セレン節の発揮
俺にとって、昨日はあまりにも濃い一日だった。
奇跡の力に扮していた魔王とのやり取り、セレンとの再会、母さんにも起きたブライトオブエンゲージ……そして何より、これから俺はみんなと共に居ることを約束した。
それは男として、三人の女性を守ることを胸に誓ったのと同じだ。
まあ今の俺は奇跡の力もなければ、魔力なんかに関しても飛び抜けているというわけではないので、純粋な能力は母さんたちの方が圧倒的なまでのポテンシャルを誇っている。
「……完全に守られる側やんけ」
そう、今の俺は完全に守られる側だ。
それもまた悪くないとは思えるし、そもそも母さんたちがその気なのでこの構図が崩れることもない……しかし俺にもプライドはある。
母さん、リリス、セレンを越えることはまず不可能だろう。
それでも強くなることは出来るんだ……ならこれからもしっかりと鍛錬に励み、今よりも強くなることを頑張れば良い。
「しっかし、こりゃお祭り騒ぎだなぁ」
二度目になるが、昨日は濃い一日だった。
今日はその翌日となるわけだが、リリスを通じてセレンが王都に戻ってきたことが大々的に発表されたことで、このお祭り騒ぎとなっている。
昔と比べてセレンはあんな風になっていたが、それでも俺が関わらなければ根本の部分は変わらないと思っているので、この騒ぎに関しても鬱陶しいくらいにしか思っていないだろう。
「セレン様がご帰還だぁ!」
「昨日お帰りになられたんだって!」
「へぇ! ということは英雄の方々がみんな揃ったのかよ!」
「これで王国は何があっても安泰だ!」
とまあこんな調子である。
かつて魔王を倒した英雄が揃い踏みともなれば、民たちの安心感は凄まじいだろうし、他国からすれば脅威に感じる所もあるかもしれない。
とはいえ王国からどこかへ攻めるつもりはないみたいだし、リリスもセレンも争いに興味はないらしいからなぁ……脅威に思われるのもそれはそれで面倒だと感じるかもしれんな。
「さ~てと、今日はどうすっかな」
色々とあった翌日だが、今日は暇を持て余している。
母さんは体を動かしたいからと冒険者組合で依頼を受け、魔獣を狩りに外に行っているため傍には居ない。
リリスは魔法学院、セレンも研究所のことだったりと忙しそうだ。
ただこうして母さんたちと離れてはいるが、ブライトオブエンゲージの繋がりなのか妙に感じるモノがある――それは母さんたちから届く俺に会いたいという気持ちだ。
「……へへっ」
いや、こんなんテンション上がらないわけがないだろって話だ。
この状態でアリオスとリリーナとも再会したら……本当に俺のテンションはどうなってしまうんだろうと興奮が冷め止まない。
あの二人が戻ってくるまで数日はあるが……本当に楽しみだぜ。
「適当にブラブラすっかなぁ」
さてと、特に用がないなら街中をブラブラするとしようか。
ただ母さんたちに心配をかけるわけにはいかないので、嗅覚を研ぎ澄ませて厄介事には近付かないようにしなければな。
「……って、そう思ったのになぁ」
「何よ」
え~っと。
街中を散策すること少し、ここに居ないはずの女性に捕まった。
「……何でセレン、ここに居るの?」
「散歩よ散歩」
そう、昨日再会したばかりのセレンに捕まった。
英雄のご帰還ということで渦中の人物であるセレン……そんな彼女がここを歩いていれば、騒ぎにならないわけもなく。
「……………」
「はぁ、鬱陶しい視線ね」
俺たちに向けられる視線が凄いことになっている。
ただ並んでいるだけなら何もないだろうが、セレンが俺を背後から抱きしめているのも視線の多い理由だ。
……そして、こんな姿勢になっているということはだ。
セレンの豊満な膨らみが頭の上に置かれているということで……はい、頭の上が大変幸せなことになっております。
「あの~……セレン様?」
「何?」
「……………」
ちなみに今、俺たちは他所から訪れた行商人の前に立っている。
というのもセレンに会ったのがちょうど、俺がこの行商人の前で商品を見ていたからだ。
(すまねえ名前も知らぬ行商人)
俺の角度からは、セレンの表情は見えない。
しかし行商人がセレンの返事にビビリ散らかしているのを見るに、相当怖い顔で睨まれたに違いない。
でもこれも昔と変わらないな。
気心知れた俺たち以外だとこうなってしまうので、行く先々でセレンは言い合いに発展していたなぁ……本当に懐かしい。
「セレン……コホン、セレン様?」
「様は止めなさい。トワ、あんたはあたしのことを呼び捨てで呼ぶこと」
いやそれは……周りに人が居る時はマズいのでは?
