ヴェリタ王子救出② (オヅマ)
ヴェリタ王子処刑の日。
王都オルゴニアの南部にあるエゼコチオネ処刑場は、曇天に覆われていた。
処刑予定時刻は正午。
となっているが、侵略国であるクイスタ皇国による処刑が早まろうと遅くなろうと、文句を言う者などいない。
オヅマは予定時刻より三時間以上早く、このエゼコチオネ処刑場を監視していた。
処刑場は小高い山に囲まれた盆地にあった。
石造りの壁に囲まれているがその高さは低く、処刑台は見通しが良い場所にあるため、山の中からでも様子をうかがうことができた。
警備的な観点から考えれば守るべき場所が多い危険な場所と造りだが、恐らくは処刑という見世物をより多くの国民に見せることを第一に考えたのだろう。
「んー。予定どおり正午くらいになりそうだな。それはそれとして、なんで二人ともここにいるのさ」
処刑場の様子が慌ただしくなってきたのを見届け、オヅマは背後に立っている二人の女性に胡乱な目を向けた。
白い虎型の召魔、キオードの背に乗ったリベルタとディニーが顔を見合わせる。
「貴様がちゃんと仕事をするか、見届けにきたのだ。たらたら現場に行って『ゴメンゴメン、もう処刑されてたよ』なんて報告をされては困るからな」
「えー。俺ってまだそんなに信用ないの? ヘコむなぁ。だとしても、王女――」
「リベルタで良いと言ったハズだ。オヅマ殿」
ディニーの後ろから顔を出したリベルタ王女殿下が、わざわざ呼び方を訂正してきた。一国の王女を名前で、しかも呼び捨てにして本当に問題ないのだろうかと
「あー。リベルタは――」
本人からの指示通りに名前を呼び捨てにしただけなのに、ディニーが殺意もりもりの視線でにらんでくるんだけど。
「リベルタ……さんは、向こうで待っていても良かったんじゃない?」
「チッ。あの城塞にはまだレプルがいるからな。一度、王国を裏切る選択をした男のいる場所に殿下を一人にするなどあり得ない。それにキオードの脚があれば、お前に何かあってもすぐに逃げられるから問題はない」
一応、軽い敬称をつけて呼んでみたところ、大きく舌打ちをしたディニーの視線が汚いモノを見るくらいのものに変わった。それはそれでどうかと思ったオヅマだったが、殺意を向けられるよりは幾分マシだと思うことにした。
ともあれ。ヴェリタ王子救出作戦に従事するのはオヅマ一人、という計画には変更なく、その監視をするために二人でここまでやってきたらしい。
スパックォ城塞を出発してからここまで、後ろをついてきていることには気づいていたが、現場のすぐ近くまで来たのはリベルタがそれほど弟のことを心配しているという証左であろう。
「そうかい、そうかい。俺も今回ばかりはそっちを気にしてる余裕はないから、リベルタさんのことはきっちり守ってくれよ」
「……ッ!? そんなことは貴様に言われるまでも――」
「しっ! 静かに!! ……どうやら、王子殿下のお出ましみたいだ」
二人と遊んでいられる時間がなくなった。
曇り空で太陽の位置はわからないが、時間は間もなく正午。
「時間は守るタイプなんだな」
改めてエゼコチオネ処刑場へと目を向けると、顔に麻袋を被せられた男が兵士に連れられて処刑台へと歩いてくるのが見えた。
処刑を見に来ている者もいるが、処刑場の中にいるのはクイスタ皇国の兵士ばかりだ。王国の民らしき人たちは、敵国の兵士に近寄るのが怖いのか遠巻きに様子をうかがっていた。
執行人が大きな剣を持って処刑台に上ってくる。
あの剣がヴェリタ王子の首に届くまでがタイムリミットだ。
「あの……オヅマ殿?」
「なぁに?」
「まだ、向かわないのだろうか」
いまだ動く素振りを見せないオヅマに、リベルタがおずおずと問いかけてきた。
ヴェリタ王子が姿を見せ、処刑人まで出てきたことでリベルタは気が逸っているらしい。処刑されるのが弟とあっては、気持ちはわからなくもないが。
「物事には順序ってものがあるんでね」
今回はオヅマとダヴァンティだけで任務を達成しなくてはならない。
闇雲に突っ込んでいって、手間取っている間にヴェリタ王子の首が飛んでしまっては元も子もない。
「今、ダヴァンティが仕掛けに――」
リベルタに説明する間もなく、周囲にドォンと大きな音が響き渡った。
山に囲まれているせいか、音が反響して聞こえてくる。
「思ってたより早かった」
心の声をぽろりと漏らしながら、オヅマは駆けだした。
今の音はダヴァンティが仕掛けたものだ。
音に驚いたのだろう。
最初に、遠巻きに様子をうかがっていた王国の民たちが逃げ出した。
次に、お祭り気分で野次馬に来ていたクイスタ皇国の兵士たちが逃げ出した。
警備をしていた兵士たちが音のした場所へと走っていくが、当然、そこにダヴァンティの姿はない。
再び別の場所で大きな音がする。
バタバタと処刑場の周りを走り回る兵士たち。
何が起こっているのかわからず、きょろきょろと周囲を見回す処刑人。
袋を被せられた王子は、すでに手枷と足枷をされているせいで身動きは取れないようだ。
皇国の兵士が少ないからか、それともごく少数で王子の奪還を狙うバカがいるとは考えなかったのか、処刑場にいる兵士の数はそれほど多くはない。
オヅマは木の上を走って渡り、周囲を囲む壁の上からエゼコチオネ処刑場へと乗り込んだ。
§ § § § § § §
エゼコチオネは処刑という意味です。
つまりエゼコチオネ処刑場は処刑処刑場ということになりますね。
きっと大事なことだから繰り返してるんだと思います。処刑。
それでは、また明日。
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