第四章:27話 暴食のダンジョンと恭平の再会
恭平は、混乱するゲート型ダンジョンから遠く離れた日本の海岸線にたどり着いた。疲労は激しいが、チキンソードの魔力が微弱ながら回復し始めており、最悪の状態は脱していた。
「ふう……まずは、故郷のダンジョン状況を確認する」
彼は、東京の中心部にそびえ立つ「暴食のダンジョン」へと向かった。このダンジョンは、恭平にとって、かつて「楽に稼ぐ」ための拠点であり、彼の「安全第一」な冒険者人生の始まりの地だ。
街の様子は、以前にも増して緊迫していた。国際的なダンジョンマスターの戦争の噂は、既に日本の探索者コミュニティにも広がり、暴食のダンジョンへの警戒態勢は最高レベルに達している。
ダンジョン周辺のエリアは、武装した警備隊と、厳戒態勢の探索者たちでごった返していた。恭平は、再び目立たない服装に変装し、情報収集に努めた。
「暴食のロードは、人間の警備隊と秘密裏に協定を結んでいるようだ。外部からの侵略を防ぐため、資源の提供を増やしているらしい」
『マスター。暴食のロードは、あくまで『安寧』を望んでいます。彼の『飽食』の原則は、外部の強大な力による介入で、自身の『食料庫』が荒らされることを最も嫌います。これは、我々にとって一時的な安全をもたらすでしょう』
恭平は、ダンジョン入口を遠巻きに見つめた。彼が次に取るべき行動は、暴食のロードと秘密裏に接触し、彼らの協定をさらに強固にするための「取引」を持ちかけることだ。ロードが「安寧」を望むなら、恭平はそれに協力することで、自分の安全を確保できる。
その時、恭平の視界に、一つの顔が飛び込んできた。
「……スネーカー」
人気ダンジョン配信者、「スネーカー」だ。彼は、最新鋭の派手な装備を身に着け、数人の取り巻きとカメラを連れて、ダンジョン入口に立っていた。彼の表情は自信に満ち溢れ、まるで自分こそが、この危機を救う英雄であるかのように振る舞っている。
『皆さん!見てください!強欲、傲慢、憤怒の軍勢の侵攻は、一時的に食い止められました!我々、日本のランカーと、暴食のロードの協定が、この平和を守っているのです!さあ、今日も平和のために、深層に挑みます!高評価とチャンネル登録、お願いします!』
スネーカーは、カメラに向かって大袈裟にポーズを決め、群衆の歓声を浴びた。
恭平の胸の奥で、再び、抑えがたい嫉妬と嫌悪の感情が湧き上がった。
「くそっ、あいつは……俺が命がけで逃走経路を破壊したおかげで、英雄気取りか」
チキンソードとの契約で、アザゼルに「嫉妬」を対価として奪われたはずだったが、それは完全に消えたわけではなかった。それは、恭平の努力が報われないことへの、根深い不満として再燃したのだ。
『マスター。感情の浪費は、最も非効率的な行為です。彼らは、あくまで『目立つ』という目的のために、無駄なリスクを負っています。我々は彼らを無視し、より確実な『安全』の確保に注力すべきです』
チキンソードの冷徹な声が、恭平の感情を鎮めようとする。
しかし、恭平は、その感情を抑え込むことができなかった。彼は、スネーカーの虚栄心と、その背後にある無知な群衆の熱狂を見るたび、自分が過去に失ったものと、現在の「怠慢な逃亡者」としての立場を痛感するのだ。
(あいつらは、何も知らない。この安寧が、どれほどの『努力』と『危険』の上に成り立っているのかを)
恭平は、チキンソードの助言に逆らい、スネーカーに接触することを決意した。しかし、それは感情的な衝突のためではない。彼の「安全第一」の哲学に基づく、「敵の敵は利用する」という新たな策略だった。
「チキンソード。あの目立ちたがり屋を、暴食のロードとの交渉に利用する。奴の『傲慢さ』と『注目度』は、最高の囮になるはずだ」
恭平は、深い隈のある顔に、冷たい笑みを浮かべた。彼の次の行動は、スネーカーの「英雄願望」を利用した、極めて非道徳的な「逃走の策謀」だった。彼は、自分の安全のためなら、他人の人生すらも、躊躇なく「道具」として利用する道を選んだ。
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