を殺しにね。」


「はぁぁ!?おまっ、それはダメだろ!?」


「僕の忠告を無視した報いさ。」


レノンが強ばった顔で僕を止めてくるけどそんなの知らない。


キィィと少し錆びた蝶番が鳴ってゆっくりと目の前の扉を開けたら、目的の男はすぐそこにいた。


何人もの女をはべらせて喜んでいる変態がね。


「誰だ!?」


「やぁアイン。お楽しみのところ悪いね」


「テノン…?お楽しみだと分かっているなら邪魔しないでくれ」


「んー。それはできないかな?だって君、僕の忠告を無視したから。」


「ゾッ…」


はは!おかしいな?最高の笑顔を向けたはずなのに女は逃げて行くしアインの顔も酷く歪んでいるじゃないか。


武器なんか構えたりして。


僕に適うと思っているようだ。


「落ち着けってテノン。何があったんだよ」


「彼はね、僕の忠告を無視してマーレに近づいたんだ。どうしてくれるんだい?おかげて彼女、すごく不安になってるよ。」


「マーレ?って誰のことだ?」


「マーレは僕の彼女。すごく怖がりで優しすぎる子なんだよね。」


「テノンの彼女?そりゃまだすげぇのにちょっかいかけたな…。ってはぁぁ!?お前、彼女!?」


「まだ予定だけど。」


一歩、また一歩とレノンを退けて近づく僕に残っていた数人の女達も悲鳴を上げて逃げていった。


アインの顔面からは冷や汗かな?ダラダラと水滴が流れていっている。


手にしていたナイフもカランと落として戦意喪失みたいだ。


「抵抗しないのかい?」


「お、俺はやってない!!何も知らない!!」


「あっはは!会話もできなくなったみたいだ。残念だけど言い逃れはできないよ?アジトのカメラぜーんぶ確認して突き止めてるから。」


「カメラ…?そんなわけあるか!!俺はカメラの死角を知っている。そんなのなんの根拠にもならない!!」


「ふぅん?知ってるんだ、死角」


「知ってるだけだ」


「じゃぁこれなーんだ。」


じゃーん。ってせっかく緊張を和らげようと効果音まで言ってあげたのに。アインったら体を固くして震えるだなんて。


でもそれはそう。だって僕が持ってるのはアインが僕の部屋の扉に紙を差し込んでいる写真なんだから。


マーレが部屋にいるんだ。カメラの数を増やすなんて当たり前だろう?


こんな単純な事もリサーチせず僕に喧嘩を売るだなんて。呆れるよ。


「それは...な、なんで...」


「知らなかったみたいでよかったよ。カメラがアジトだけだなんて思わない方がいい。」


「嘘だ!!少し前まで何もなかっただろう!?」


「少し前にはマーレはいなかった。さて、どう死にたい?元・仲間のよしみで死に方は聞いてあげよう。」


「まて...まってくれ!!悪かった、ただ彼女が...マーレちゃんが気になっただけなんだ!!」


「にこ」


「テ、テノォ゛ッ!?」


今、なんて言った?


僕の目の前で彼女の名前を呼んだ?


あぁ、腹が立つ。前までの僕にはなかった感情だ。


胸の奥の深いところからドロドロとした怒りが溢れ出てくる。


ードサドサドサ!!ー


「って。バラバラかよ。死に方選んでねーじゃん。」


「彼女の名前を呼んだ罰。馴れ馴れしいよね、あの子の事を勝手に呼び捨てにするなんて。」


「ぞっこんだねぇ。お前がそんなに夢中になるなんて俺も気になるわ。」


「はは!やだなぁレノン。いくら君でも彼女にちょっかいかけたらこうなるよ?」


「笑えねぇ。マジで笑えねぇ。かけねぇよ、俺はそんな命知らずじゃねぇからな。」


「それならよかった。僕も君を手にかけるのは嫌だから。」


「お前に嫌だとかあんのか。」


「あるよ。その感情も彼女が植え付けた。」


本当に。君はなんて偉大なんだ。僕にここまでの感情をもたせるなんて。


さて、いらないゴミも処分できた事だ。彼女の待つ僕の部屋へ帰ろうじゃないか。










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殺し屋の狂恋 ペンギン @Yun77

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