4話 新学期と始業式
夏休みが終わり今日から二学期が始まる。辺りも秋気が漂い始める季節となった。
『秋』といえば、始めに何を思い浮かべるだろうか―――――――。
………食欲の秋、読書の秋、といったように様々なことが思い浮かべられると思う。
ちなみに私は食べ物以外ではコスモスやダリアといった花が見どころなので団子より花と言った感じで綺麗な花々を見てみたいと思っている。
(―――――もちろんユウマくんと一緒に見に行きたい!)
という願望を心の奥底に秘めているのだが、あまり無理やり連れて行くと好きになってもらう前に嫌われてしまうため悩みどころである。
そんなことを考えながら通学路を歩いていると―――――――。
「おはーよう、九音」
「おはよう、西園寺さん」
私の数歩前を甘々ラブラブな空気を漂わせて歩いている胡桃に声をかけられる。
「おはよう、二人とも」
羨ましい気持ちを抑えながら挨拶を返す。
私だってユウマくんとイチャラブしたいのに――――――。
と、心の中で呟いたつもりがどうやら声に出ていたらしく「俺がどうしたって………?」と声のした方を見ると不思議そうに首を傾げているユウマがいた。
「うわぁぁぁっ………ユウマくん!?」
途端に悪戯が失敗して怒られそうになる小学生の如く慌てっぷりを披露することになってしまった。
「そんなに慌ててどうしたんだ?っていうか、西園寺がそんなに慌てるなんて珍しいな」
何故だが分からないがアタフタしている九音を横目に「お前らは相変わらず朝っぽらイチャイチしているな、このバカップルめ!」と胡桃たちに毒づいていた。
「ちょっとそれはいくら何でもひどいでしょ!!!」
ユウマの言葉を訊いた胡桃が不満たっぷりな表情でそんなことを口にしていた。
「………だって本当のことだろ?」
ユウマが事実と言わんばかりに言い返しており、胡桃はそれに返す言葉もなく助けを求めるように透哉に上目遣いをしていた。
「おいおいあんまりいじめてやるなよ」
よしよしと慰めるように頭を撫でながら言われるが、「だったら、言われないように『時と場所』はしっかりと弁えてくれよな」と親友だからこそ皆が言えないようなことを口にする。
さすがに何処彼構わず主義というのもいささか問題である。というか、いくらなんでも限度というものがあると思うのだが―――――――。
そんなことを独りで考えていると、俺の言葉を訊いていた九音が口を挟む。
「ユウマくんの言う通りだよ、胡桃とそれから藤堂君もね」
と、追随するかのように言ってくる九音に二人は返す言葉もないのか、黙って頷くことしかできなかったようだった。
それからクラスに行き、担任から「こうして何事もなく一か月ぶりにお前たちの顔を見ることとができて私も担任として嬉しく思う。 引き続きこの調子でしっかりと勉学の励むように!」と朝っぱらから担任のありがたい訓示を聞かされて後に今度は始業式で校長から似たようなありがい言葉を永遠と訊かされることになる。
「ふわぁぁぁ~やっと終わったよ、相変わらず校長の話長すぎたっつの!!」
教室に帰る間の廊下で眉間に濃い皺を寄せながら透哉は愚痴を零していた。
俺はそれを適当に相槌を打ちながら訊いており、「………訊いているのかユウマ」
同じリアクションしかしないことに腹を立てた透哉がより一層、不愉快そうな声色で話しかけてくる。
「おい!ちゃんと俺の話聞いているのか?」
「ああ、もちろん訊いているさ」
というようなやりとりを教室に戻るまでに延々と繰り返していた。
そして何とか不機嫌な透哉を宥めながら教室に入って担任が戻ってくるのを待つ。
「遅くなってすまない」
クラス担任が軽く謝ってから教壇に上がってくる。
ぐるりと俺たちを見渡しながら、「お前たちに大事な話がある」と前置きをする。
その言葉を訊いたクラスメイトたちがざわつき始めるが――――――。
「っおい!静かにしろ、まだ話すらしていないぞ!」
担任のドスのきいた一声でさっきまで騒がしかった教室が一瞬にして静寂に包まれる。
「今日から二学期が始まり色々と行事も増えて忙しくなる。 今更、言うことではないかもしれないが、くれぐれも問題行動や体調不良などを起こさないように注意をして学園生活に臨むようにしろ!」とこれまたありがいお言葉を担任から頂戴する。
その言葉で先ほどまで弛緩していた空気が一気にピりついた。
その後、俺たちは午前中のみ授業を受けて下校する。
放課後、いつものように学生食堂に集まった俺たちは午後からの予定について話し合っていた。
「せっかくだし皆でカラオケでも行こうよ!」と乗り気な胡桃。
「いいな、行こうぜ」と行く気満々な透哉の二人が地団駄を踏む勢いで俺たちに提案してくる。
「………」
