第三章:24話 最初の安寧と、英雄の諦念
「怠惰のロード」ナカノは、恭平が去った安眠室で、結界の壊れたクリスタルのベットで繭になり横たわっていた。彼の表情は、以前の『世界の重圧に耐える倦怠感』ではなく、『義務から解放された虚無』に満たされていた。
(チキンソード。あれは、私の「努力からの逃走願望」を具現化した魔導具だ。そして、それを手にしたのが、まさか、あの「卑屈さ」を極めた恭平とは……)
ナカノは、かつて世界を救うために「最大の努力」をした英雄だった。しかし、その努力が報われず、世界が再び危機に瀕するたびに、彼は「努力の無意味さ」に絶望した。そして、彼は、『世界を救う努力』から完全に逃れるため、怠惰のマスターとなったのだ。
ナカノの目に映る恭平は、「世界を救う」という大きな義務を一切持たず、ただ「自分の安寧」という小さな欲望のためにのみ動く存在だった。
(あの男は、『努力』を『安寧という名の報酬』を得るための『コスト』だと割り切っている。それは、私の辿った『英雄の義務』という名の『無償の努力』とは、真逆の生き方だ)
ナカノは、恭平がチキンソードを手に、再び自分のマグネタイト採掘という「地味な日常」に戻るだろうと考えていた。それは、彼の「怠惰の哲学」が認める、最も「無価値で安全な生き方」だった。
だが、ナカノの心の奥底には、『世界は、結局、力や英雄ではなく、卑屈さによって崩壊するのではないか』という、微かな、そして悪意に満ちた期待があった。
(恭平よ。お前は、『安寧』のために、決して『無駄な行動』はしない。しかし、世界が、お前の『安寧』を脅かし続けたとき……お前は、その『安寧』を守るため、どこまで『卑屈で、最大の努力』をするのだろうか?)
ナカノは、恭平が世界の核心に触れる可能性、そしてその「卑屈さ」が、他の大罪マスターの「各々な哲学」を最も効率的に破壊する可能性を、無意識のうちに予見していた。
彼は、目を閉じ、再び深い眠りについた。彼の「怠惰な日常」は続行されたが、チキンソードを恭平に渡した行為は、彼の知らないうちに、世界の歯車を「卑屈な加速」へと導く、最初の「努力」となってしまったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※少し更新が空きます。
2025/11/22から更新予定です
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます