第11話 懐かしい顔
「
「誰?このイケメン?知り合い?」
高見が目の前の男子学生に興味を持ったようだ。
「…………ああ。中学生の時の……クラスメイトだ」
「そうなんだ。そういえば生駒って同じ中学の奴って莉愛ちゃん以外ウチの学年にいないよな?」
「……そうだったかな……」
「………………」
ちらりと莉愛の様子を確認する。莉愛の表情は固かった。
「
三峰は交野の鞄に印字されていた刺繍を見て驚く。南良学園、通称南良学は県内でも有数の進学校で有名だ。
「わ、私……用事があるんだ。先に帰るね。じゃあね」
莉愛は駆け足で改札に向かう。
「えっ……ああ。バイバイ……」
「ちょっ……莉愛……」
高見と三峰は驚いていた。驚いているのは莉愛の行動があまりにも普段とかけ離れているからだ。いつもであればにこやかに挨拶をするのが莉愛のイメージだ。
「あらら……」
葛城も似たような反応だった。
「………………」
交野は去っていく莉愛の様子を見ていた。
「ど、どういうこと?」
三峰の疑問は当然だった。
「ま、そうなるよな……」
交野はため息をついて肩を落とす。
「悪いな。変な空気にしちゃって」
「本当だよ。会いに来るなら来るって言えよ」
「お前、何かと理由をつけて断るじゃねえか」
「…………」
「2人ってどういう関係?」
よく高見はこの空気で質問をぶっこめるものだ。
「吉野を取り合った関係」
「おいっ……!!」
「「は、はぁぁ~~~!!」」
高見と三峰の声が重なる。
「修羅場じゃん」
葛城は逆に面白がっているようだった。
「っ……!!余計なことを……。お前ら帰れ」
「ええ~~、めっちゃ気になるんだけど……」
「うんうん」
高見と三峰は俺を問い詰めてくる。
「それより誰かあいつを追ってくれないか?」
「私が行くよ」
葛城がすぐに返事をしてくれる。そして、そのまま莉愛を追いかけた。
「悪い」
「確かに昔、自分に好意を持っていたやつが近づいてきたら逃げるよね」
「……頼む」
「確かにね。私も行くよ。ほら、あんたも」
「えっ!!俺、生駒の昔話聞きたいんだけど……」
「三峰、連れて行ってくれ」
「はいはい。じゃあね」
「ああ。またな」
俺と交野を残して3人は改札に向かっていく。
「お前な……変なこと言うなよ……。明日以降めんどくさいことになるだろ」
「お前の都合なんか知るかよ」
「相変わらずだな……。で、何でここにいるんだ?お前の学校、ここから離れているだろ?」
「新しいバッシュを買いにきたんだ。俺の使ってるやつ、取り扱っているところ少ないから」
「そうだったな……」
交野は紙袋を持っていた。そういえばそんなことを昔言っていたような気がする。
「で、ついでに懐かしい顔でも見てやろうかなーーって思って、改札で待ってみたわけ」
「あっそ……。そんなんでよく会えたもんだ」
「別にそんなに長居するつもりはなかったさ。でも、何となく会える気がしたんだよな」
「満足か?俺の顔を見れて」
「全然。むしろ昔の嫌な記憶が蘇った」
「そんなこと会う前にわかってただろ」
「確かにそうだな」
交野はニヤリと笑う。
「どっか入ろうぜ」
「…………ああ」
わざわざ俺のために待ってくれていたのだ。眠たい気持ちで一杯だったが、このまま帰るのも申し訳なかった。俺達は近くの全国チェーンのハンバーガーショップに入った。
「で、会いに来た本当の理由は何だ?」
「ん?さっき言ったじゃねえか。お前の顔を見に来たって」
交野はハンバーガーを頬張りながら話す。
「そんなわけないだろ」
「いや、マジだけど」
「…………」
俺は交野を疑い睨みつける。
「お前さ、また痩せた?」
「えっ……」
「3カ月前くらいに偶然本屋で会った時よりも痩せてるように思えるけど」
「……最近忙しいんだ。そのストレスかもな」
「ふーん……。忙しいってギター?」
