第九話 色調

 白黒の少女メアリー・グレースにはこの世界の色が全く見えていない。

 そう考える根拠こんきょは、今いるこの世界がカラフルであること以外にも理由があった。

 それは、彼女自身が何度も言っていたことだ。


『怪物の姿が突然カラフルになった』


 俺の目ではモノクロにしか見えなかったあれが、彼女の眼にはカラフルに映っていた。

 逆に言うと、あの怪物はように見えている、ということになる。


 おそらく彼女は、ここが元いた世界ではないことであるうえ、色が見えなくなったことで混乱していたんだろう。

 白黒の世界で目が慣れすぎてしまっていたからだ。

 少なくとも『空が青かった』という彼女の言葉は、空は青いと習ったから、ぼやけた色でも空だから青いんだろう、というくらいの認識で言ってるニュアンスを感じ取れた。

 さて、そのことを彼女にどう伝えるか。


「いや、私だって見えてますって。空も本に書いてあった通りでしたし」


「本当に君が感じている色が、『真実の色』だと思っているんだな」


「他に正しい色があるんですか?」


「だったら今からテストしよう」


 俺は、着ているTシャツを脱ぎ始めた。


「え!? 教授、何やってるんですか! キャーーー」


 別に俺は脱ぎたがりの変態というわけではない(そもそも下にタンクトップを着てるし)。

 

 俺が脱いだのは自分の肌を見せる為ではなく、自分のTを見せる為だ。


 実は、おれのシャツは裏表リバーシブルになっていて、裏面には色々な食べ物が描かれている。 (ちなみに表は色相環しきそうかん、いつでも好きな時に色というものを確認できる為に) (メアリーはそれについても一回も言ってこなかった)

 

 俺はそのシャツを裏返し、メアリーに一つずつ見せる。


「それ、果物とか野菜とかですよね。それが何のテストになるんですか?」


「じゃあさっそくいくぞ。この色はなんだ?」


 俺は、Tシャツに描かれていた、リンゴの絵を指さした。


「どう見ても赤色じゃないですか?」


「そうか、じゃあ次だ」

 

 俺は、ピーマンの色を指さす。


「それは緑色ですよね?」


「そのままどんどんいこうか」


 一つ一つ、イラストを指さしながら確認していく。

 そして、全てのイラストの色を聞ききったのちに、


「さて、答え合わせの時間だ」

 

 このTシャツについて教える。


「メアリー、言ってくれたこのイラストの色、正解数は5問中――0問だ」


「え?」


 メアリーは驚いているだろうが、それも無理はない。

 俺は、一つずつ説明していく。


「まずメアリー、このイラスト、何のイラストだと思う?」


 俺は最初に指さしたリンゴのイラストについて再度聞く。


「それ、リンゴappleですよね? 何かおかしいところありましたか?」


「そう、リンゴだ。ただ、リンゴはリンゴでも青リンゴgreen appleだけどな。だからこの絵の色は、緑色が正しい答えだ」


「そんな……これは赤色じゃないんですか!」


「で、次のこの画像だが」


 次はピーマンのイラスト。


「これはピーマンgreen pepperなので緑色です」


「残念ながらこれは赤ピーマンred bell pepperだから赤色だ」


 俺は、他のイラスト達も同様に答えを教えていった。

 これで分かることは、メアリーには色が見えていない。

 もし見えていたとしても、微量な色だろう。

 それを知識だけの勘で考えるとしたら、最もオーソドックスな色を答えてしまう。


 だが、このTシャツは俺の自作である『T』だ。

 普段目にしている色の常識を疑い、いつでもフラットな気持ちでいるための俺の勝負服というやつだ。

 ゆえに、このイラストの色は全て、一般的な色とはずれている。

 彼女はこのトラップにまんまと引っかかったというわけだ。


「待ってください。私は異世界のゲートからやってきたって言いましたよね? 教授と色の言葉がズレていたり、野菜や果物の色がズレている可能性だってまだありませんか?」


「少なくとも空の色が青色であることは共通しているわけだし、あのイラストの中にも青色は入っていたさ。メアリーは普通にそれも間違えていたけど」


「え?」


 そこの辺りはぬかりない。

 他にも、抜け道がありそうなものは大抵試しておいた。


「てか、そろそろあの怪物がやってくる時間か」


「はい、待機しておきましょう」


 そして、のこのこやってくる化け物。


「よし、メアリー!」


「止まって!!」


 彼女の掛け声とともに、視界にとらえられた怪物は色が無くなり、動きが止まる。

 これも流れ作業になってきたものだ、もう今まで程の脅威は存在しない。


「でだメアリー、今の一連の流れに関係した話も一つある」


「これも何かおかしなところありましたか?」


「いやさ単純に、その能力を使うときに『止まって!!』って毎回言うじゃん?」


「はい」


「それちょっとダサくないか? もっとなんか固有の掛け声みたいなの欲しくね?」

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