これが私の第二話

今回の依頼は、湖に現れる妖精のイタズラを止めること。


 正直に言えば、拍子抜けするほど平和な内容だ。

 魔王軍残党の全滅とか、古代遺跡探索でもない。

 ただの――妖精のイタズラを止める事。


しかしたまにはこう言ったクエストもいいものだ。


 私は隣を歩く弟子にちらりと視線を向ける。


 ……うん。

 今日もいつも通り、やたらと気合が入っている。


(転移魔法で行きましょう!)

(御御足が汚れます!)


 ……いや、歩くくらいで汚れはしないのだが。

 それに、依頼というのは過程も大切だ。


「せっかくだ。ゆっくり行こう」


 そう言うと、弟子は一瞬固まり、

 次の瞬間――


「流石です師匠!!」


 ……?

 なぜそこで感動するのだろう。


 まあいいか。

いつものことだし。



 湖に到着すると、案の定、妖精たちはすぐ姿を現した。


 光の粒が集まり、人の形を成す。

 うん、可愛らしい。


 弟子が、やけに警戒した様子で前に出ようとしたが、

 ここは落ち着かせるべきだろう。


「待て」


 妖精は悪意より、好奇心の塊だ。多分。

 力で押さえつけるより、話した方が早い。きっと。


 私は手を差し出した。

気分はナウ〇カのあれ。

ふふふ、こわくない、こわくない。


 妖精の一匹が、恐る恐る――

 そして、ちょこんと手のひらに乗る。


「なるほど。人間と遊びたかったのだな」


 わたしがニコリと微笑むと。

 妖精は嬉しそうに跳ねた。

 何故か涙を流しながら、それは圧倒的恐怖から生還したものを彷彿とさせる。なぜ?

 まぁやはり、害意はない。


 ふと横を見ると、

 弟子がなぜか祈るような姿勢で震えている。


(……感動している?)


 ああ、こういう光景が好きなのか。

 弟子は情に厚いからな。

あの伝説のドラゴンなどと言っていたトカゲにもキチンと餌をやっていたし。


「ほら、お前も拝んでいないで、戯れてみるといい」


 そう声をかけると、弟子は大喜びで手を差し出した。


 ……のだが。


 妖精は弟子の手に近づき――

 何か動作をして、

 そのまま私の元へ戻ってきた。


 弟子の顔が、ほんの一瞬だけ引きつる。


(……?)


 まあ、妖精なりの挨拶だろう。

それに妖精は人見知りだと聞く。確か。

 気にするほどのことではない。


 その直後、

 妖精が私の頬に、ちゅっと口づけた。


「んっ……」


 思わず声が漏れる。

 まったく、突然すぎる。


「イタズラ好きだな」


 弟子の方を見ると、

 笑顔が少し硬い……気がするが、気のせいだろう。



 依頼も無事に終わり、

 村へ戻ろうとした、その時だ。


 後ろがやけに騒がしい。


「やめろぉぉぉ!!」


 振り返ると――


 弟子が、宙に浮いていた。


 しかも、くるくる回っている。

 妖精たちに囲まれて。


「……」


 一瞬、言葉を失う。


 だが次の瞬間、

 私はふっと笑ってしまった。


(なんだ……)


(本当は、もっと遊びたかったのか)


 そうか。

 遠慮していたのだな。

 私の前だから、控えめにしていたのかもしれない。


 妖精たちも、本当は弟子が好きなのだろう。

 随分と楽しそうだ。


「ふふ……仲が良いのは、良いことだな」


 そう呟いて、私は再び湖へ視線を戻した。


 後ろでは、

 なぜか弟子の悲鳴が続いていたが――


 まあ、元気そうだし、大丈夫だろう。

気分はジェットコースターみたいなものかな?



 やがて、妖精たちは満足したのか姿を消し、

 弟子は地面に膝をついていた。


 ……少し、疲れたようだが。

 あれかな?はしゃぎすぎて酔ったかんじ?


 私が見ていると、

 弟子は静かに立ち上がり、こちらを見た。


 その目は、なぜか異様に真剣だった。

きっと、はしゃぎすぎたのを師匠に見られて恥ずかしいのだろう。


(……楽しかったのだろうな)


 うん、そうに違いない。


 ここは触れない方が良いだろう。

気持ちはわかる。(わかってない)


 今日の依頼は成功だ。

皆、楽しそうだった。(節穴)

これなら今後、人間にイタズラはしないだろう。あれだけ弟子と遊べたのだし、満足だろう。ちゃんと「だめだよ」って言ったし。


 私はそう結論づけ、

依頼達成と弟子の新たな一面に満足しながら

歩き出した。

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