主人公にこの世界は荷が重い〜ただの村人に転生した俺、何も知らずに死にゲー世界を破壊する〜
ミポリオン
第01話 目を覚ましてすぐに死にかける
死にたくない!!
「んあ?」
そう強く願った瞬間、俺は目を覚ました。
ここはどこ、わたしはだーれ?
いや、そんな冗談を言ってる場合じゃない。俺は交通事故に巻き込まれたはずだ。
助かったのか? ここはどこなんだ?
辺りを見回そうとするけど、頭が動かない。それどころか、手も足も自由に動かなかった。
もしかして助かったけど、大怪我をしてしまったのか? 何がどうなってるんだ?
訳が分からず混乱していると、外国人の女性が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
北欧系っぽい顔立ちの銀色のロングヘアーの女性で、二十代前半くらい。健康的に日に焼けていて、整った顔立ちをしている。
俺はこんな綺麗な人に出会ったことはない。
この人が助けてくれたのか? いったい誰なんだ? なんで助けてくれたんだ?
頭の中が疑問で埋め尽くされる。
とにかく、すぐに母さんと父さんに連絡しないと。いつまでも帰ってこない俺を心配しているはずだ。
ひとまず声を掛けてみよう。
「あうあー」
だけど、口もろくに動かせなくて、まともな言葉が出てこなかった。
しかも、なんだか異様に声が高い。
口も碌に動かせないのか……まさかここまでひどい怪我だとは思わなかった。
「■■■■■■■■■」
愕然としていると、女性の発した言葉を聞いて耳を疑う。
日本語でも英語でもない、まったく聞き覚えの無い言葉だった。
思いがけないことはさらに続く。
「■■■■■■■■■」
女性が心配そうな顔をして俺を抱き上げてしまった。
俺はこれでも育ち盛りの高校生だ。こんなに軽々しく持ち上げられるはずがない。
もしかして、ただの怪我じゃなくて手足が欠損してたりするんだろうか……それならだいぶ軽くなるだろうし、手足が動かないのも分かる。
でも、これはどういう状況なんだ? なんでこの人は俺を抱き上げているんだ?
疑問に思いながら女性の顔を見ると、慈愛に満ちた瞳で俺の顔を見つめていた。
どう見ても赤の他人に見せるような表情じゃない。その顔はもっと身近な――そう、家族に向けられるような親愛が籠っていた。
その顔に母さんの顔が重なる。
もしかして……。
ふと、ありえない妄想が頭をよぎる。
それは、よく読んでいたウェブ小説のように、異世界に転生してしまったのではないか、という考えだ。
目の前の女性が俺の母親――ママンであるなら、この状況にも説明がつく。
――ドカァアアアアアアアアンッ!!
少しずつ状況を理解し始めた頃、突然耳をつんざくような爆発音と建物の揺れが襲った。
ママンが俺を守るように抱きしめる。
ガラガラと何かが崩れる音とともに、さっきまで薄暗かった室内が唐突に明るくなった。
その原因は、家の一角が崩れ落ち、外の光が差し込んできたからだ。
ママンの背中に落ちてきた瓦礫が積もっている。
「ギャァアアアアッ!!」
肩越しに、崩れた壁の外で口を大きく開き、翼を広げた巨大な鳥の顔が見えた。
いやいや、なんだよ、あれ!? どう見ても体長三メートルはあるぞ!? 羽の端から端までは五メートル以上あるんじゃないか!?
鷲のように獰猛な顔つきで、獲物を狙うように俺たちをジッと見つめている。
見た目は鳥に近いけど、どう見ても化け物だ。
「きゃああああっ!」
ママンが叫び声を上げ、俺をギュッと抱きしめた。
「ギャァギャァ!!」
鳥の化け物は、崩れ落ちた壁をさらに破壊しながら室内に侵入してくる。そして、一歩また一歩と俺たちに近づいてきた。
「おぎゃあ!! おぎゃあ!!」
来るな!! 来るな!!
