第27話 truth③
「……そういえば……」
あまりにもここまでの話が衝撃すぎて生駒君のことをすっかり忘れていた。ここまでの話には生駒君の話は少ししか出ていなかった。
「2人が幼馴染であることは知ってるな?」
私は頷く。
「双子の妹である吉野 莉紗も生駒の幼馴染だ」
「そうなるね……」
「生駒は吉野 莉愛のことが好きだった。吉野 莉愛も生駒のことが好きで両想いだった。周りからは早くくっつけとか言われてたな。ただ、吉野 莉紗も生駒のことが好きだという噂があった。吉野 莉紗は大人しくてあまり主張するタイプじゃなかったし、生駒のことを好きと言ったのを誰かが聞いたわけじゃないからマジで噂だった」
「……少女漫画とかでよくありそうな三角関係だね」
「確かにな。でも、俺は噂は真実だと思ってた。何しろ吉野 莉紗の生駒に対する接し方は明らかに幼馴染を超えていたからな」
「……軽く言ったけど泥沼じゃん」
「そうだよ。泥沼だ。もしかしたら生駒と吉野 莉愛がなかなか付き合わなかったのは吉野 莉紗のことがあったからかもしれない。これは結構最近気づいたんだけどな」
確かに生駒君なら1人を傷つけないために付き合わないかもしれないと思ってしまった。
「……なかなか付き合わなかったってことは付き合ったの?」
「ああ。中学2年の春から生駒と吉野 莉愛は付き合うようになった。幼馴染の関係が崩れるかと思われたが、見た感じそんなことはなかった。生駒は吉野 莉紗とも仲良くやっていたし、姉妹仲も悪化したように見えなかった」
「3人は上手くいってたんだ」
「ああ。あの事故が起こるまでは」
「…………あの事故の後……生駒君はどうなったの?」
「相当落ち込んでいたのは間違いないし、あいつも自分を責めていただろう」
「生駒君も学校に来なかったの?」
「少しの間な。たしか1カ月くらいだったかな……。だが、あいつは吉野 莉紗と違って学校に来た。久しぶりに登校してきた時は明らかに元気はなかったし、やつれていた。みんなどうやって声をかけていいかわからなかった」
「…………そりゃ……そうだよね……」
「だが、あいつは前に進もうとしていた。吉野 莉愛のことを振り切れたようにはとても見えなかったが、あいつはっ……前に進もうとしてたんだ。学校を休むことは多かったし、遅刻してくる日も多かった。でも、学校には来ていたし……前に……進んでいたんだ……」
交野君の声は震えていた。
「俺はあいつのことをすげえと思ったよ。10年以上付き合いのある幼馴染でめちゃくちゃ好きだった恋人を事故で亡くして……自分が同じようにできるとは……思えなかった。だから……俺はできるだけのことをした。学校では積極的に話しかけて、学校に来れなかった時のノートは全部貸したし、テスト勉強も見てやった。俺にできることはきっと多くないだろうけど……あいつが前に進もうとするのを……助けてやりたいって思ったんだ……」
彼の目から涙が零れる。
「あいつのことは……好きじゃなかったんだ。むしろ嫌いで……。バスケで俺が昔からやってたポジションを奪って……最後の大会の最優秀選手も取られて……。そして俺が一目惚れした吉野 莉愛の想いを独占して……俺よりもできることが多い、あいつのことが嫌いだったんだ。あんな可愛い彼女がいて、バスケ部の主将だったら……少しは嫌味になってもいいのに……あいつはそんなこと……しなかったんだ……。めちゃくちゃ優しい……いい奴で……そこも嫌いだった……」
「………………」
私は彼の言葉を黙って聞くことしかできなかった。
「でも……仲間だったんだ……。だから、俺はあいつを助けたかったっ……!!あいつがこんな不幸な目にあって……そんなことはとても不条理に感じたんだ。あいつはっ……幸せになって明るい未来を掴まなきゃ……いけなかったんだっ!!」
あまりにも必死な訴えに思わず、私の目からも涙が零れる。
