第2話:アリジュア大陸

正確な日にちは分からないが多分1週間は海に揺られてたと思う。その末辿り着いたのはアリジュア大陸だった、そう船員が話してるのを聞いた。俺たちは手枷を付けられ新しい奴隷小屋に運ばれていく。港街はとてもザ・和風のが意外でもあり、納得もした。船員が東洋顔だったのでもしかしたらと思ってたのだ。

「おい!シャキッとせんかい!」


見張りの男が一人の男を木の棒で叩いてるのが見えた。列を崩したのだろう。だがよく見るとその顔に見覚えがある、俺にそっくりだ。つまり、あいつは俺の弟ヤマトか?船の中では各々縦横高さ1m未満の檻に入れられてたから探すことが物理的にできなかった、ようやく出会えたことに少し感動した。

「オレに触るんじゃねぇ!この三下がぁ!」


「なんだとぉ!?こんのクソガキぃ!!」


んんん… なんとも凶暴な性格… こりゃ面倒なことになりそうだなぁ。あーあ、ボッコボコにされてるよ。

「さっさと歩け!」


ヤマトは渋々列に戻って歩き始めた。

「おいおい勘弁してくれよ…」


「おれらまで痛い目見るようじゃ殺すぞ…」


周りの奴らも苛立ち始めてきてる。弟のためにも立ち上がってガツンと言ってやりたいが、面倒事はごめんだ。すまん、弟よ。

小1時間ほど歩いて着いたのは山奥にある奴隷小屋、街に行こうと思えばいける距離なので俺らの仕事の種類は大体予想がつく。門をくぐり、俺らは奴隷小屋の隣にある広場に整列させられた。お立ち台に軍服らしき紺色の服を着た男が上がり、演説をし始めた。

「奴隷諸君、貴様らは今日からこの月光国のためにその命を燃やしてもらう!まず初めに!城下町の復旧作業に取り掛れ!集合は10分後とする!貴様らは支給された奴隷服を着てこい!」


城下町の復旧作業、ねぇ。詰まるところ、戦争か自然災害で男の人手が居なくなり、被害を受けた土地の復旧に手間取っていたと言うところだろう。そこで奴隷、か。

「早く歩けぇい!!」


どうやら2人1組で看守が1人ついて回る方式らしい。まぁ奴隷も囚人もそう大差ないからな。街へと出て俺らは壁の近くに連れられてこられた。酷い有様だ、家が岩で押し潰されてたり、放火された跡がある。カタパルトや火矢の類だな、って事は戦争で間違いがなさそうだ。

「作業に取り掛かれぇ!!」


ったくうるせぇやつだな。ムカつく面してんなぁ、チョビ髭引っこ抜くぞ。

「おい… おい、ちびすけ」


「ん?」


俺とペアの奴隷が話しかけてきた。見た目は俺と同じか二つ上ってとこだろう。こういうのって普通私語厳禁じゃないのか?見つかったら絶対棒でぶっ叩かれる。出来るだけ小さな声で話そう。

「なんですか?」


「お前、脱走しないか?」


脱走だぁ?きて初日でそれかよ。

「聞いた話だが… 隣国の李国と日光連は非奴隷国だそうだ… ここに逃げ込めばなんとかなるんじゃないか?」


非奴隷国か… 賭けに出るのも良さそうだ。そもそも俺は奴隷になる理由なんてないんだからな。

「それが本当ならそうですけど、奴隷になった経緯によっては囚人になる事もあり得るのでは?」


「俺は産まれながらの奴隷だ。俺個人は何もしてねぇから安心だな」


「奇遇ですね、俺もです」


「じゃあ脱獄ってのに賛成でいいか?」


「はい、共に脱獄しよう。俺はタケル」


「俺は… すまねぇが名前はねぇんだ、名付けでくれる人がいなかったもんでな」


「ええとじゃあ… 『ナガト』とかどうですか?」


「ナガトかぁ、気に入った!これからよろしく、タケル!」


ナガト、長門型戦艦一番艦が由来なのだが、それを説明しても分かるまい。

ナガトは俺と同じ部屋に入れられた、どうやら俺ら2人はずっと一緒に行動する言わば相棒的存在だ。部屋、と言っても半ば独房だが、布団が2セットと簡易的なトイレが奥にある。日本人からしたらそれはとても悍ましく、嫌悪してしまう。

「そういやよぉ、お前はなんで見張り人に喧嘩売ってたんだ?」


「ん?あー朝の。アレ、俺じゃなくて弟だよ」


「弟までいんのか!んじゃあいつにも声かけねぇとな」


「まぁ俺も会った事はないんだけどな」


明日には会えるといいな。でもあってどうしよう?別に積もる話もないし、脱獄の提案ぐらいしか話す事ない、あとは… いやまぁはもしかしたらって時にだ。今日は疲れが溜まってたのか、案外眠いな…


2日目、俺らは出来るだけ看守の目を盗み作戦を立てた。陸路と海路のどちらを行くかとか、人数はどうするかとかだ。作業中には答えは出なかった。食事は奴隷全員で食堂で食べるに決まりだ、俺らはできるだけ多くの奴隷と会話して、協力してくれそうな人を探した。その過程でやっと弟のヤマトと会話ができた。

「なぁ、ちょっといいか?」


驚いた顔で俺を見る、同じ顔のやつがいればそんな顔するのも当たり前だろう。

「な、なんだテメェ!!ドッペルゲンガーか?オレ死ぬのかか!?」


「落ち着けよ、俺はお前の兄だ」


「兄…?ああそういえばそんなの居たような居なかったような…?」


「ちょっと話があってな、急で悪いが」


俺はヤマトの隣に座った。

「んで?なんだよ話って」


「ああいやその前になんだが…」


周りを見回して俺らに目を光らせてるやつがいないか確認してから言った。

「この言語は理解できるか?」


俺は日本語を発した。ヤマトは驚きの顔を見せた。

「なんで日本語喋ってんだよ…」


「そうか… お前は魂を抜かれてこっちに連れてこられたか?」


「お、おう… なんでそのことを知ってんだ…?」


「俺もだからだ。俺はタケル、脱獄を計画してる。脱獄する気はあるか?」


今は疑問や安堵よりも先にこの質問が優先事項だ。誰も知らない、俺らだけの言語なら他の誰にも聞かれる心配はない。

「あぁ、ありありだ!」


「そうか… よし、話はまた今度だ。これからよろしく、ヤマト」


これで1人仲間は増えた。こうやって徐々に仲間を増やして、この奴隷生活からおさらばだ。

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