7話 中間考査に向けて①
胡桃と九音によって、提案された記念すべき第一回目の勉強会を終えた。
俺と西園寺は、透哉と胡桃を近くまで送ってから来た道を戻っていた。
「大丈夫なのか? あまり遅くなると家の人が心配するんじゃないか」
隣を歩いている西園寺に声をかけると「大丈夫だよ。本当にマズかったら、執事が飛んでくるから」
ニコリっとした笑みを向けてそう言ってくる。
――――執事が飛んでくるってすごいな。流石はお金持ちのお嬢様だ。
心の中で感心する。そんな俺を見た、西園寺が「どうしたの? ユウマくん」
と言って、不思議そうに小首を傾げる。
「いや、何でもない」と訝し気な瞳を向けてくる西園寺を返事をする。
「ホントに~何だか妖しいな」
ジト目を向けながら、ニヤッと口角を上げる。
「本当に何でもないって言ってるだろ!」
しつこく言ってくる西園寺に強めに否定する。
「ふーん? ならいいんけれどね」
どこか腑に落ちないと言った感じに西園寺が意味深な呟きをする。
ほんの少しの間だけ、静寂が流れる。
「ねえ? ユウマくん」
その空気を最初に破ったのは西園寺の方だった。声をかけられた方に視線を向けると、おどけた表情をしている西園寺と目が合う。
「ッ…………」
しばらく無言のまま時間が過ぎる。
「…………」
「顔が怖いよ。ユウマくん、そんなに私と帰るの嫌なの?」
西園寺が拗ねたように頬を膨らませる。
「い、いや、別にそういうわけじゃあなくて――――」
西園寺の問いかけに対して、上手く答えることができずにアタフタとしてしまう。
そんな俺を見た、西園寺はますます疑いの眼差しを向けてくる。まるで、何を隠しているんだと尋問されているようだ。
「…………西園寺」
俺はゆっくりと声を出す。自分の中にある感情を一つ一つ整理するように。
「どうして俺と勉強しようって言ったんだ? 心配しなくてもお前との約束を破るような真似はしないぞ」
少しだけ警戒するように言葉を紡ぐ。俺の口調を訊いた、西園寺は目をパチクリとさせて、さも当然のように言い返してきた。
「別にユウマくんのことを信じていないわけじゃないよ。自分が好きになった人だもん。それに大切な人の事は信じてたいって心から思っているよ」
言い終わった後に、少しだけ寂しそうな表情をしながら、「せっかくだから、ユウマくんと胡桃たちと初めての勉強会をしたかった、今までそういうことしたことなかったから…………」
思い出すように言って、西園寺は軽く目を伏せる。
西園寺の話を訊いた、俺は胸が痛んだ。
「悪い、変なこと聞いた」
悲しそうにしている西園寺を見た俺は、余計なことを言ってしまったと思う。
何とも言えない罪悪感を感じてしまう。
プルルとどこからか着信音が聞こえてくる。
「ちょっとごめんね」
断りを入れて西園寺が鞄からスマホを取り出す。
「もしもし、どうしたの?」
と言って、話を始める。しばらく話した後に「だから迎えはいらないって言ったでしょ? 今日は自分で帰るから」
怒ったような口調で言い返したまま、一方的に電話を切る。
珍しく怒った西園寺を見た俺は、声をかけるかどうか迷った。
しばらく考える。十数秒の間、考えた末に。
「…………家の人からか」
遠慮気味に西園寺に訊いてみる。
「あ、うん。専属の執事が私の帰りが遅いからって、今から迎えに行くって言い出してさ。だから来なくていいよって言っただけだよ」
「大丈夫なのか?」
不安に思った俺は西園寺に確認する。
「うん大丈夫だよ。せっかくユウマくんと一緒にいられるんだから、邪魔はさせないから」と意気揚々と握りこぶしを作る。
西園寺の凄まじい気迫に圧倒された俺は、頷くことしかできなかった。
その週の土曜日。俺たちは第二回目の勉強会を開催していた。
「九音、まったく分からないよぉ」
前回と同じように開始数分で、九音が弱音を吐いていた。
「始めてから十分もたっていないぞ。もっと頑張れよ」
俺は呆れながら、机の突っ伏している胡桃に話しかけるが本人は既に戦意喪失状態だった。
「大丈夫か? 胡桃」
彼氏である透也も胡桃に心配した様子で話しかける。
「ダメかもしれないよ。透哉」
と、大袈裟に言いながら、透也に抱き着き始める。
「おい、お前らは何をしに来たんだ? イチャつくだけならつまみ出すぞ!」
本来の目的である中間考査対策をほっぽり出して、今にもイチャイチャしそうな二人に向かって、俺は言葉を投げかける。
