【映画】『ロング・レッグス』

■総合評価:★★★☆☆


■あらすじ

 アメリカで連続猟奇殺人事件が発生し、犯行現場には「ロングレッグス」と書名された謎の手紙が残されていた。第六感を持つFBIのリー・ハーカー(マイカ・モンロー)は捜査に加わるが、それは彼女自身の忌々しい過去に繋がって行くのだった。


■レビュー

 コンパクトなオカルトスリラーの良作だ。音楽、映像、演技……何もかもが不吉で大変よろしい。特にマイカ・モンローの“顔面力”を信じた監督の英断を支持したい。モンローの顔面を真正面から、それもアップで捉えたショットが多く、これは彼女の顔面の力を信じていないと出来ないだろう。寒々しく閉塞感のあるアメリカの田舎、90年代という絶妙にアナログで(今に比べると)野暮ったい時代、時おり挿入される記録映像や、謎の心理テストの画面などもバッチリだ。「何か嫌だなぁ」という空気感に浸りたい方には、絶賛オススメしたい。不穏のスーパー銭湯だ。

 そしてもちろん、この映画はニコラス・ケイジ映画でもある。金銭トラブルをド根性で解決して以来、俳優としてネクスト・レベルへ到達したニコケイだが、本作にはプロデューサーとしても関わっている。つまり、やる気満々ということだ。本作のキーパーソンとなる殺人鬼、ロングレッグスを演じているのだが……これに関しては、なるべく事前情報を入れずに観に行ってほしい。非常に活き活きと、全開で何処に出しても恥ずかしくない不審中年連続猟奇殺人鬼を演じている。マイカ・モンローが顔面力で勝負なら、ニコケイは“佇まい力”だ。前半はほとんど顔が映らないのだが、それでも不審者感は抜群である。そして中盤の顔出し解禁後は、もはやブレーキの壊れたダンプカーと化す。怪人としか言いようがないので、これは実際に観て驚愕してほしい。ご近所さんは犯罪者だと知らなくても、とりあえず通報していいと思う。

 そんなわけで非常に楽しい1本になっているが、ひとつだけ好みが決定的に別れるであろう箇所がある。アメリカのオカルト映画名物、「悪魔」の要素が入って来るのだ。これは難しいところで、「悪魔」の扱いは日米ホラー同盟の中で唯一、見解が分かれる問題だと言っていいだろう。ストーリーを追いかける分には――いいツイストがあるにせよ――この悪魔要素に乗れない人はいるかもしれない。ここは文化の違いという事で。

 しかし、最初に書いた嫌な空気感は101分の上映時間で途切れることはない。緊張感/不穏で長風呂をしたい方には、間違いなくオススメだ。あとニコケイが本当に楽しそうなので、楽しそうなニコケイを見たい人にもオススメしたい。ニコラス・ケイジ、御年61歳。還暦越えが演じる全開の不審者を是非とも目撃してほしい。


■作品データ

・原題:Longlegs

・制作年/国:2024年(アメリカ)

・監督:オズグッド・パーキンス

・キャスト:マイカ・モンロー/ニコラス・ケイジ/ブレア・アンダーウッド/アリシア・ウィット

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カサンドラ獄中記 加藤よしき @DAITOTETSUGEN

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