ぷろろーぐ3
「……少年は、ここで待て」
ガルドは評議室の前で足を止め、そう告げた。
「え?」
「すぐ終わる」
有無を言わせぬ声だった。
重厚な扉が、ゆっくりと閉じられる。
――ごん。
鈍い音を立てて扉は完全に閉まり、カインは一人、廊下に取り残された。
「…………」
静かだ。
ついさっきまで訓練所に満ちていた喧騒が、まるで嘘のように遠い。
廊下は石造りで、窓もない。
壁に埋め込まれた灯りの魔石だけが、一定の間隔で淡く光っている。
カインは壁際に立ったまま、無意識に手を握りしめた。
(……くっくっくっく)
扉の向こうから、くぐもった声が漏れ聞こえてくる。
――想定外。
そんな言葉が聞こえてくる状況だ。
普通なら、緊張して当然だろう。
だが。
(……いよいよここまで来た)
カインは内心で肩をすくめた。
(予定通り、だな)
誰にも聞こえない、心の声。
彼は壁に背を預け、ぼんやりと天井を見上げる。
(測定器、壊れると思ってたんだよな)
正確には、
壊れない方がおかしい。
なぜなら――
(だってこれ、神様転生だし)
そう。
カインは、もともとこの世界の住人ではない。
前世は、ごく普通の日本の高校生。
放課後は友達とゲームをして、ラノベを読んで、
「異世界転生したらオレも無双できるのになー」などと、冗談半分で口にしていたタイプだ。
そして、ある日。
事故。
唐突な死。
気がつけば、白い空間。
テンプレのように現れた、自称・神様。
『すまんのう、手違いじゃ』
『お詫びに、好きなだけチートをやろう』
(……今思うと、あの時点で勝ち確だった)
身体能力強化。
魔力量∞(※ただし制御は本人次第)。
成長補正最大。
さらに、危険察知と自己最適化付き。
(オレツエーやりたいって言ったら)
(「若者らしくてよろしい!」とか言われたし)
だから。
十四歳で成人ハンター並み。
測定器が壊れる。
(そりゃ、そうなるよな)
むしろ、かなり抑えたつもりだった。
(いきなり全力だしたら悪目立ち)
(ある程度の力を出して、注目されるのは、定番展開だし)
――定番。
そう、これは彼にとって想定内の出来事だ。
(このあと、たぶん)
(「特別扱い」とか言われて)
(強い教官がついて)
(実戦訓練で頭ひとつ抜けるやつ)
ラノベで、何度も読んだ。
(うん、問題なし)
カインは、内心で頷く。
ただ――
(思ったより、話が大事になってるな)
そこだけは、少しだけ意外だった。
だが、考えてみれば当然でもある。
(まあ、隠し通せる強さじゃないし)
(ここは流れに乗るか)
そう考えた瞬間。
――あ。
自分の思考が、どこか冷静すぎることに気づく。
(……オレ、もう完全にこの世界の感覚なんだな)
前世の自分なら、もっと慌てていたはずだ。
だが今は、
「どう攻略するか」しか考えていない。
それが少し可笑しくて、
カインは、ほんのわずかに口元を緩めた。
(とりあえず――)
(この世界では、ハンターになる)
(強くなって、無双して)
(ハーレムを使って)
(全部、予定通り)
(くっくっくっくっ!最高だぜ!)
そのタイミングで。
――ぎい。
重い音を立てて、扉が開いた。
ガルドが廊下へ出てくる。
その表情は、訓練所で見せていた厳格なものと変わらない。
だが、どこか覚悟を決めたようにも見えた。
「……待たせたな」
「い、いえ」
カインは思わず背筋を伸ばす。(様に見せる)
ガルドは、短く言った。
「今日の結果については、後で説明する」
一拍置いて、続ける。
「一つだけ、覚えておけ」
その視線が、まっすぐにカインを射抜いた。
「お前は――
もう“普通の候補生”としては見られない」
カインは、静かに息を吸った。
「だが」
ガルドは、低く続ける。
「ハンターを目指す資格は、確かにある」
それは、評価だった。
そして同時に――
物語が、次の段階へ進んだことを告げる合図でもあった。
ギルドの掲示板前
「師匠、今日はこのクエストをしませんか?」
「ん?妖精のイタズラに困っているので助けてください、か」
「はい!師匠の女神の如く美しさにきっと妖精も跪くはずです!!」
「ふっ馬鹿者が」
(そう言いつつ顔が真っ赤な師匠かわわわ!)
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