第26話 オールヴァニの町へ


                 *


その頃、馬車を2代目に乗り継いでいたラインハルト一行のもとに、コムクドリが飛んできた。

「ノアさんからだ!」と、ハルモニア。

「見せろ」と、ラインハルトが手紙を奪う。ファニタとプラトンが覗き込む。

「・・・・なんだと!?」と、ラインハルト。

「あの医者、何やってんだ!?!?」と、ラインハルトが意気込む。

「・・・・この旅、急がないと、手遅れになっちゃう・・・」と、ファニタが落ち込んで言う。

「くそっ」と、ハルモニアが手紙を車内の椅子に投げつける。

「しょうがない、星のしずくを手に入れたら、まっすぐ村に戻るんじゃなくて、首都の町に行こう」と、ラインハルトが冷静になって言った。

「プラトン、あなたのマスターのレファ様の命が危ないわ!何か、いい策はない??」と、ファニタ。

『大丈夫、レファ様のお命の波動は、まだ平常を保っている』と、プラトン。

『あと1年は持つだろう。それまでが勝負だ』と言って、プラトンは、鳥の顔ながら、寂しげな表情を見せた。いつもの元気さがない。

「くそぉ、1年で間に合うのか!??」と、ハルモニア。

「・・・・・」一行を沈黙が包む。そもそも、プラトンによれば、星のしずくは100年に一度降ってくるものだという。

 この旅自体、絶望的なのが、一行には分かっていた。

 ハルモニアが悔し涙を流す。「ここまで来たって言うのによぉ・・・・」

『希望を捨てるな』と、プラトンが言った。

『流星群を降らせる神々もいる。その神々に頼めばいい』と、プラトンが告げた。

「なんだって??先に言ってくれよ、プラトン!!」と、ハルモニア。

『だがこれは最終手段だ。危険も伴う。最期に言おうと思っていた』と、プラトン。

 ラインハルトは馬車を止めてもらい、御者さんに話しかけた。

「レイマさん、あなたは確かリラ西部の北方のご出身でしたね。我々が目指す、オールバニの町の、イサベル高原に、100年に一度降るという、流星のことについて、何か知っていないかな??」と、ラインハルトがチップを渡して言う。

「オールバニのことは知ってるが、行った事ないからなあ、ちょっとわしには分からない。100年に一度降る・・・??どこかで聞いたような、聞いてないような。次の町で乗り換えるから、そこでまた聞いとくれ」と、レイマは言った。

「そうですか・・・」 

ラインハルトはため息をつき、馬車に乗り込んだ。

 その日は雨だった。しとしとと雨の降る中、馬車は街道を進んだ。


               *


 ヘーゼルは、父フーヴェルの運転する車で、リマノーラの首都・モーリシャスの大病院まで連れて行かれることになった。車には医者と、母オフェリアも同行した。

 村に残されたノアとナスターシャは、ため息をついた。

「ラインハルト兄さんのところも、雨降ってるかなあ・・・・」と、ノアが雨粒を手に受け、天を仰ぐ。

 ナスターシャには、ノアが少し泣いてるように見えた。

「もってあと1年、かぁ・・・」と、ノアが半泣きの声で言う。

「・・・」ナスターシャには返す言葉もない。旅は絶望的・・・ではないものの、無事に1年以内に帰ってくる保証もない。

 フーヴェルは仕事があるため、ヘーゼルを送り届けた後、病院に残る母をおいて、村に戻り、働くという。ノアとナスターシャは病院に行きたいと思っていた。

 ノアは、勤め先を辞めて、ヘーゼルの看護にあたろうか、とも考えたが、正直迷っていた。両親が何というだろうか、と思っていた。ナスターシャは、仕事のある婚約者アルヴィンを置いて、とりあえずモーリシャスの病院で、へーゼルのそばにいようと思っていた。

「私はヘーゼルのそばにいることにするわ」と、ナスターシャが静かに言った。

「アルヴィンも、仕事があいてる日、たまに来てくれるって!ノア、あなたもよね・・・??」

「うん、ただ、僕は絶望しかけていてね。立ち直るのに時間がかかる」と言って、ノアはよろよろとした足取りで、ヘーゼルの家を出て行った。

「傘も持って行かずに・・・ノア、傘を忘れてるわ!」と、ナスターシャ。

「いいんだ、このままで。しばらく一人にしてくれ」と言って、雨の中、ノアは霧の中に消えていった。

「なによ、そんな場合じゃないじゃない・・・」と、ナスターシャは泣きたくなるのをおさえ、一人、傘をさして、ヘーゼルの家の前に立ちすくんでいた。

 ノアの右ポケットには、ヘーゼルから没収して、こっそりノアが持っている壊れた羅針盤があった。その赤い針が、最近になってぐっと「0」に近付いているのを、ノアは確認していた。つまりは、ヘーゼルの死が近づいているのは本当なのだ。

 その事実が、ノアを打ちのめした。

 あんなに、愛の言葉を文通でしたのに・・・すべて無駄だった。

 そう思ったわけではないが、幼少期から仲のよかったヘーゼルが「死ぬ」という事実に、ノアは耐えられなかった。


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