第22話:嵐の後の決意

その大男は上裸で身体には無数の傷跡があった。顔は兜で隠している。そして右腕しかない。見た感じ今さっき切り落とされたというわけではなさそうだ。月光国には大男しかいないのか?

俺はナガトに逃げるよう促しヤマトに駆け寄った。ヤマトは衝撃で気絶してるようだ。

「我、月下の12人が一人、レイガート也」


「これはご丁寧にどうも、俺はタケルだ」


「我に小童を殺す趣味はない。直ちに引き去れ、さすれば見逃す」


「こんなにボロボロにしといてよく言うな」


「その小童が先に刃を向けた、反撃するのは当然」


まぁヤマトの性格上そうだろうとは思ったけど。レイガートの顔は見えないが、どこか悲しそうな感じがした。そして立ち去ろうと振り向いた瞬間、路地から何者かが飛び出し、矢尻を突き刺した。シセムラだった。

「早く逃げろ!こいつはわいがなんとかする!」


次の瞬間、レイガートの胸に刺さった槍を抜き、そのまま投げ飛ばした。ゆったりと背後腰に手を伸ばし、ナタのような武器を取り出した。

「汝、覚悟はできているな」


さっきまでとは雰囲気が打って変わった。声にはさっきまでの悲しさもなく、ただ殺意がこもっていた。ゆっくりとこちらに近づいてくるレイガート、俺らを背に槍を向けるシセムラ。絶体絶命、そんな時レイガートの背後の建物を突き破って出てきたのはゴーレムだった。そのままゴーレムはレイガートに殴りかかった。それに加えて、建物の屋根に数名の人影が見えた。

「『ファイアボール』!」


一人が放った火の玉がレイガートに直撃し、休む暇もなくもう一人が突撃した。魔術を使ったのは、レンだった。

「タケル!今のうちに退がれ、こいつは…」


レイガートには魔術が効いていなかった。ゴーレムともう一人、鬼の少女と交戦していた。彼女の顔に見覚えがあった。村長のそばにいた少女だ。確か名前は、キサキ。

「おい魔術師!お前の魔術は聞いていないぞ、どうなってる!?」


「やっぱり、今ので合点がいった。そいつは封魔石を携帯してる!」


レイガートは余裕そうに突っ立っている。

「汝、封魔石を知っているということは、魔術解放団マジッシレボルか或いは日光連か」


「封魔石だって分かったなら、打つ手はいくらでもある!」


ゴーレムが背後から攻撃した。図体はどちらも同じぐらいの大きさ、ゴーレムは絶え間なく殴り続ける、隙が生まれなようにキサキが刀でレイガートを斬る。シセムラが入る隙の無い完璧な連携、レイガートはナタでキサキの攻撃を受け流し、ゴーレムの攻撃に耐えた。いける、勝てる、そう思った。

「つまらん」


レイガートが振り下ろしたナタがゴーレムを一撃粉砕した。それを見たレンは一瞬戸惑ったが、瞬時に次のゴーレムを作ろうと屈んだ時、レイガートの投げたナタが足場を破壊し、投げ飛ばされた。空いた手でキサキの刀をへし折り、蹴っ飛ばした。

圧倒的だった。見ていた俺らは呆気に取られ身動きが取れない。戦意喪失するには十分すぎる光景だった。

「任務が故、無抵抗で投降するのならばこれ以上の被害は出さない」


俺らの語りかけてきてる。そうか、月光国の目的は生け取り。

「ざっけんな!」


俺の腕を振り払ってヤマトが突っ込んだ。ヤマトの刺した剣は簡単に止められ、折られた。そのままヤマト抱え込んで振り向いた。連れ去る気だ、そう思った。助けなきゃいけない、でも怖い、死にたくない、戻りたく無い。でも見捨てるのは嫌だ。

「そいつを放せッ!!」


地面を蹴り、レイガート目掛けて拳を叩きつけた。右ストレート、顔面に、兜ぬ当たった。すると衝撃でレイガートが少しよろめいた。それに俺の拳は痛く無い。おかしい、そう思い見ると右手に見知らぬ何かが装備されてた。ガントレットのようなものがいつの間にか。

「汝、それは——」


レイガートの声を遮るように光が真っ直ぐ空に上がっていた。発信元はレンだった。瓦礫に埋もれながらもかろうじて出したSOSのサイン。

それを見たレイガートは状況を察して、撤収命令を出した。逃げるレイガートを追おうと一歩踏み出した瞬間、体から力がふっと抜けて、意識を失った。


目を覚ますとそこは自分の家だった。体は別に痛みはなく、ただ少しフラフラするだけだった。起きあがろうとした時、マキが入ってきて、俺の気付いたのか急いで駆け寄った。

「タケル君!無理に起きなくてもいいんですよ」


「マキさん… 今、どうなってる…」


「どうって… 」


少し躊躇いの表情を浮かべた後、険しい表情で喋り始めた。

「鬼族の死者は15人、20人以上が重体です。そちらは死者こそ出なかったけど、25人連れ去られました」


自分の無力さに泣くことしかできなかった。マキがレンを呼んできてくれた。彼は魔術でなんとか回復できたが、他の者を回復するには魔力が残っていないそうだ。

「タケル、君が倒れたのは魔力切れが原因だと思う」


「魔力切れ…?俺魔法使ったことないけど…」


「君の腕についてたガントレット、君が失神した数秒後に魔力となって大気に消えていったのを見た」


つまり俺は無意識中に魔術を使っていたことになる。そういえば前にも変な仮面をいつの間にか持ってた。あれもそういうことなのか。

「それと、誘拐された人たちを奪還する計画が考案されている。まだ詳細な計画は不明だが」


「俺も行く」


ここで動かなくちゃ絶対に後悔する。誰がどう言おうと絶対に行く。そう誓った。

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