「でも……吉野 莉紗がそうさせなかった……」
「………………」
「吉野 莉紗は生駒を過去に縛り付けたんだっ!!」
交野君は握り拳をつくる。とても強い力を入れているのが見てわかった。
「生駒は本当は俺と同じ
「……それって……」
「吉野 莉紗がそこに行くからに決まってんだろっ!!」
「………………頼まれたから……?」
「わからん。問い詰めたがあいつは口を割らなかった。だが、頼まれてなくても……吉野 莉紗が吉野 莉愛として信賀学園に通うって知れば……あいつは信賀学園に進路を変えるだろうな。半年も学校に行っていない吉野 莉紗を一人にしておけなかったんだろう」
生駒君ならそうしてもおかしくないと思ってしまう。きっと交野君の予想は正しい。
「吉野 莉紗がとてつもない精神的苦痛を負ったのは間違いない。かわいそうだと……不幸だって思うよ。でも、それは生駒を縛り付ける理由にならないだろっ!!なんで前に進もうとしているやつを過去に無理やり戻すんだよっ!!吉野 莉紗が1人で吉野 莉愛を名乗って生活するならまだしも……生駒を巻き込む必要は……ないだろっ……。生駒も……生駒でそんな地獄に付き合う理由がないだろっ……!!マジ意味わかんねぇよ!!」
「……きっと……。きっと生駒君は……責任をとろうとしてるんだよ……。自分が事故の日、遅れなかったら吉野 莉愛が死ななかったかもしれないから……。吉野 莉紗がまだ振り切れていないのに……自分だけ前に進んじゃいけないとか……きっとそんなこと考えるよ……」
「そう考えても……やらねえだろ。普通はっ!!あいつは吉野 莉愛を亡くして、ずっと好きだったバスケも辞めて……南良学への進学も捨ててっ……高校3年間、下手したら未来を捨てるんだぞっ……!!」
交野君はヒートアップする。
「それだけならまだしも吉野 莉紗を吉野 莉愛として接しなけれればいけないなんてっ……尊厳破壊もいいところだろ。思い出すだけでも辛いのに……その妹を恋人としてみなければいけないとかっ……おかしいだろっ!!頭いかれてるっ……!!」
「……でも、それが……それをするのが……生駒 幸一っていう男でしょ……?そんな馬鹿なことをするやつのこと……私よりもあんたの方がわかってるでしょ……!!」
「……っ!!くっそがぁぁぁ!!」
交野君はテーブルに思いっきり拳を叩きつける。きっと交野君はわかっている。だが、それを認められないのだ。
「お、お客様……」
さすがにヒートアップし過ぎた。店員が私達を止めに来る。
「す、すみません。すぐ出ます……」
「…………すみませんでした……」
私達は喫茶店を出る。吹く風が痛く感じる。
「……悪かった……。取り乱して……」
「ううん。あそこの公園で……話そっか……」
「……ああ」
少し先に小さな公園が見えた。私達は小さな公園に移動し、ベンチに腰掛ける。
「「……………………」」
しかしどちらも中々口を開こうとはしない。さきほどあんなに話していた交野君もだ。
「……お前は2人はどうしたら……良かったと思う?」
交野君が口を開く。
「…………正解なんてわかんないよ。あえて言うなら……何もしないのが正解だったんじゃないのかな」
「それって……時間が解決するみたいな感じか?」
「こういう問題ってやっぱり他人が介入して何とかできる問題じゃないと思う」
「それは……そうだな……」
そう言ったものの実際許されるものなのだろうか。事情が事情とはいえ中学で引きこもり、高校に行かないということは将来に多大な影響がでる可能性が高い。仮に立ち直れても選択肢が限られてしまうのはあまりにも厳しい。そう考えると無理をしてでも進んで行くという吉野 莉紗の選択は間違っていない気もする。
「俺は……生駒と吉野 莉紗は離れるべきだと思う。今からでも」
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