そうは思ったけどセレンはこう言ったら絶対に引かないので、大人しく受け入れるしかない。
「……セレン」
「なあに?」
おぉ……行商人相手の時には考えられないくらい甘い声音だ。
「機嫌悪いの……か?」
「いいえ、あんたに会えたから機嫌が良いわ。ただ、少し見過ごせない物をついでに見てしまったからね」
「見過ごせない物?」
見過ごせない物……そうセレンが言った時、行商人の肩がビクッと震えたのを俺は見逃さなかった。
背後に立っていたセレンは俺の隣に並び、商品を手に取る。
この行商人は他国で作られたアイテムを販売しているのだが、セレンは何かを感じ取ったのかもしれない。
「これ、明らかに不良品でしょ。最初はまだ良いけれど、使って数日で恐らく壊れる……造りが雑過ぎるわこれ」
「な、何を根拠に――」
「あたしの目を誤魔化せると思ってるの? あたしは魔法だけでなく、こういったアイテムにも詳しいの」
「……………」
セレンの確信を持った言葉に、行商人は二の句を告げずに下を向く。
そういえばそうだったなと思い出したのは、セレンは確かに魔法に関する研究が好きだったが、同時にこういったアイテムに関する目利きも凄かった。
魔法の研究をすると同時に、魔法で生活を豊かにするマジックアイテムの開発にも興味を持っていたし……そう考えると、セレンの目でこれが不良品だと判断したならば、それはきっと間違ってないんだろう。
「しかし、それはあくまであなたが見ただけでしょう!? 王国の英雄とはいえ、営業妨害ではないのですか!?」
まあ確かにと、そうも思わせる行商人の言葉だ。
だがセレンは根拠もなくこんなことは言わないし、ましてや嘘は絶対に言わない女性なのは知っている。
「……はぁ、仕方ないわねぇ」
セレンはため息を吐き、魔法を発動させた。
俺はその時、言葉には出さないがこう思った――始まったぞ、と。
「何をする気ですか……?」
「黙って見てなさい」
ここでのやり取りは、既に多くの注目を集めている。
故にこうしてセレンが魔法を発動すれば、その注目は更に増えていくことになり、多くの人々がこの場を目撃することになる。
セレンの魔法……これは前にも見たことがある。
今とほぼ同じ流れになった時、相手の嘘を見抜くために使ったセレンの鑑定魔法だ。
「目ん玉見開いてよく見なさいよね」
行商人のアイテムが浮かび上がり、魔法によって鑑定されていく。
しかもそれは周りの人にも見えるように数値化されたデータとなり、商品としての売るラインを下回る不良品であると答えが出た。
「……すげえ」
宙に浮かぶデータたち……確かにこれは魔法だが、まるでこの場所だけ科学が発展したような場所にさえ思える。
だがこれこそが好きな分野のみを追い続け、魔法の深淵を極めたセレンの鑑定魔法だ。
普通の鑑定魔法は自分の中でしか答えは出ないため、このように周りの人にデータとして知らしめることは不可能……現に行商人は、完全に見破られたことに戦意を喪失している。
「分かりづらいとはいえ、見破れるレベルではあるわ。王都に入れる際の手続き……もう少し気合を入れるべきだって言っておかないとね」
「……凄いなセレン」
「ふふ~ん♪ でしょでしょ!」
その後、セレンは兵士を呼んで行商人を連れて行かせた。
既に民の何人かは商品を買ってしまった後らしいが、詐欺ではあるので対応はしてもらえるとのこと。
「さてと、それじゃあ行きましょうか」
「え? 行くって?」
なんだ、どこに行くってんだ?
「二人で静かに過ごせるところに決まってるでしょ?」
「……………」
あの……なんで舌なめずりをしながらそう言ったんですかね?
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