ソウル・オブ・ジ・オリジン編 第31話「不滅と戒律の月下」
僕は、ある夢を見た。
そこは見たことはないけど、何故か懐かしさを感じる雪山の上。
「雪山か・・・寒さは多少感じるけど、不思議と心地よいな・・・。」
風は吹いてない、でも白くキレイな雪がゆっくりと降り注いでいる。僕はゆっくりと当てもない雪山を歩み始めた。最初は足取りも重かったけど、次第に身体が慣れていって、雪の上を歩くことができるようになってきた。
いつしか雪山の頂上付近に到達できたのだけど、この辺りの雪道は崖のように切り立っている・・・。
「ここには何があるんだ・・・?僕はここで何を見つけないといけない・・・?」
でも、一つだけ不自然な部分があった。ある一方の崖の方から、白い湯気のようなものが流れてきていた。僕は不思議に思いながらも、ゆっくりとその湯気を辿っていく。すると、崖の近くで暖を取っている桃色の長い髪をなびかせ、頭には大きな角が二本生えている謎の少女が居て、少女は鼻歌を歌いながら何かをしていた。
「この調味料は使えるな・・・これは・・・だめか・・・。」
「あ、あの・・・君は誰なんだい・・・?」
「我か?我は世界を見てきた者だ。」
「世界を見てきた者・・・あと、ここは一体・・・?」
「ここは夢であって、現実でもある。本来の自分を見つめ直す場所でもあるさ。まぁ座んな、温かいものでも飲めば落ち着くさ。」
少女は温かいココアを用意してくれて、僕に渡してくれた。そのときに少女の顔を確認できて、琥珀色の美しい瞳と、整った顔を見ることができた。少女は自分のココアをフーフーと吹きかけながら冷ましているけど、飲まずに僕に話しかけてきた。
「ところで君は何故、この場所に来たか分かるか?」
「それが、僕にも分かっていなくて・・・。」
「この空間には特別なものはない。あるのはただ身体を冷やす雪、それが降り続けているだけさ。故に創造主はこの空間を掌握することができる。」
「創造主・・・やっぱり関わっているんだね。」
「あぁ、我もその創造主に運命を言い渡され、そして諦めた者だ。だがな、創造主は等しく平等だ、君が宿しているその魂に運命を授ける場合にのみ試練を与える。君の中にもう一つの魂があることは、分かっているな?」
「うん、もう幾度となく出会っているよ。」
「君の中に眠るもう一人の君は、何かを叫び、そして何かを諦めた。そのモノは自身の死を恐れ、自分の運命を投げ出し、結果世界を裏切ることになった。」
「それって・・・あの・・・。」
「あぁ、そうだ。そのモノの名は・・・いや、今は言うべきではないな。」
少女は少し冷えたココアをちびちびと飲んで、話を再開する。
「だが・・・時が経つのは早い・・・記憶は色褪せていくけれど、我は今まで正しい道を選んで来たのかは分からないんだ。だけどな、我は君を信じている、例えそれが偶然のことだったとしても、もしかしてそれは運命だったんだと。始まりがあれば、終りもある。その過程でやってきたことの大切さはあとから分かるはずだ。」
この少女は・・・きっと今の僕よりも先の未来へと、進むことができたのだろう。だから僕は今の疑問を少女に投げかけた。
「君は・・・この世界から抜け出したいって思わないのかい?」
「いいや・・・それはもう思わなくなった。我が求めている答えは、現実でも、虚実でも、何処にも見つからなかった・・・・・・もしこの答えが解れば、我の心の痛みは和らぐのだろう・・・。心だけはこの虚空に届き、浮き沈みはあるが、両手を上げてこの雪の結晶の冷たさを感じれば、何かが変わっていたのだろうか・・・。」
少女の美しい瞳には、光が無く、目尻から涙を溢れさせることすら許されていないように感じた・・・。僕はその表情を見て、咄嗟にとあることを聞いた。
「一つ、聞いても良いかな・・・?君の本当の名前って、なんだい・・・?」
僕のその疑問の言葉に、少女は優しく微笑みながら、こう名乗った。
「そうだな・・・多分この名を口にしたら、君はきっと・・・我を見る目が変わるはずだ・・・そうだろ?リヴァン。」
「な、なんで・・・僕の名前を・・・?」
僕の手は、今、震え続けている。多分少女の名前を聞いたら、きっと取り返しがつかない事態になりそうな気がするからだ。
「言っただろ、世界を見てきた者だと・・・・・・我の名は・・・ブレーン。」
「ブレーン・・・まさか・・・魔王・・・オルト・・・ブレーン・・・!?」
僕は手に持っているココアのコップをその場に落として、いつの間にか持っていたアイオンソードを魔王へ向けた。心臓がバクバクと暴れ、息遣いが荒れる。今僕は、僕たちを殺そうとしている魔王と対峙している。でも、手の震えが止まらない・・・あの優しい口調だった少女が、魔王だなんて信じたくない・・・でも・・・!
