第31話 『じごくステーション』 その1


 汽車の中は、がらんとしていました。


 汽車といいますものは、オカルトや、懐かしいお話しの定番ステージなのです。


 実際に、汽車は、つねに、空間を横切って行くのですから。


 そこから見える景色は、写真と同じように、ある時間がじっと閉じられたような、限定された空間を覗き見しているようなものなわけです。


 だから、すべてではありません。


 しかし、いま、見えているのは、闇夜だけでした。


 この汽車は、音がしません。


 がたんとも言わないのです。


 また、話し声もありません。


 だれかの、咳払いとか、足を床に強くぶつける音とか、あたまをうっかり窓に打ちつける音とか、鳴き声とか、車掌さんが歩く音とかも、まるでしませんでした。


 なんにも、聞こえません。


 こうした場合は、自分の心臓の鼓動が聴こえたりするとかいいますが、そうしたこともありません。


 『止まったのかな?』


 いやな予感がしました。


 『現世のぼくが、死んだのだろうか?』


 すると、また、突然に、前の席に、あの、占い師さんが現れたのでした。


 『当然の帰結です。』


 『って、これは、やましんステーション行きと聞きました。なら、帰るのでしょう。もう、死んだのですか。』


 『いえ。まだです。でも、わたしは、ホテルから出なさい、と、申しました。汽車に乗るのは、想定外です。だれかが、横やりを入れました。あなたは、うっかり、乗ってしまいました。まあ、あなたのせいではないかもしれないが。』


 『そんな、ごむたいな。理不尽です。だれが、横やりを入れたりするのですか? ぼくには、行動の自由がないのですか?』


 『いいえ、あるから、ここにいます。だれが、仕組んだのかは、分かりません。天国があなたを助けるとは思いがたいしな。だから、別の地獄による妨害でしょう。おおかたは、わかりますよね。ま、しかし、正しい行動かどうかは、また、別ですから。』


 『あなた、どなたですか?』


 『わたしは、死神ももの妹。死神見習いの、ゆり、です。』


 『や、だから、だれかに似てると思ったのか。』


 『まあ、そうかも。たしかに、見習いですから、あまり、強制力がありません。あなたは、夢の中にいますから、いわば、影なわけです。だから、姉は、あなたの身体のほうに行っています。しかし、時は尽きようとしています。ホテルから歩いて出たら、現実に‘’わーぷ‘’できたかもしれないのに。まあ、永遠に堕ちる確率もかなりありましたが。あなたの生還できる可能性は、低くはなりましたが、絶望ではありませんよ。次は、じごくステーションです。この汽車は、しばらく停車しなくてはなりません。決まりですから。あなたは、地獄のプレ裁判を受けて、落ちたら、汽車に帰ってこられます。合格したら、地獄に入れます。』


 『そりゃ、むちゃくちゃだい。なんの試験をするの?』


 『それは、秘密です。』


 『また、古い番組みたいな。』


 『もう、見えてきますよ。ほら。』


 窓からは、なにやら、すごく明るい、まさに、大都市が見えてきたのです。

 

 

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