俺の言葉を訊いた二人は少しくらい良いじゃないかと言わんばかりに抗議を込めた視線を向けてくる。
俺はその視線をフル無視して、西園寺に声をかける。
「悪いな。西園寺」
一生懸命に勉学に励んでいる西園寺に軽く謝ってから、止めていた手を動かす。
そうしてしばらくは、西園寺と俺だけがテスト勉強に励んでいた。
俺たちが黙々と勉強をしている姿を見た、透哉たちも机に向かって、問題集に手を付ける。
それからは黙々と勉強をする。
…………ぐうぅ―ー。
突如、部屋に腹の虫が鳴り響いた。その音を訊いた、俺たちは自然と手を止める。
「…………」
一体、どこから鳴った音なのかと俺たちは耳を澄ませていた。すると、またしてもぐうぅ―――と近くから腹の虫が聞こえてきた。
「あーあー腹減ったな。ユウマ、何か食べないか?」
「頭を使ったからお腹がすいたよね」
透哉が自分の腹部を摩りながら言い、胡桃も同調する。
透哉と胡桃の言葉を訊いた、俺は部屋の中にある時計をちらりと見る。時刻はちょうど、十二時を過ぎたところだった。
勉強を始めてから、一時間ほど経過しており、ちょうど良いタイミングだった。
「少し休憩するか」
手を止めて三人に声をかける。
「だったら、何かデリバリーしようよ!」
胡桃が提案してくる。さっきまでとは別人ような元気さに嘆息してしまう。
「ナイスアイディアだ。胡桃」
「ユウマと西園寺さんもそれでいいだろ?」
透哉が同調するように返事を求めくる。
「俺は良いが、西園寺はどうする」
隣に座っている西園寺に訊いてみる。
「私もみんなと同じでいいよ。普段はデリバリーとかしないから、試してみたかったんだ」と照れくさそうに微笑む。
「決まりだね。次は何を食べるかを決めていこう、皆は何が食べたい?」
胡桃が中心になって、昼食のメニューを決めることになった。
「俺は何でもいいな」
「俺も別に何でも」
「私はこういうのよく分からないから。胡桃に任せるよ」
三者三様の意見を口にする。
「見事に分かれたね。それじゃあ、私が決めちゃうね」
ポケットからスマホを取り出して、検索窓から何かを調べる。数秒してから、スマホの画面を俺たちに向けてきて、「これとかどう?」と言って、某ピザ店のホームページを見せてきた。
「ピザか、これならみんなでつまめてるし良いな」
透哉が賛同の声を上げる。
「へえ、美味しそうだね」
西園寺や透哉も賛成しており、俺も嫌いではないため賛成する。
「それじゃあ、注文するね」
電話で注文をする。
それから三十分くらいで、注文した商品がユウマの家に届いた。
「うわぁ~美味しそう。早く食べようよ」
胡桃が涎を垂らしそうな勢いで届いたピザを眺める。
「そんなに慌てるよな。ほら、おしぼりと飲み物」
袋から出した人数分のおしぼりと飲み物を配りつつ、今にも飛びつくそうな胡桃に声をかける。
諸々の準備が整ったところで、四人で「「いただきます」」と手を合わせて食べる。それぞれ美味しそうにピザを頬張る。
「はぁ、もう食られない」
「俺も無理~」
お腹一杯、と言った感じで、二人が椅子にもたれかかる。
腹ごしらえも済んだところで食休みして、勉強を再開する。午前中はぐだっていた透哉と胡桃も嘘のよう全集中していた。
「ねえ、九音。ちょっとここ分からないから教えて」
黙々と問題を解いていた、胡桃が九音に声をかける。
「良いよ。どこ?」
そう言ってくいっと西園寺が胡桃の方に体をくっつける。
「えっとね。ここ――――」
胡桃が問題集を指さす。どうやら現代文の問題で苦戦しているらしい。
西園寺が教えている様子をちらりと見ながら、自分の問題も進める。
頭を抱えている胡桃に分かりやすく、すらすらと西園寺が問題の要点と作者の意図を説明する。
隣で訊いていた俺も西園寺の説明を訊いて、なるほどと納得した。
「おお、なるほどね。そういう感じで解いてくんだ」
胡桃が感心したように独り言を口にする。
「胡桃、次はこの問題とやってみて」
次の問題を指さしながら西園寺が言う。
「やってみる」と胡桃が答えて、問題に取り掛かる。数分待つ。
胡桃が「出来たよ。九音」と自信満々に言う。
呼ばれた西園寺がどれどれと言いながら、正解を確認すると「うん。正解だよ。が頑張ったね、胡桃」と言って、ご褒美と言わんばかりによしよしと頭を撫でる。
その様子見ていた、透哉と俺は本当の姉妹ようだと言わんばかりに顔を見合わせるのだった。
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