第四章:26話 裏ルートの破壊工作
恭平は、最終的に、ヨーロッパからアジアへ続く、最も目立たない海上ルートを経由し、目的のゲート型ダンジョンに到着した。それは、日本の沖合の無人島に隠された、小さなゲートだった。
ゲートの周囲は、予期していた通り、強欲・傲慢・憤怒の同盟軍の「輸送隊」の準備で賑わっていた。彼らは、人間側の警備をあざ笑うかのように、ゲートから次々と、巨大な戦車型の魔物や、高位の魔法使い型魔物を送り出していた。
恭平は、島の茂みに潜伏し、高倍率の魔導スコープで状況を観察する。
『マスター。憤怒のロードの斥候が、既に島全体を警戒しています。彼らは、貴方様がこの『裏ルート』を使うことを、どこかで予期している可能性があります』
「アザゼルめ、契約の穴をつきやがったか。俺が憤怒の軍勢の動きを求めたことで、俺の計画が、悪魔側の情報源に漏れた」
恭平は舌打ちをしたが、焦りはしなかった。彼の計画は、既にその裏切りを前提としていた。
「計画変更だ。正面から裏ルートを破壊するのはリスクが高すぎる。俺は、『憤怒の軍勢を、憤怒のダンジョンへ、自ら逃げ帰らせる』」
恭平は、自己崩壊型囮ドローンを起動させ、自分が通って来たルートに沿って飛ばした。ドローンは、恭平の偽装痕跡を残しつつ、島の反対方向へと向かう。憤怒の斥候たちは、その偽装痕跡に釣られ、島の反対側へと注意を逸らした。
その隙に恭平は、高出力広域魔力遮断フィールド発生装置を起動させた。
ヴィィィィン……
島全体に、強烈な魔力遮断の波が広がる。これにより、ゲートから出ようとしていた傲慢の魔法使い型魔物の、通信と魔法防御が一瞬で麻痺した。
「今だ!」
恭平は、遮断フィールドの影響を受けない小型レールガンを構え、輸送部隊の最も脆弱な箇所――巨大な戦車型魔物の駆動システムを、正確に狙撃した。
ダダダダダッ!
連続した精密射撃により、戦車型魔物は機能を停止し、輸送ルートを塞いだ。
そして、恭平は、事前に準備していた、憤怒のロードが最も嫌う周波数の音響弾を、ゲートの真上に投げ込んだ。
キィィィィン!
その音響弾は、憤怒の軍勢の神経を直接刺激する周波数を発し、彼らを極度の不快感と混乱に陥れた。
「憤怒のロードは、『静かに怒り、効率的に破壊すること』を望む。この無秩序で、無駄な騒音と混乱は、彼らの『憤怒の美学』に反する!」
恭平の狙いは的中した。混乱した憤怒の斥候たちが、「この無駄な騒動から逃れる」ために、ゲートの中へと一斉に後退し始めた。彼らは、ゲートから出てくるどころか、逆にゲートへと押し込まれ、輸送ルートは完全に大混乱に陥った。
恭平は、その騒動を尻目に、島の反対側へと全速力で逃走した。彼の顔には、疲労と、そして満足げな笑みが浮かんでいた。
『マスター。究極の逃走です。最小限の戦闘、最大限の欺瞞と攪乱。これで、日本の暴食のダンジョンへの大規模侵攻は、数週間遅れるでしょう』
チキンソードの言葉に、恭平は激しい疲労と共に深く頷いた。彼の「安全第一」な老後のための貯金は、一時的にせよ、守られたのだ。
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