「落ち着け、この空間にいる我は外の魔王とは違う存在だ。」
ブレーンはその場から立ち上がって、右手を僕へと向ける。なにかされるのかと僕は咄嗟に目を閉じたが、剣を持つ右手に温かい人のぬくもりを感じた。僕はゆっくりと目を開けると、ブレーンは僕の手を優しく握って、剣を捨てさせた。
「心の剣は、今の我に向けるべきではない。多分きっと、遠い未来の君が後悔するからだ。大丈夫、この空間に居る我が君を殺すことがないことを、今ここに誓おう。」
僕はその場で膝をついて、呆然としていた。
「すまない、やはりこの名を口にするべきではなかった・・・なぁリヴァン、一つだけ、我の願いを聞いてくれないか?」
「ねが・・・い・・・?」
「今もなお、現世の我は間違いを繰り返し続けている。君たちはその我を殺さないと、現世の因果は消えぬことはない。だから、その時はこの空間の我のことも遠慮なく殺してくれ・・・そうすると全ての因果が消えていくはずだ・・・。」
なんでだ・・・なんでブレーンは僕にそんな優しい笑顔を向けてくる・・・?なんで・・・なんで殺し合う相手に、そんな顔ができるんだ・・・?彼女だって、辛いはずなんだ・・・なのになんで・・・。そんなことを考えていると、目の前の光景が徐々に霞んでいく。
「そろそろ時間のようだ。きっとまた我らは邂逅するだろう。」
僕はブレーンの笑顔を見ながら、意識がゆっくりとこの空間から飛ばされていくのを感じた。意識がだんだんとはっきりしてきて、身体からだるさが消えていくと、また見知らぬ空間に出てきていた・・・そこは巨大な崩れた岩で構成された月が照らす、不思議な空間。だけど今の僕には、何もかもがどうでもよくなっていた・・・。
「やっとここへ来たんだね、オリジンよ。」
声のする方へゆっくりと顔を上げると、美しい新緑の長髪に、アメジスト色の綺麗な瞳の眼鏡をかけたエルフの女性が立っていた。
「・・・君は・・・いや・・・もういいか・・・。」
「なんだ?もう心が駄目になったか?そんなんじゃまた君の大事な子を死なせちゃうぞ~?」
「大事な・・・子・・・マル・・・タ・・・?」
「そうか・・・マルタか・・・良い名だね、その子は・・・・・・。」
「・・・。」
「・・・?」
何だ・・・?急に黙って・・・。
「というかさ・・・そろそろ・・・シャキッとせんかぁぁぁぁぁ!!!」
僕は唐突に名も知らぬエルフの女性からチョークスリーパをかけられて、モガァー!と声にならない声を上げ続けた。
「ゴホッ!ゴホッ!な、何するんだよいきなり!」
「おっ!やっといつもの君に戻ったようだね!まぁそう怒るな、ちょっとした気付けってやつだ。改めて、私はオクタビア。この夢を管理し、そして創造主に忠誠を誓う哀れな傀儡さ。」
「創造主・・・オクタビアさんは、何を知っているんだ?」
「まぁここに座ってくれ、そのことで少し話がしたいんだ。よっと。」
その空間の真ん中にはテーブルと椅子が置いてあって、オクタビアさんは僕と対面の椅子に座った。僕も椅子に座るとオクタビアは空間の一部からとある酒を取り出し、いつの間にか僕の目の前にある小さなコップに注いだ。
「この酒は特殊な物でね、私の友の故郷の酒なんだ。」
差し出された酒を飲むと、ほのかな米の甘みと良い香りが身体を駆け巡り、自然と身体をぽかぽかと温めてくれる。
「美味しい・・・なんだか僕の遠い記憶が蘇るようだ・・・。」
「気に入ってくれたかい?これも私の思い出なんだ。」