そんな二人を楽し気に見つめていた九音に「西園寺はどうするんだ?」
と話しかける。
「私は―――――」
いつもなら‘’私も行くからユウマくんも行こうよ!‘’と誘ってくるのに今日はどこか煮え切らない態度をとっていた。
「どうしたの?そんな暗い顔して」
そんな様子の九音を心配した胡桃が尋ねるが。
「別になんでもないよ、ちょっと疲れているだけだから」
ケロッとした感じで言うが、心なしか無理をしているように見える。
「無理しないでよ、あんたはすぐ無茶するんだからさ」
咎めるような口調で九音に言い訊かせる胡桃を見て珍しくお母さんみたいんだなと思う。
「ユウマ、今、変なこと考えていたでしょ――?」
見透かすようなことを言ってくる胡桃にドッキリとしながらも「そ、そんなことないぞ」と上手く誤魔化す。
「それで九音はどうするの?」ともう一度確認するのように九音に訊いていくる。
ほんの一瞬、考える仕草をした九音がだがすぐに「私も行きたい」と返事をして俺の手を引っ張りながら「ユウマくんも行こうよ」と言ってくる。
バスに乗って駅前まで移動した後、ロータリー前にある時計台で時刻を見るとちょうど、お昼どきの時間になっていた。
「なんだがお腹すいたし、せっかくだから何か食べようよ――――」と胡桃が言い出す。
確かにお腹は減っていたので、皆でどこのお店にいくか歩きながら話してMIDORIの中のレストランに行くことになった。
胡桃曰く、すごく美味しいソースカツ丼のお店があるらしくそこに行きたいとのことらしい。お店の前まで行くと結構な人数の人たちが並んでいた。
外に置いてある記入台に名前と人数をかいて近くで俺と透也で待つことになった。九音たちはと言うと、呼ばれるまで下の階で色々見て回っているそうだ。
仕方がないので、透也と一緒に椅子に腰かけて待っていると―――――。
「そういえば、あれから西園寺さんとは何か進展はあったのか?」
いきなりそんなことを訊いてくる透也に「急にどうしたんだよ」と言い淀んでいると。
「別に他意はないが、最近、西園寺さんとの距離も縮まったように見えていたから夏祭りの後にとうとう、大人の階段を二人で上がったのかと思ってな」
ニヤニヤとしながら下種の勘繰りをしてくる透也。
「何を言うかと思えば、どうしてそんな発想になるんだよ?」
呆れながら訊き返すと―――――。
「ただ何となくそう感じただけだ」と何とも曖昧な返事が返ってくる。
………ということは、透也の奴も‘’大人の階段‘’を登ったということなのか?と思い鎌をかけてみる。
「そんなことを訊くってことはお前も‘’登った‘’ってことのか」と大真面目な声で訊いてみると目を白黒させながら慌てだす。
「………な、な、何ってるんだ?俺たちは学生だぞ、そ、そんなことするわけないだろが――――――」
どうやら図星のようだった。
「まぁ、ほどほどにしとけよ」
いつもいじられている仕返しと言わんばかりに透哉の肩をボンポンとしながらそう言う。
「………四名様でお待ちの昼神様」
順番になり名前を呼ばれたので、九音たちに連絡して店内に入る。
四人掛けのテーブルに案内された後、対面に座っている胡桃が「美味しそう――――」と今にも涎を垂らしそうな勢いで視線を左右に動かしてきた。
その様子を隣に座っていた透哉が微笑ましそうに眺めていた。
「どうしたの?透也………」
透哉の視線に気付いた胡桃が照れた上目遣いで訊く。
「いいや、俺の彼女は世界一可愛いな―――って思ってな」
ということを言いながらストロベリーのように甘い空気を醸し出し始める二人にまた始まったと思っていると―――――。
ふいに二の腕にふんわりと柔らかい感触が当たる。驚いて見てみるとなんと九音のマシュマロのような双丘が俺の二の腕にある状態だった。
「さ、西園寺さん?一体何をしているのかな」
なおも豊満な双丘を当て続けている九音に尋ねる。
「何って………私の自慢のものを当てているだけだよ」
さも当然のごとくそう言い放つ九音に俺の方が色々と持ちそうになく困り果てている。
九音の予想外の行動に対面の座る胡桃たちが一瞬、驚いた表情を浮かべた二人だったが、「ふ~ん、そっちがその気なら―――――」とお返しと言わんばかりに九音にも分けず劣らないたわわに実った果実を透哉の二の腕に当て始める胡桃。
当ている透也は役得といった顔で終始、ニヤニヤしていた。
なぜか、店内でイチャラブ対決が勃発してしまった。こちらの問題もどしようかと頭を抱えていると、「お待たせしました、ご注文のソースかつ丼セットです」と爽やかな笑みを浮かべた男子学生くらいの店員が注文した品を運んでくる。一通り運び終わった後、同い年くらいの女子大生店員に「見た?さっきの子達………高校生かな、すっごく初々しいね―――――」と小声で話しかけていた。