俺は必死に泣き叫ぶ。
「■■■■……■■■■……」
ママンが俺を隠すようにしながら化け物を睨みつけた。その体は恐怖に震えている。
怯えながらも懸命に俺を守る姿に、母としての強さが感じられた。
鳥の化け物は、嘲笑うかのように鳴き声を上げる。
「ギャギャギャギャギャ!!」
死ぬ前の夢ならもっといい夢を見せてくれてもいいじゃないか!! それに、もし転生したんだとしたらこんな結末はあんまりじゃないか、神様!!
俺の想いなんて知るはずもなく、鳥の化け物は狙いを定め、口を大きく開けて襲い掛かってきた。
こんなところで死にたくない!! 誰か……誰か助けてくれぇええええっ!!
「おぎゃあ!! おぎゃあ!!」
俺は助けを求めて必死に泣いた。
努力も虚しく、鳥の化け物の口が俺とママンを飲み込んでいく。
しかし、口が閉じられる直前――
「はぁっ!!」
「ギャアアアアッ!?」
鳥の化け物が大きくのけ反って苦しげな声を上げた。
なんだ? 何が起こったんだ!?
あまりにも突然の出来事に驚きを隠せない。気づけば、鳥の化け物は深い傷を負い、血をダラダラと流していた。
――ガチッ、ガチッ。
瓦礫を踏みつける音が聞こえる。
視線を向けると、黒塗りの甲冑を身につけた偉丈夫が立っていて、その手には真っ赤な剣が握られていた。
「ギャギャギャ!!」
「■■■■■■■■■」
深手を負い、もがき苦しむ鳥の化け物。
男が何かを呟いた。真っ赤な剣が炎で包まれて大きく燃え上がる。
そして、即座に化け物に近づき、腰だめに剣を構えた後、横なぎに振りぬいた。
――ズバッ!!
鳥の化け物に赤い直線が走る。
その直後、鳥の体が激しく燃え上がり、真っ黒な炭になって崩れ落ちた。
なんだあれ……魔法か? 魔法なのか!?
俺はさっきまで死にかけていたことなんて忘れ、その炎の剣に目を奪われていた。
「■■■■■■■■■」
「■■■■■■■■■■」
「■■■■■■■■■」
「■■■■■■」
俺が興奮していている間に、ママンは甲冑の男と言葉を交わし、あとに続いて家を出る。
外はいかにも古いヨーロッパの街並み。
何事もなければ感動さえしていただろう。しかし、そんな気持ちもさっきまでの興奮も吹っ飛んでしまうような光景が広がっていた。
さっきの鳥の化け物の死体が至る所に転がっていて、怪我人が座り込んでいたり、横たわる人に縋りついて泣いている人がいたり。
あちこちの建物に血が飛び散っていて、状況の凄惨さを物語っていた。
ママンが俺の目に入らないようにするけど、一度見た光景は脳裏から離れない。
化け物といい、今の状況といい、あまりにリアルすぎる。もう夢だとは思えなかった。
母さん、父さん、ごめん……俺、死んじゃったみたいだ。思えば、なんの親孝行もできなかったな……むしろ、先に死んで親不孝者だ。
悲しみに暮れる二人の顔が思い浮かぶ。でも、今更どうすることもできない。
はぁ……。
心の中でため息を吐くと、思考を切り替える。
とにかく転生したのならこの世界で生きていくしかない。
ここはモンスターに襲われてすぐ死にかけるようなヤバい世界だ。転生したからといって、チートでのほほんとはいかないらしい。
生きていくためには、力が――それも圧倒的な力が必要だ。そうでなければ、自分も含めて誰も守れそうにない。
もう寿命以外で死ぬのはごめんだ。
だから俺は、自分が死なないように、大切な誰かを守れるように、必死に鍛えることに決めた。
全力で生き抜いてやる。
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