オクタビアさんも同じ酒を一気に飲み干して、話し始める。
「さて、君は沢山の疑問を抱えているようだけど、何から話すべきやら。」
「それなら・・・オリジンって何なんだ?」
「あぁ、オリジンか。君たちの今いる世界では、オリジンは忌み嫌われた存在。だが世界を救うにはオリジンの力が必要不可欠だ。だけどね、世界がその認識なのはこの世界が不確定な存在でもあるからだ。」
「不確定な存在・・・?一体それは・・・?」
「少し、疑問に思わないかい?何故世界の英雄とも言える存在が、何故忌み嫌われているのかを。」
それは・・・確かにそうだ・・・でも・・・。
「でも、その力がアビスと、魔王と関わっているから・・・だからこの世界はそう思っている。だけどね、それだけでは説明がつかない。これは、誰かがこの世界を作り始めているから、と思わないかい?」
「まさか・・・それが創造主なのか?」
「半分正解で、半分不正解だ。この地獄の輪廻を作りし者が誰かを、君は少しは知っているはずだ。」
「魔王・・・オルトブレーン・・・。」
「そう・・・ただ、魔王と創造主が直接的に関わっている訳では無い、互いに答えを見つける為に、ただこのループに準じているだけさ。」
「答えって・・・そのためだけに僕らは利用され続けているってのか!?」
「利用・・・か・・・。確かにそう捉えられても仕方がない。でもね、創造主の思惑を乗り越えそうになって、魔王の理念を覆しそうになっている存在が、今私の目の前にいるんだ。」
「それが、僕たちってことか?」
「そうだね。だからこそ、あの空間にいるブレーンが君たちに干渉し始めた。」
「君は・・・オクタビアさんは、ブレーンと関わりがあるのか?」
「そうだなぁ・・・かつての友であり、互いを高め合うライバルでもあった。あ、そうそう!ブレーンは甘いものに目がなくてな!また出会うことがあったら、また何か渡そうと思ってたんだ。あぁ・・・懐かしいな・・・。」
オクタビアさんの口調が、少しだけ優しくなったようだった。やっぱり仲間の事になると誰だってそうなるな。
「ごめんね、少し感傷にふけってしまった。あ、ちょっと待ってね・・・。」
オクタビアさんは何かを思い出したかのように、胸元から出した懐中時計を見ると、少しだけ焦りの表情をしていた。
「ごめん!これ以上はここに居られないようだ。まぁ、これが最後だなんて、私は思っていない。私はこの先の世界で、君たちとの邂逅を待ち望んでいるよ。またね、リヴァン。」
この空間の月からの光が徐々に強くなっていって、僕の意識はここで途絶えていった。
オリジンの魂は、私達の想像を遥かに超えた力そのものです。
あなた達の手には、一つ目の因果、一つ目の刻印が眠ります。
その刻印に込められた希望と感情が、あなた達の背中を推し続けます。
敵でもない、味方でもないこの世界にあなた達の想いを黄昏に溶かすように、夕日に照らされた一輪の花は夜明けに甘露を伝わせ開花するでしょう。
だけど安心して、私はあなた達を見守り続けます。
その繋がりさえあれば、どんな契も盟約も要らない。
最後の心に眠る勇気があれば、どんな相手でも負けることはありません。
だって、それが、この夢の終点へと進めることができる道でもあるのですから。
ロストクラフト物語 仙道狐来 @sendo_korai
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