第4話:見えてきた可能性
作戦はこうだ:
下準備、できるだけ街の構造を理解する。体力をつける。できるだけ奴隷を勧誘する。
日光連と月光国の戦闘が始まったら、
①一斉に暴動を起こす
②西にある内海の海岸まで走る
③必要な船だけ奪い、他の船を航海不能にする
たったスリーステップの簡単な計画だ。だけどこれを実行して成功するほど世の中は優しくない。外で日光連と戦闘してる部隊とはまた別の部隊が追跡してくるだろう。余所者揃いの俺らじゃ地の利を得てるあいつらには勝てねぇ。下準備として、武器を瓦礫に隠しとくのも良いかもしれない。武器は無いよりはマシだろうな。武器を作るったって瓦礫の中から作るんだ、誰か専門家は…
「なぁナガト、武器職人は居なかったか?武器が作れればなんでもいい」
「おーん、武器職人… お、一人いるぜ。そいつぁ俺らと同じ元アリカ大陸の奴隷だ」
アリカ大陸、俺らが元いた大陸か。確かそんな事をザキさんに教えてもらった気がする。
「つってもよぉ、そいつぁ本職が武器職人だったわけじゃなくてなぁ…」
「さっきも言ったろ?武器が作れればなんでもいいって」
「おうよ、そいつぁ奴隷働の合間を縫って弓を作って奴隷商人を殺そうとした問題児なんだ。名前は無くて、俺らはそいつをアーチャーって呼んでた」
アーチャー… 弓兵って意味か。名前がないと言うことは…
「もう気づいてると思うが、そいつも俺らと同じ産まれながらの奴隷だ」
名前のない奴隷はそう珍しくないのかもしれないな。聞くとここに居る10代はほとんどがネームレスだ。だがアーチャーは20代、つまりネームレスの最古参だ。
「ちょうど働いてる場所も近いし、明日には話しかけに行ってみようぜ」
翌日、いつも通りサボってる看守の目を掻い潜りアーチャーに会いに行った。流石に二人同時に抜け出すのはリスキーすぎるので今回は俺だけだ。
「おい… アーチャー」
結構距離があったがどうやら向こうは気づいてくれた様だ。こちらに歩いてくる。
「誰だ」
「同じアリカ大陸の奴隷だ」
「で、何の用だ?あまりリスクは取りたくないんでな」
「業務後の飯、話したいことがある。食堂で待っててくれ」
「?それだけか?なら私はもう行く」
なかなか強面だな、眉の皺もすごいし、髭は整えられてないし。とても20代には見えない。
自分の作業場に戻り、崩落した住宅を漁る。使えそうなものは一応そこら辺にあったタルの中に入れとく。キッチンナイフや汎用ナイフ?的なもの。武器になる物は全部入れとこう。要らないゴミは荷台に詰め込む。荷台は各々手押しで放置所に持っていく。放置所で偶然ヤマトに会った。
「兄貴… 仕事はどう?」
「うーん、ぼちぼちかな?そっちは?確か石造の家が多い場所って聞いたけど」
「この通り、石が多くて疲労がすんげぇ溜まってる」
「だろうなぁ… あそうだ、業務後は食堂で話したいことがある、大丈夫そうか?」
「おう、んじゃあ俺いくわ、また後でな兄貴」
「おう、気をつけろよ」
兄貴、か。なんだが嬉しいな。前世?では一人っ子だったから、弟がいるのは新鮮だ。
「うおおおおお!英雄の帰還だああ!!」
遠くから声がした。大勢の市民の歓喜の声だ。英雄、魔女狩りか?あいつらが帰ってくるとは言ってたが、本当に来ちまうとは。脱獄は無理そうだな。
作業場に戻ろうとした時、鐘が鳴った。いつもはあと2、3時間あるはずだ、今日はやけに早いな。魔女狩りの帰還に関係してるのか?
「何をしておる!!早く戻らんかッ!」
「チッ… はいはい」
早めに終わったことで夕飯まで時間ができた。この時間を有力に使おうと思い、アーチャーとヤマトを呼んだ。屋外広場に集まり、バスケもどきをやりながら話した。
「それでアーチャー、話したいことなんだが…」
「分かってる、脱獄だろ?俺も同じ事を考えていた」
話が早くて助かる。事細かく計画と要望を伝えた。
「そうか… すまないが作れるのは弓矢だけだ」
「そうなのか… ま、別にそれでもいい。ぶっちゃけ、戦えるものさえあればなんでもいいんだ」
「だがな、俺一人分ならすぐ出来るが、全員分は流石に資材も時間も足りん明後日までに出来るかどうか…」
「明後日?明後日ってのはなんだ?」
「… 俺の看守が話してたんだが、明後日にまた日光連の総攻撃があるらしい」
「だから殺魔天武が帰ってきてたのか…」
「弓矢は俺一人分でギリギリだ」
弓の量産は無理、か。
「兄貴、いいか?」
ヤマトが手を挙げた。
「ああ、もちろん。なんだ?」
「俺のペアのやつは元日光連の兵士らしいんだ、そいつ曰く、殺魔天武が戦場に出てきたら軍は撤退するらしい」
「は!?じゃあ…」
「明後日でチャンスは最後かもしれない」
クッソ!準備もままならないのに…!どうする?決行するか?武器はたかがキッチンナイフ程度だ、無理がある!
「明後日に決行だ」
ヤマトが俺の思考とは真逆のことを言った。
「用意ができてないのは重々承知だ、だがこれを逃せば次は来ないかもしれない。ここにいる奴らを囮にすれば生き残れる可能性も—」
「ヤマト、分かって言ってるのか?こいつらも人間なんだぞ!俺らと同じ、罪なき者かもしれないんだぞ!?」
「兄貴こそ分かってない!」
ヤマトは俺を突き飛ばした。
「奴隷の全員が無実ってわけじゃない!兄貴は知らないだろうが、ここにいる半数は犯罪者やお尋ね者だ。ナガトに聞いてみろ」
「それでも救うって決めたんだ、誰であれ2度目のチャンスは訪れる、違うか?」
ヤマトは黙り込んだ。
「おい貴様ら!何をしている!」
看守が騒ぎを聞きつけて走ってきた。気づけばそこにいた人たちに囲まれていた。俺とヤマトは日本語で会話してたことで、周りには聞かれなかった。
「… 考え直せよ、兄貴。全員を救うなんて妄想は諦めろ」
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