第24話 決別之刻。

引越しは12月の頭にした。

俺たちの家で買った家具は、全部叔父さん達に渡す形で藍に譲渡して、今度は叔父さんがあの家を売る事になる。

藍はそれまであの家で過ごしていて、ボディーガードではないが、高遠達を牽制する為にも、藍は俺とデートをすると言って、学校帰りに待ち合わせをして、学校周辺で夕飯を食べたりする。

周囲に見せびらかすように歩く藍は、「これで高遠は近づけないよー」と笑いながら、「2人きりになろうよ櫂」と言ってカラオケに行ったりする。


ホテルなんかには絶対に行かない。

向かい合わせないで横に座る藍が甘えてきながら、「櫂、唯ちゃんに言うからいいよね?」と言って誘ってきても、「こら」と言って誤魔化している。


唯と藍は頑として引っ越しの日まで、俺を助ける秘密を話さないと言うので、仕方なく思いながら日常を過ごす。


一度、唯と藍と母さんとウチでパーティをした日は、あの日のようにスーパー銭湯に行くと女湯で何を話したんだか、出てくるなり「櫂の顔が変わったって、お義母さんも言ってるよ」と唯に言われた。


「あの顔は怖いよねぇ。私はお父さんで慣れっこだけどさ」

「本当、戻ってきたら、すぐに穏やかになったわよね」


しみじみと藍と母さんまで言う。

変な話だが、自覚なんてない。


唯と肌を重ねる時、唯は「やっぱりこっちの櫂がいいよ」と言って、一晩中でも肌を重ねる。

それを聞いたのか、気になっているのか、藍は「ねぇ、その櫂ともしてみたいー」と言ってきたが「こら」と言っておいた。


引っ越し日が決まる頃、叔父さんは何をしたのかわからないが、あの家が売れたと言う。

父さんと叔父さんでどんな話し合いがあったのかわからないが、売れた金額を正当に、俺と藍まで含めた4等分してくれた。


「春の引越し代とか、面倒な税金を抜いた額にしてる」と言ってくれた叔父さんは、「櫂のお陰で藍が明るくなった。感謝してる」と言ってくれた。

その後で、「藍が行き遅れたら、お前のせいだぞ」と耳打ちしてきて、「ひぇっ」と声が出てしまったら笑われた。


藍は「あの家を手放すのは惜しかったかなぁ、セクシー下着で櫂を誘惑したら、来てくれたかもなー」と言い、俺が「こら」と言う。


「でもね。帰り道って今度は途中まで一緒だから、これからもデートしてよ」


藍はそんな事を言ったので、「今もしてるのに?」と聞くと、笑った藍は「そうだよ。櫂に惚れてもらって、唯ちゃんにお許しをもらって、たまに我慢出来なくなったら一晩中抱いてもらうんだよ」と答えていた。


嫌な冗談だと笑えなかったのは、藍と唯は友達になっていて、2人で出かける仲になっていた。


もしかしたら一晩中していたのがバレているし、情報交換までされているかもしれない。


藍なら「また誘惑しても、テキトーに断られた」とか報告しているかも知れない。



あっという間に12月頭を迎え、俺は引っ越しの日になった。

部屋から必要なものを回収して宅急便に頼み、日用品は捨ててしまう。

叔父さんは家具込みで売ったから、残して行って構わないと言ってくれたので早かった。

てっきり藍と電車で帰ると思っていたので、ご飯をどうするかと思っていたのだが、藍は叔父さんの運転で帰って行ってしまう。


最後だからって言われて、リビングで手を繋いだままキスをされた俺が、返事に困っている間に、「また月曜日ねー」と言って帰り、乗せてもらえない俺は「それが答え合わせの一つだからだよ」と言われて訝しむと、何となくだがすぐにわかった。


家を出て、鍵を閉めて少し歩くと、そこには山本真矢が居て「久しぶりだね関原くん」と声をかけてきた。


外を歩いているのに徒歩な事もあり、山本真矢に「あれ?自転車は?」と聞かれた。


「あの家、売れたんだ。自転車は処分したよ。今日は最後の日なんだ」

「横歩いていい?駅まで送らせて」


言いながら歩くと、山本もついてきた。

山本真矢との会話はとても気持ち悪く怖いものだった。

話の中で藍が戻ってきた日に、藍の声が聞こえたと噂になっていて、俺と藍が結ばれた事、そのまま藍と俺が住む事、今は手続きで出歩いているだけだと思ったと言われた。


わかりきっていたが、秘め事の話すらプライバシーがない事に嫌な気持ちになりながらも、最後だからと我慢して相槌を打つ。


「私はその顔も良かったけど、久しぶりに見た時に太ったかと思えちゃったんだよね。やっぱり、昔の顔の方が好きだな」


そうハッキリ言った山本は、首を横に振って「ごめん。変なこと言った」と言って歩く速度を上げる。

その後は、あのカレーの夜が凄く楽しかった、母と3人で食後に話をした事も、今度はそこに藍もいて、4人で食事をすることなんかも少し憧れたと言った。


後少しで駅だという所で、山本は「あーあ、あの中3の2月に、関原くんにチョコを渡せてたら今は違ったかな?」と言った。


山本真矢の明確な好意に驚いた俺を無視して山本真矢は言葉をつづけた。


「私が関原くんの後をついて街を離れるか、関原くんがあの家に帰ってきて、私と暮らしてくれてたかな?」


そう言ってから、「また帰ってきなよ。今度、ウチのそばにマンションが建つんだよ。仕事もこっちで見つけてさ、ね?」と言うと、駅構内には入らずに駅の入り口で握手をして別れた。


電車の時間を見たくてスマホを取り出すと、藍からメッセージが入っていて、[駅に着いたら返事してね。きっと駅までは見れなかったよね?]と書かれていた。


山本といたのが見られていたかな?


俺は[よく見てるな。今着いた、10分後の電車に乗るよ。そっちは早く帰れて羨ましい。早く答えを教えてくれないかな?]と送ると、[まだだよ]と返ってくる。


意味がわからん。

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