第23話 彼之選択。
あの日、俺は唯の元に行こうとして、藍は涙ながらに「そうなるよね。でも無理しないでいいよ。好きに生きて、唯ちゃんに振られたら私がいるよ」と言った後で、「最後にもう一度だけ、ね?」と言う言葉に従い四度目をした。
肌を重ねる中で、何度も思い直して欲しいと言われた。
だがそれはせずに、風呂に入り直し、玄関で見送る藍に「行ってくるね」と言って唯の元に向かった。
朝早くから家の前に来た俺を見た唯は、驚いた顔をしてから、藍との事を無かった事にするように、「目の下、クマが酷いよ?眠れなかったの?」と言って涙を見せて笑ってくれた。
そんな唯も朝から化粧をしていて、涙で化粧が落ちるとクマと赤い目がみえた。
「あんな事、急に言われたら眠れないよ」
「そっか…。今日は顔が優しいね。どうしたの?」
「藍が昨日帰ってきて、話を聞いて貰ったんだ」
「うん。私は藍ちゃんと話してたんだよ。それは聞いたよね?」
「うん。皆で俺と唯の事をなんとかしてくれてたんだね」
「うん。私は櫂が好きになって、付き合って、このまま櫂のお嫁さんになりたかったの。でも、引っ越した後の櫂の顔は、会うたびに怖くなっていたし、あの街の人の目も気になった。他にも理由があって、櫂のお義母さんにもお風呂屋さんで打ち明けて助けて貰ったよ」
「そうだったんだ」
「そうだよ。藍ちゃんが助けてくれたんだよね?」
「うん。藍は俺が朝になったら唯の所に行って、暴力を振るわないって約束して、別れない話になったら、すぐに街を離れて、引っ越しの日しか戻ってくるなって言われたよ」
「うん。藍ちゃんは、櫂があの街を離れてくれたら、高校生の時の櫂になるよって言ってくれた」
俺達は藍の家の前なのに、話しながら近づいて抱きしめ合うと、「櫂、もうあの怖い櫂はやだよ」と唯が言い、「うん。気をつける。無理はしないようにする。その話も聞いて」と俺が答えた所で、一晩中藍と肌を重ねていた俺は空腹で腹が鳴ってしまう。
唯が笑いながら「ウチで食べなよ。作ってあげる」と言ってくれて、唯の家に入ると唯の両親が待っていて、「来てくれたんだね」、「良かったわ。唯ってば泣いてばかりだったのよ」と言いながら、俺をリビングに通してくれて4人で食事をした。
俺は唯の両親が居ても気にせずに、何があったかを一木幸平の名前から出して、山本や高嶺の名前も出して説明をする。
これまで何があったか、初めての彼女なのに、メディアを見て勘違いした彼氏が藍を傷付けていた事に苛立って、藍の学校で大立ち回りをしてしまった事から話し、唯が相槌のように「すごく怖かったの。こんな優しい顔じゃないの。スカジャンとか来て三角のサングラスとかかけてそうな怖さなの」と話す訳だが、着たことない。そんな服持ってないよ。
そして唯といられなかった1週間の中で、山本真矢と高嶺麗華とそれぞれと偶然会った時に話した事も伝えてから、昨日帰ってきた藍に聞いて貰った話をする。
「藍からは、山本さんと高嶺さんの話を統合して、俺が無理をしてもうまくいかない、唯さんが無理をしてもうまくいかない。キチンと考える事を言われて、藍からは唯さんと生きる道を選ぶなら、街を離れて引っ越しの日だけ戻るように言われました」
唯の両親は口を挟まずに聞いていてくれている。
唯も真剣な顔で聞いてくれている。
「櫂はどうするの?」
「努力はするよ。無理はしない。あの家に戻るのも引っ越しの時だけにしたいけど、学校で使う荷物もある関係で、一度は取りに帰らないと行けないから、それが難しいかなって思ってるよ」
「私とはどうするの?」
「ずっといたいよ。でも、お互いに無理はしない。例えしたとしても、2人でできる範囲までにしたい」
「うん。高校生の櫂は出来ていたから大丈夫だよ」
「そう思ったから来たよ。でも唯、無理はしないでいこう。我慢はしないで言って、俺も無理をしないから」
唯は少し微妙な顔をしたけど、最後には「…うん」と言った。
俺はほっとしたからか、今更眠くなって、ウトウトしてしまう。
唯もやはり寝ていなかったからだろう。2人して船を漕いでしまって、唯の両親が「少し買い物に行ってくるから寝なさい」と言ってくれて2人で眠りにつく訳だが、唯からは「久しぶりだから」と言われて唯を抱く。
やはり知られているなと思ったのは、「櫂はまだまだ元気だね」と言われた時だった。
起きた時には、どうしてこうなった?と思ったが、父さんが車で迎えに来て、一度あの家に荷物を取りに帰る事になる。
藍は俺を待っていて、「叔父さん達を手配したんだよ。唯ちゃんは許してくれた?」と聞いてきた。
「ひとまずね」と言って、パソコンや当分必要なものをまとめると、藍は「それでも待ってるからね」と言ってキスをしてくる。
俺も嫌がる事なく普通に応えると「ん?唯ちゃんの匂いが凄いよ?まさかあの後したの?」と言われて返事に困ると、「元気だねぇ。アリバイはバッチリだ」と笑われてしまい、俺の一人暮らしは終わった。
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