第25話 truth
学園祭が終わって2週間が経った。学園祭が終わった直後、ステージを大成功させた私達はまるでヒーローのような扱いを受けた。しかし、それは3日ももたなかった。嬉しいような少し寂しいような複雑ではあったが、学園祭でのヒーローなど所詮そんなものだということだろう。何はともあれ私達は普通の学園生活に戻った。
変わったこともあった。それは生駒君と莉愛との過ごす時間がより増えたことだろう。休み時間は一緒に行動し、昼ご飯も一緒に食べ、放課後は一緒に帰る。放課後や休日にはファストフード店でお喋りをしたり、ボウリングやカラオケに行くこともあった。それはまるでこれまでずっと一緒にいたかのような付き合い方だった。
「おはよ」
「おはよ」
「2人とも今日の小テストの勉強はしてきた?」
鞄を自分の席に置いた莉愛が私と生駒君の近くに来る。
「やってきた」
「私はしてない」
「えー……勉強しなきゃダメだよー。成績悪くなっちゃうよ」
「確かに葛城は勉強しなさすぎだよな」
「大学とか考えてないのか?」
「考えてない。お金払ってまで勉強するつもりないし」
「え、初めて聞いたんだけど」
「俺も」
「言ってないからね」
「じゃあ、卒業したら就職するの?」
「……わかんない」
「ええ……」
「マジかよ……」
私の発言に2人は驚く。信賀学園は特別進学校というわけではないが、それなりに大学に行く人がいる。残りはほとんど専門学校だそうだ。就職する人は毎年10人ほどらしい。2年生の2学期が終わりに近づいているためクラスでも将来の話をする者は多かった。
「私、愛依と一緒にキャンパスライフ送りたいなー」
「キャンパスライフは楽しそうだけど……勉強はしたくない」
「私だってしたくないよ」
「じゃあ何で大学行くの?」
「それは……」
私の質問に莉愛は黙ってしまう。
「選択肢を広げるためだよ」
「選択肢?」
「ああ。大学生は今よりも自由度が高いだろ。行動範囲に行動時間、色んなバイトだってできる。色んな事に挑戦できるし、好きなことややりたいことを見つけることができる。視野が広がるって言ったらいいのかな」
「なるほどねぇ……」
「それに大卒の方が就職後の給料は高いからな。親が行かせてくれるなら行った方がいい」
生駒君の言うことは正しいと思う。実際にそういう人も多いのだろう。
「そもそも私これまで全然勉強してきてないから2人と一緒の大学いけないよ」
「大丈夫。私が教えるから」
莉愛が笑顔で答える。その時予鈴が鳴る。
「戻らなきゃ。じゃあね」
「うん」
「おう」
莉愛は自分の席に戻っていった。
「お前、マジでどうするつもりなんだ?」
「秘密」
「……秘密ってことは何か考えてるのか?」
「それも含めて秘密」
「じゃあ、朝のホームルーム始めるぞー」
土井先生が教室に入って来たところで私達の会話は終わった。
◇
「ここ、期末テストに出るから覚えておいてね」
年配の先生がおっとりとした口調で授業をしている。
「…………」
私はノートは一応開いているものの全く取っていなかった。隣の席の生駒君を見ると頑張ってノートをとっていた。
(まだ……あのこと気にしてるのかな……?)