交野は立てかけてあるギターケースを眺める。
「まあ……そんな感じ」
「ギター始めたのか?」
「最近な」
昔やっていて再開したと言うとめんどくさいことになりそうだったので、俺は最近始めたという体で話す。
「お前らしくないよな。ギターなんて」
「それは自分でも思うよ」
「もしかして学園祭に出るとか?」
「……まあ……」
「ますますお前らしくない。そんな目立つことをするなんて」
「うるせえ。巻き込まれたんだよ」
「それって一緒にいた奴ら?」
「ああ」
「少し安心したよ。お前が学生らしいことしてて。楽しんでそうじゃん、バンド」
「…………」
意外な言葉に俺の口は止まる。
「そうだな……。楽しんでるよ」
「いいんだよ。それで。ずっとあのことを引きずって学園生活を無駄にするんじゃないかと俺は思ってたからな」
「…………別に俺は無駄になんか……」
「してたよ。少なくともこの前会った時は」
交野の表情は真剣だった。
「お前は吉野のために……」
「止めろ」
俺は交野の言葉を遮る。俺は聞きたくなった。
「…………はぁ……わかったよ」
「お前はどうなんだよ?」
「俺?」
話題を変えたかったのだ。
「ああ。お前のこと、あんまり聞いていなかったしな。バスケはどうなんだ?」
「順調だよ。もう正レギュラーだし」
「さすがだな」
南良学は進学校で有名だが、バスケットボール部も強豪なことで有名だ。そこでレギュラーということは輝かしい活躍しているのだろう。
「お前はもうバスケやらないのか?」
「…………やるつもりはないな……」
俺は中学3年まではバスケットボール部に所属していた。
「信賀学も結構バスケ部強いのに」
「らしいな。けど、今更入れるわけないだろ?」
「何で?別に時期は関係ないだろ?」
「2年の夏休み終わりに入るやつとか迷惑でしかないだろ」
「確かにそれはそうだな」
「とにかく俺はもうバスケはやるつもりはないよ」
「……はぁ、相変わらず頑固だな」
交野はハンバーガーを3つ食べ終わっていた。
「ああ。俺は昔から頑固なんだ」
「ハイハイ……」
「あのさ、前から聞きたかったことあるんだけど」
「何?」
「お前さ、中学の時俺のこと嫌いだったよな?」
「ああ。嫌いだった。ちなみに今も嫌いだぞ」
「………………」
自分で聞いておいてなんだが、嫌いと言われると凹んでしまう。
「中学の時はお前のせいでシューティングガードのポジション奪われて、ポイントガードになったし、最後の大会の最優秀賞選手もお前に奪われた」
「逆恨みじゃねぇか」
「あと、俺が好きだった吉野と恋人になった」
「…………」
「ぶっちゃけ今でも俺、納得できてないんだよね。俺の方がイケメンだし、勉強もできる、バスケは確かにお前の方がシューティングガードとして上手いところもあったけど総合力では負けてるつもりはない」
「自慢かよ……」
「事実だ。正々堂々お前と勝負して吉野に振られたなら納得いくけど、俺は勝負っていう舞台にすら上がれなかった。お前は幼馴染というどうあがいても覆せないアドバンテージを持ってたからな。だから、俺はお前に負けていない。俺が同じ幼馴染なら吉野は俺と付き合ってた」
「…………お前が俺を嫌いってことは十分にわかったよ。で、お前は何でその嫌いな奴に付きまとうんだ?」
「付きまとうって言うなよ。気にかけているって言え」
「俺には付きまとわれているとしか思えないんだよ」
「悲しいねぇ。俺がお前を気にしてる理由だけど、そんなに複雑な思惑があるわけじゃない」
「本当か?」
「お前と吉野に別れて欲しいんだ」
「………………帰る」
「またな」
もう交野は俺を引き止めることはしなかった。そして、何もなかったかのように手を振る。
「…………ああ」
俺はゆっくりと席を立った。
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