第9話宣戦布告

あの男。マーレの元カレについて色々調べあげた。今はギャングの下っ端として匿われてるみたいだ。


まぁそんなの僕には関係の無い事なんだけど。


「ちょっと出てくるね。いい子にしててね、マーレ。」


「う…うん…。」


「ん?どうしたの、元気ないね?」


「あ…いえ…なんでも」


「??」


扉に手をかけてマーレを振り返れば何かを言いたげに目だけをキョロキョロとさせているな。


こういう時は僕に用があるって気づいたのは最近。君について知れてきているって事を実感できてとても嬉しいよ。


だから扉に背を向けて。そっと、優しく頬に手を当てて撫でながら君に聞くんだ。


「マーレ、僕の事怖い?」


「えっ!?な、なんで…?」


「くす。何か言いたそうなのに何も言わないから。君に言われることならどんな侮辱でも僕は怒らないよ?」


「ーっ。」


あぁ…困ってる。眉を八の字に寄せて少しだけ目を潤ませているんだ。襲ってしまいそうだよ。


きっと君は僕がこう言えば傷つけないために言いたい事を話すだろう?君の言葉を聞けないなんて僕には許せない事だからね。


少しズルいけど。さて、何を話すかな?


「…ほ、本当に…怒らない?」


「もちろんさ。」


「約束よ?」


「っ。…あぁ。話してごらん?」


僕を見上げる君の瞳からポロポロと涙が落ちていく。壊れ物でも触るようにその涙を拭うけど、次々に溢れてきてしまうなんて。


なにがそんなに君を悲しませているんだい?


マーレに怒ることはないけど…君をこんなにも悲しませたモノを僕は許せる気がしないな。


「け、、今朝…こんな手紙がこの部屋の扉の隙間から出ていて…」


「手紙?どれどれ。」


「ほ、本当だったら…その…ぬ、抜け出そうってっ。」


「…へぇ?」


震える手で渡された小さなメモ用紙には”テノンはお前の元カレを殺した。信じられないならその目で見るといい”と書かれて二つ折りにされている。


もちろんこれは嘘だ。僕はマーレのお願いを踏みにじる事なんて絶対にしないから。


でもマーレはどうだろう。


目の前にいるのが暗殺者だって事に変わりはない。さて、僕を信じてくれるかな?


「あの…こ、殺してなんか…いないよね?」


「ふふ。ねぇマーレ、僕は君との約束ならどんな些細なことでも破らないんだよ?しかもこんな事で君が悲しむなんて…許せないなぁ。」


「こんな事じゃないよっ。こんな事じゃ…」


「…」


…妬けてくるなぁ。そんなにその元カレが大事なの?俯いてしゃくり上げるほど傷つくなんてさ。


生きてるって事にしていっそ本当に殺す?


なんでこの男は君の心にそんなに深く根を張っているんだい?


不思議でたまらないよ。


「ひっく…ひっく…」


「はぁ…。泣かないで、マーレ。そんなに心配なら生きてるそいつをここに連れてきてもいい。」


「…え?」


「だから君はここから出ちゃダメだよ?僕が側にいないんだ、なにかあってもそれは自己責任だ。」


「っ。は、はぃ…。」


「くす。いい子だね。それじゃ、その男をここに連れてこようかな。それにそんなくだらないことを書いた奴、始末しておかないと。」


「し、始末!?それはっ」


「しーっ。ダメなんて言わせないよ?これでも僕はかなり怒りを抑えている。大丈夫…君に現場は見せないさ。」


はは!どうしてそんなに震えるのかな?


始末するなんて当たり前だろう。


なんたってマーレをここまで傷つけてその上この僕に喧嘩を売ってきたんだ。宣戦布告だろ?


この子をこんなに泣かせた罪は重いよ。


きちんと償ってもらわないと。


「あ…え、えっと…」


「行ってきますマーレ。いい子にね?」


「ま…っ…」


ーーパタン。


…扉を閉める時、なにか言ってた。


待って。かな?


待たないよ。


こんな醜い顔…君に見せられないからさ。

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