これが私のプロローグ

私の名前は空会(そらあい)怜。

どこにでもいる――ごく普通の魔術師だ。


普段は、とある高校で生徒会長などという仮初めの人格を被り、力を隠して生活している。

理由?

決まっているだろう。


私には特別な力があるからだ!!


「お前は世界のバグみたいな存在だから、全力を出すな」


ある日、両親は真顔でそう言った。

冗談ではない。本気の目だった。

そのとき私は悟った。


――ああ、なるほど。私は“特別”なのだと。

自身には魔法の力があるのだと。


 両親はそんな異端な私を受け入れてくれた。

そんな両親には感謝しかない。

たまに遠い目をするのは何故だろう?


そんなある日のこと。

放課後、誰もいなくなった校庭で、通算13回目の魔法陣を描いていた。

この前は消し忘れて、新聞に載った。

校長にめちゃくちゃ怒られた。


――その瞬間だった。


視界が白く弾け、全身を包む浮遊感。

胃が置いていかれる、あの感じ。

気がつけば、私は見知らぬ城?の地下に立っていた。


「遂にこの時が……!」

「やはり伝説は真実だった……!」

「これで魔神様が――!」


周囲から熱量の高すぎる声が聞こえてくるが、正直どうでもよかった。


(あぁ……)


胸の奥が、じんわりと熱を持つ。


(遂に……私の物語が始まってしまったか)


止まらない。

ワクワクが、止まらない。

いつか来るだろうと思っていた。


目の前には、

「世界の悪を全部まとめて煮詰めました」

と言わんばかりの、禍々しい置物が鎮座している。


「なるほど……チュートリアル、というやつか」


私は一人でうんうんと頷いた。

RPGで言えば、最初の冒頭部分〇〇をしてイベントが進むやつだ。


テンションが上がった私は、

今まで“考えてはいたが使う機会がなかった呪文”を、深く考えず発動した。


「――境界を定義する。

 ここより先は――存在しない」


全力で、手を振り下ろす。


次の瞬間。


魔神(らしき置物)は、綺麗に真っ二つになり、

まるで最初から無かったかのように塵となって消えた。


おぉ!!遂に!遂に!夢にまで見た魔法が使用できた!!

いやー現実だと両親に「だめだよ」と言われた魔法が!

一度使おうとして、何故か全力で止められた魔法が!!

当時5歳の私はお菓子を買ってもらうことで手を打った。

あの!魔法が!


「……え?」

誰かの呟きが聞こえた。


沈黙。


「そ、そんな馬鹿な……!」

「魔神様が……!」


周囲が騒ぎ出した、その直後――

彼らもまた、同じように塵になって消滅した。


私は首をかしげる。


「うーん……よく分からないけど、まあいいか!」


魔法が使えたので満足だし!

チュートリアルにしては少し短いが、

最近のゲームはテンポ重視だし、こんなものだろう。


深く考えるのはやめ、城の外へと飛び出した。


そこに広がっていたのは、

これでもかというほど暗黒・深淵・絶望な森だった。


「いいね……最高だ」


私の中の“ワクワクさん”が、限界突破する。


前の世界では色々と制限されていたが、

ここなら問題ないだろう。

多分、異世界だし。


「――身体強化、全力解放」


私は、自身に身体強化の魔法をかけて全力で走った。


「っっはぁぁぁ!!」


風を切り、

地を砕き、

木々を薙ぎ倒しながら、森を駆ける。


全ての拘束具が外れたような感覚に、

思わず笑みがこぼれた。


「あぁ……気持ちいい……!」


魔法は本当にあったんだ!!


しばらくして落ち着き、周囲を見渡す。


――そこは、災害指定区域の候補地みたいになっていた。


「……さすがにこれはマズいか」


私は素直に反省し、とりあえず場所を移すことにした。


その辺に落ちていた棒を拾い、

地面に立てて、倒れる方向を見る。


「右、か……よし」


うむ、実に科学的だ。


棒の倒れた方向へ、私は歩き出す。


「そう――私の物語は、ここから始まるのだ!」


……そういえば。


「最初にいた場所、なんだったんだろう?」


あの時は異世界転移と魔法が使えた興奮で余り気にしていなかったが……

少し考えて、


「きっと、私への歓迎イベントみたいなやつだろう」


納得した。


――数日後。


ちょうど良さそうな場所を見つけ、

私はそこにマイホームを建てることにした。


魔法で木を切り、

魔法で地面を均し、

気づけば完成していた。


なんやかんやマイホームを豊かにしていたり、今まで考えていた技を使ったりしていたら――


「……多分、5年くらい経ったな」


ふと、気づく。


「……あれ? 歳、取ってなくない?」


少し考えて、


「なるほど。私も遂にスキル覚醒か」


きっと不老になるスキルだろうな。

残念ながらステータスオープンと20回ぐらい試したが出てこなかったので確かめる事は出来ないが…

深く考えるのはやめた。


「それより今日は、遠出してやってみたかった技25の実験だ!」


気合を入れ、手には松明を持つ。

それは違うと言うツッコミは無しで。


「いくぞ――ヨ◯・ファイヤー!!」


勢いよく息を吹く。


――直後。


「……あっ」


思った以上の威力だった。


放った先はモノの見事に焼け焦げていた。


そして――


「……ん?」


煙の向こうに、

小さな子供の姿が見えた。


「……これは、」


私は魔力(力)を抑え、ゆっくりとその子供へ近づいていく。


(大丈夫だろうか……)


そんなことを考えながら。


――自分が魔法を一切使えていないことにも、

よくあるチートはなく、

ただの身体能力であらゆる物理法則を無視していることにも、

この世界の“魔神”を既に消し去っていることにも、


まったく気づかないまま

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