思い出されるのは学園祭の夜のことだ。私が生駒君達の知られたくないものを知ってしまった日だ。あの日以降、私と生駒君の間には溝ができてしまった。
(……別に私は……言いふらしたりするつもりはないんだけど……)
本音を言ってしまえば、生駒君が隠していることを知りたい。今でもめちゃくちゃ気になっている。しかし、人には誰だってふれられたくないこと聞かれたくないことはあるはずだ。別に秘密にされたことを怒っているわけではない。私だって莉愛には義冥のことを黙っているし、両親のことを2人に話していない。
(ただ……無理はして欲しくないんだよね……)
私が秘密を知ってしまった日以降、生駒君は無理をしているように感じる。今まで通り振舞おうとしているが妙に空回りしてしまっているし、笑顔がぎごちない。常に何かを考えてしまっているような感じだ。なぜ莉愛はそれに気づかないのだろうか。
「「!!」」
生駒君と視線が合う。しかし、生駒君はすぐに目を逸らす。
「………………」
こういうことは初めてではない。何度もあった。ただ寂しいという感情が湧き上がる。生駒君が私を避ける度に心が痛む。まさか自分が誰かの行動にここまで心を動かされるようになるとは思っていなかった。
(…………どうしたら……いいんだろうか……)
きっとこの前のように生駒君を公園に呼び出そうとしても彼は何かと理由をつけて来てくれないだろう。かといって、莉愛に相談することもできない。
(……ヨシノ……リサ……)
莉愛の定期に入っていた名前を思い出す。定期に名前が書かれていることから生駒君の隠したいことの予想はかできた。確実とは言えないがほぼ正解だと思う。そんなことができるのかと考えてしまうが、実際にできている以上信じるしかないだろう。
(…………私、苦しんでいる生駒君を……もう見たくないよ……)
生駒君と私の付き合いは短い。しかし、彼と私は最初から通じ合うものがあり、学園祭を通して深く通じ合うことができたと思う。今の生駒君は本来の生駒君なのだろうか。私にはとてもそう思えなかった。私の家の地下室で苦しみながらも楽しそうにギターを弾いているのが彼本来の姿なのだと思う。彼を本来の姿にさせてあげていないのは……きっと彼女だ。私は視線を斜め前方に向ける。
(莉愛……。あんた、生駒君と付き合い長いんでしょ?生駒君が苦しんでいることを……何でわかってあげないの?生駒君を苦しんでいるのを開放できるのは……あんたしかいないでしょ)
生駒君が苦しんでいる原因を作っている要因の1つは莉愛にあると私は睨んでいた。
(あんたが……このまま生駒君を苦しめてるんだったら……私は味方になれないよ……)
莉愛も大切な仲間だった。どちらが大切かなんて順位はつけられない……はずだった。しかし、もし私の予想が当たっているのであればこのままではいられないのも事実だ。
(ねえ……生駒君、教えてよ。生駒君は……どうして欲しいの……?そんな苦しいやせ我慢姿……見てられないよ……)
私は生駒君のことを誤解していた。彼は根性無しで自己中な人だと思っていた。しかし、本当はとても繊細で自分よりも他人を優先する優しい人なのだ。そうでなければあんな土下座をするわけがない。
(私が何とかするしかない……)
現状を維持し続けるときっと生駒君は壊れてしまうだろう。非常に難しい問題のため、安易な行動は避けるべきだ。
(……でも、どうしたら……)
結局良い案は浮かばなかった。
◇
「ふう……」
休日、私は1人で駅前のショッピングモールに来ていた。何か目的があったわけではない。音楽を作っていても、練習をしていても頭が生駒君のことがよぎるのだ。家にいても何も進まないと感じたため気分転換も兼ねてショッピングモールに来たのだ。
(何か美味しいものでも食べよ)
駅前のショッピングモールにはクレープ屋やコーヒーショップなど若者に人気のお店が入っている。
(あれ……あの人って……)
目の前から歩いてくる人に見覚えがあった。隣には可愛い女の子がいた。いつぞや駅で会った生駒君の中学時代の同級生の人だ。名前は思い出せなかった。
「ん?たしか君は……」
「ちょっ……私が隣にいるのに他の女を見るってどういうこと?」
「いてて……」
彼は私の視線に気づいたようだ。私を見たせいで隣にいた女の子に耳を引っ張られている。おそらく彼女なのだろう。
「違うって。あの子、中学の時の同級生の友達なんだよ。この前会った」
「そうなんだ」
耳を解放された彼は私に近づいてくる。
「久しぶり。確か生駒の友達だよな」
「葛城 愛依です」
「俺は
「うん。1人」
「なんだ……。つまんね」
交野君はつまらなさそうな表情を浮かべる。
(あっ……もしかしたら……)
私は閃く。生駒君の同級生の彼ならヨシノ リサを知っているのではないかと。
「あの……」
「ん?」
「急にこんなこと聞いて悪いんだけど……ヨシノ リサって知ってる?」
「………………」
交野君は目を大きく開き驚く。
「お前、今日は帰れ」
そして隣にいた女の子に驚きの言葉を口にする。
「は?何それ?意味わかんないんだけど?」
「いいから帰れ」
「私よりその子がいいっていうの?」
「違えよ。こいつに用ができただけだ」
「もういいっ。知らないっ!!」
女の子は早足で去っていく。
「……い、いいの……?帰っちゃったけど……」
「いい。別に彼女じゃないし」
「そ、そうなんだ……」
想像以上に結構ぶっ飛んでいる人のようだ。
「落ち着いて話せるところに場所を変えるぞ」
「……うん……」
ヨシノ リサの名前を出した途端、彼の目つきが変わった。それはつまり彼はヨシノ リサを知っているということだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます