第7話 神様のためなら、いくらでも戦います!

「ブタキャラ、待ってたよ」


 なんとワギュウさんが俺を待っていたそうです。

 やめてよね、好きになっちゃったらどうするの。

 腕組みで強調される大きな胸。その豊満なボディをまるで隠せていない黒いレザーの格好。非常にけしからんですよ。


「いやらしい目だね!」

「ありがとうございます」


 エロ目で見て怒られる。最高だ。


「さあ、倒すよ、ブタキャラ。黒毛和牛が食べられない世の中のために!」


 じゃあ、すき焼きが食べられる世の中を守るために戦うか。

 ワギュウさんは、今回も右腕を振り上げて怪人を召喚した。前回のぶりしゃぶ美味かったからな。今回はなんだろう。


「さあ、ブタキャラを倒すのよ、怪人イクラ男」

「イークラクラクラー!」

「うわ、いくらかー! やったー!」


 まるでミャクミャク様みたいな怪人を見てるんだが、もうイクラ丼に見えるね。

 好きだぜ、いくら。神様と食べられるなら、戦いますよ!


「スーパーヘンタイパワー! プリーズヒットミー!」


 俺は犬のように神様の周りを這い回ってから、ジャンピング土下座して、神様の靴をぺーろぺろ。


「きも!」


 神様によるムチで変身!

 女装魔法少女にしか見えないヒーローとなった。


「うーん、やはりキモいわね、ブタキャラ!」

「ありがとね、ワギュウさん」


 こんな美人から言われるのホントご褒美だぜ。

 まさに転職といえよう。魔法少女。


「いけ、怪人いくら男!」

「クラー!」

「うわー!」


 いくらに見えるオレンジのボールが大量に飛んできた。

 なんとか避けるが。


ドーン!

バーン!


 ボールが壁や地面に当たると、まあまあ強めの爆発が起きる。イクラ爆弾だ!


「ぬをー!」


 逃げ回ることしかできねー!

 基本的に格好がつかないんだよな。


「ふふ、まぬけな逃げ方」


 ワギュウさんにそう言われると……嬉しいですね!

 もっとまぬけになりたいよ!


「四つん這いで駆けずり回って……情けない」


 うーん、言いたいことを言ってくれる。そしてそれが言われたいことなのよ。なんていい悪の幹部なんだ……。


「ぐはあ!」


 いくら爆弾が、足にあたった!

 どちゃくそ痛え!

 ワギュウさんにムチで叩かれるなら嬉しいが、いくら爆弾はイヤですね!


「か、かみさまー!」

「いや、自分で戦えよ」

「ありがてー!」


 神様って、助けてくれるものだと思ったら大間違い!

 HELPしてくれない、それこそが俺にとってのGOD!


「しかし……」


 ブリ男に熱攻撃して、ブリ照りになったのは良い。

 いくらなんて、寿司か丼じゃん。

 どうやって攻撃したらいいんですか?

 

「うひー」


 ドカンドカンと弾け飛ぶ爆弾を避けて逃げ回るのみ。

 なにか……倒すイメージ……いくら……ん!?

 普通に、噛めばいいのでは!?


「カミカミー!」


 両手を前に繰り出し、上下からプレスのイメージ。

 重力の魔法により、潰す!


「くらくら~」


 よし、ピヨらせたぞ!

 

「よし、いけ」

「はい、神様!」


 神様にポケモンみたいな扱いされる俺!

 もっと雑な扱いで大丈夫ですよ!

 さて、詠唱しますか。


「侮蔑の眼差しに、興奮を感じ……」


 やはり呪文だと、魔力が込めやすい。


「軽蔑の言葉に、歓喜を覚え……」


 パワーが、どんどんと集まる。


「足蹴にされては、恍惚となり……」


 ワギュウが「くっ」と言えば、神様は「ふっ」と言う。前回みたいにもっと馬鹿にしていいのよ?


「罵倒を食らわば、快楽とする……今、変態の力を、魔力に変えて、尊き命が食材にならんことを!」


 このセリフね、言ってて気持ちいいです。ええ。真似してもいいよ。

 

「ブタキャラ・クッキング・ジャスティスパワー!」


 いくら男に向かって手を突き出す!


「いくらあああああああああ」 


 そして消えゆく怪人いくら男。


「めしあがれー」


 そして登場する、ちゃぶ台とタライ。


「覚えてろ!」


 ワギュウさんが消えた。忘れるわけないですよ。


「さて、食べよか」

「食べましょう」


 座布団に腰を下ろすと、タライからお寿司の香り。酢飯だ。


「いくらは手巻き寿司だって。巻いてやるよ」

「こういう優しさはいくらでもして欲しい!」


 俺はもちろんドMだが、ママに甘えたい気持ちもありまぁす!


「誰がママだ、気持ち悪い」

「ありがとうママ!」


 気持ち悪いといいながら、いくらたっぷりの手巻き寿司を手渡ししてくれた。

 飴&ムチ! 最高すぎるだろ。


「おや。普通のいくらと味が違うんですね。もぐもぐ」

「鮭のいくらは養殖してないからな。これはトラウトサーモンのいくらだぞ。もぐもぐ」

「そうなんですねえ。もぐもぐ」

「なかなか養殖が難しいみたいだな。もぐもぐ」

「人類が頑張って養殖を成功させていってるんですねえ。もぐもぐ」

「それを悪いことだと言い張る神がいるってわけだ。もぐもぐ」

「ふむう。まあ俺にはよくわかりませんが、こんなに幸せな時間がもっと続けばいいと思います。もぐもぐ」

「それでいい、それでいい。ほら、もっと食え」

「ありがとうございます」


 手巻き寿司って、こんなに幸せなイベントだったんだなー。

 ま、誰と食べるかによるのか。

 神様にお供え物をするのは、案外一緒に食べたいと思っただけだったりしてな。

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