第10話 残響、メイドは闇に微笑む

「明らかに俺(達?)を狙ってる。甘い蜜って何なんだ!」

パパタローの声は震えていた。

ふたりは、リディアとホブゴブリンのぶつかり合いに

身をすくませながら固まっているしかなかった。


その時――


《そこの子等こらよ!》


頭の内側に、誰かの声が直接飛び込んできた。


「な、なんだ!?」とパパタローが叫ぶ間もなく、


《前方に結界を作った。そこへ乗り物ごと飛び込むのだ。》


それだけ言い残すと気配はふっと消えた。


ハンドルを握る幼いパパタローの横顔を、

カリンが心配そうに見つめる。


「行って!」

カテリーナが援護しながら叫んだ。


「わ、わかった!!」


パパタローが踏み込むより先に――


ドン! ドドドドドン!!


「うわっつっつ!!」


頭上から大量のゴブリンが、

まるで人海戦術の滝のように

大木の枝から車の屋根へ降り注いだ。


天井の穴から落ちてくるやつ、

斧を振り下ろしてくるやつ、

全てがコマ送りのようにスローに見えるほど混乱している。


「この声を信じる!!」

「カリン!アクセル踏めーー!!」


「今度は踏むの!?どっちなのよ!!」

「知らねぇぇ!!」


カリンはヤケクソで――

両足でアクセルを踏み抜いた。


キュルルルルルッ!!


地面を噛んだタイヤが…

なんと逆方向へ猛スピード。


「バックだったぁぁぁ!!?」


車は獣のような勢いで逆走し、

パパタローは左に振り飛ばされる。


そして、


――ズドンッ!!


そのままホブゴブリンへぶつかった。


巨体のホブゴブリンがよろめき、

膝をついた瞬間。


「リディア!!」

カテリーナの声が響く。


蒼い影が飛ぶ。 リディアのメイスが ホブゴブリンの顎から上へと突き上がり、 そのまま頭蓋を貫通した。


巨体が沈む。 大地が揺れる。ホブゴブリンの眼からは、最後に血だけでなく、満たされない「愛」への渇望の念が、粘液のように溢れ出していた。


「ナイスアシスト。」 リディアは血飛沫を振り払いながら、振り返ってウインクした。


パパタローの鼻が“びよーん”。


カリン「タロー!今のは伸びるな!!」


その頃、車はまだ制御不能。


「わぁぁぁぁ~!!止まらねぇぇ!!」


車はぐるぐると高速回転し、 天井にしがみついていたゴブリンが 遠心力で吹き飛び、地面に叩きつけられる。


後ろを油断していたゴブリンは 跳ね飛ばされ、 フロントガラスへ正面衝突。


“ボンッ!!” ボンネットで弾んで地面へ落ちた。


――愛を求めて、愛の源泉(パパタロー)に向かい、愛の力(遠心力、ノリシオの炎)によって滅びる。それが、彼らが選んだ最期だった。


そんな地獄絵図の中―― ノリシオが赤い軌跡を描いて飛んだ。


炎を纏いながら車の周囲を旋回し、 ゴブリンの群れを焼き払い、 車体の進行方向に空気の壁を作って スピンの勢いを外へ逃がしていく。


まるで、 「パパタローの『愛』は誰にも渡さない!」 とでも言いたげに、献身的な愛を具現化する動きだった。


「ノリシオ……!」 パパタローが涙目で叫ぶと、 ノリシオは


「キョエェ♡」


と誇らしげに返事した。


カリン「なんでそんな可愛い声なのよ……ずるい……」


車は最後のスピンを描いて――


がっしゃーーーーーん。


背面のまま、白く光る結界の中へ綺麗に突っ込んだ。


「と、とまったぁ……カリン、大丈夫か……?」


「なんとか……。ちっこいと衝撃少ないみたい……」


日本製エアバッグがふたりをがっしり守ったおかげで、命はどうにか無事。パパタローはガラスで頭を切り、血が滲んでいたが意識ははっきりしている。


しかし、衝撃はそこで終わらなかった。


ドゴオオオオオオオオン!!


車を受け止めた結界が、その運動エネルギーを完全に吸収しきれず、屋敷の建材へと転嫁した。


車が結界に突っ込んだ瞬間、屋敷の重厚な壁の一部が、内側から激しくえぐられたように崩壊していた。


「う、嘘だろ……」


「玄関が……!」


パパタローが乗る車体のすぐ先で、玄関ホールの壁がひび割れ、装飾やシャンデリアの一部が崩れ落ちる、凄まじい破壊音が響き渡っていた。


「よし……生きてる……まだいける……!」


カリンがほっと息をつくと、ノリシオがぴょんと車の脇に現れ、カリンの頭をぽむっと叩いた。


「キョエッ♡」


カリン「慰めてるの?……かわいい……でもむかつく……!」


パパタロー「おまえ感情忙しいな……」


そして、ホブゴブリンを倒し終えて駆けつけてきたカテリーナは、車の背後にある、崩壊した玄関ホールの惨状を見て、思わず言葉を失った。


「あ、あわわ……なんてこと……」


カテリーナは、唖然とした表情で崩れたホールを見つめたのだった。※

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