その会話が聞こえていたらしい九音が恥ずかしさからかすぐに俺から離れてしまった。一方の胡桃はまったく動じず一ミリも離れることなくびったりと透也にくっついていた。
もはやいつものことなので特に何も考えずに早く食べようと促して箸を持つ。
「………いただきます」と皆で手を合わせて食べ始める。
各々が、みそ汁、かつ丼、漬物と好きな物から箸をつけていき三者三様の反応を示しながら食べ進めていく。
ちらりと九音の様子を窺うと、美味しそうな表情を浮かべてパクパクとご飯を頬張っていた。
お昼ご飯を食べた後は、近くのカラオケに行って思い切り歌った。
トップバッターは透也で流行りの曲を歌い、胡桃は勇者を歌い、九音は水槽のブランコを歌っていた。そして、俺はどれを歌おうかとタブレットを持って悩んでいた。
すると「まだ悩んでいるの?ユウマくん」と九音がひょっこりと顔を覗かせながら訊いてくる。
「へぇ―――なかなか決まらないんだ」と言うと、「それじゃあこの曲、一緒に歌おうよ」
そう言って、アニソン界の永遠の大型新人である某有名な歌手がOPを担当したアニメの主題歌、ラブでドラマなティックの曲をデュエットすることになった。
……躍らせて――――と九音の綺麗な高音が室内に響く。
俺も負けじと歌いながら、初めての共同作業で90点以上をとることができた。
点数を見た九音の嬉しそうな表情を見て、ああ、こんな風に笑うんだと初めてちゃんと見たような気がした。
それからは胡桃の提案デュエット対決が開催されることになった。一番点数が高かったペアが何か奢るというルールらしい。
それって負けフラグじゃないのかと思いながらもペアの九音ととも勝負に挑むのだった。
そこから夕方までぶっ通して歌い続けて結果は引き分けとなった。
何とも悔しい結果になったが、罰ゲームは無事回避できたので及第点だと思いたい。
「楽しかったね――――」と俺たちを見渡しながら胡桃が感想を口にする。
透哉も確かに楽しかったなと楽し気に話している。
九音もニコニコと笑みを浮かべながら胡桃と談笑していた。そんな九音の横顔を見ていると、自分の中で九音に対するある感情が芽生え始めていることを改めて自覚する。
「もしかしたら………俺、西園寺のことが――――」
ほんの数か月前までは考えられなかった気持ちに戸惑いながらも自問自答をする。
―――――いやいや、待って!確かに西園寺は美人なお嬢様だが、俺たちはあくまで形だけ付き合っているだけなんだ。あきまで俺は校則違反を見逃してもらう代わりに付き合っているだけなんだから。
己の気持ちに蓋をするようにそう言い聞かせて無理やり納得する。
「―---マくん、ユウマくん、どうしたの? ユウマくん」
考え事に耽っているとでいつも間にか隣にいた九音がひょっこりを顔を覗かせてきていた。
「ああ、別に何でないよ、ちょっと考え事をしていただけだ」
俺の言葉を訊いた九音が意味深な眼差しを向けてくる。
そんな俺たちのやりとりを見た胡桃が「ちょっと急にイチャラブしないでよ」と茶々を入れてくる。
「あまり二人の邪魔をするなよ、胡桃」
あれこれ言ってくる胡桃に諭すような言葉をかける透也。
そして今度は二人のやりとりを見て羨ましそうな顔をしている九音に「焦らなくてもい大丈夫だよ、ちゃんとあんたの気持ちは伝わっているから」とそっと胡桃が耳打ちして励ましの言葉をかけていた。
「そ、そうかな………」と不安げな表情を浮かべる九音を勇気づけるようにポンポンと肩を叩く胡桃の姿を見て、二人の友情の深さに感心していると――――――。
不意に胡桃がスカートのポケットからスマホを取り出して時刻を確認する。
「っやば………もうこんな時間!」
急に慌てだす胡桃に「どうしたんだ?」と訊いてみる。
「今日は見たいお母さんに早く帰ってこいって言われていたの忘れてさ」
ケロッとした様子でそう言う胡桃に「それじゃあ早く帰らないとまずいんじゃない?」と九音が言う。
とりあえず、今日の所はここレでお開きという空気になり、各自解散になった。俺は執事の伊織が来るまでの間、九音と一緒に近くのカフェで待っている。
それから数分後、いつもの黒塗りの高級車がロータリー前に停車する。
「お待たせいたしました。お嬢様」
添しく一礼する伊織に「ご苦労様」と一声かけて車に乗り込む。
例の如く、「よろしければ、昼神様もご自宅までお送りし致します」と言われるが、今回は遠慮しておく。
「ありがとうございます、今日は自分で帰ります」と言った後、九音を見送ってからバスに乗って家路につく。
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