第13話
大会終了後、俺は運営のお偉いさんに呼び出され闘技場の一室の前にいた。
ノックして入ると室内には俺の所有者であるザイードと運営委員そしてその秘書らしき人がいた。
「久しぶりだね、トーマ君」
「ふん」
ザイードの挨拶にそっけなく返事する。
「冷たいなぁ。君とはもっと仲良くなりたいのに」
「────」
ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべているザイードを無視してると、向かいに座っていた男が口を開いた。
「始めまして、私はここの責任者のラッセルだ。まずは大会優勝おめでとう」
「ど、どうも」
「今回の大会は特にレベルの高い選手が多く出場していた。まさか初出場の君が勝ち残るなんて、夢にも思わなかった。それに──」
「ラッセル様」
という秘書の一言に「わかっている」と返すラッセルは。
「今は何かと忙しくてね。さっそくだがトーマ。これを君に渡そう」
そう言って出されたのは大きな革袋一つと小切手一枚。
確認すると確かに優勝賞金の金貨5000枚だ。
俺はザイードに向き直ると、
「ザイード、俺は剣闘士としてどれほどの値打ちがある?」
「ふむ、金貨にして、ざっと500ってところでしょうな」
「だったら──」
ザイードは俺の言葉を遮り続ける。
「しかし、君は金のなる木。将来性を考慮すれば───1500だ。それで?なぜそんなこと聞くのかな?」
「俺はもう剣闘士なんて御免だ。この金で自分を買い戻す。1500だったな。くれてやるから俺を解放しろ」
「いやいや、それはあくまで君の価値だ。私には利がない」
「損もないだろ」
「そんなことはない。さっきも言ったが君は金を生み出す。実際1500枚以上はもう稼いでいるんだ。今後ももっと稼いでくれるだろう。君をそんな簡単には手放したくないな」
つり上げるつもりか。
「4000出す。これならどうだ」
「4000ねぇ───」
もっと絞ろうとしていたのだろうがそこでラッセルが口を開いた。
「ザイード殿、彼が賞金を捨ててまで自身の解放を頼んでいるのです。その辺で手を打ったらどうですか。そもそも一剣闘士に金貨4000枚はあまりに破格。それ以上は欲張りと申せますぞ」
「‥‥‥わかりました。ラッセル殿がそう仰るのであれば。
君の奴隷契約書だ。これに君と私の血判を押すことで契約を終了する」
契約書なんてあったのか。
ナイフで親指を軽く突き、紙に当てる。
ザイードも俺と同様に親指を紙に当てた。
「これで君は晴れて帝国民だ。今までありがとう。君のおかげでずいぶんと稼がせてもらったよ」
「そうでしたか」
ちっ、嫌みっぽく聞こえるぜ。
しかしこれでようやく身分が戻った。
ひとまずはこれで良しとしよう。
退室した俺は一度自室に戻ることにした。
闘技場、二年もの間俺を閉じ込めていた場所。
いざ自由の身になるとただ歩いているだけでも懐かしさを覚える。
お金を回収するため自室に戻る途中、決勝戦の相手であった片腕の剣士に出会った。
「あ、その、具合はどうだ」
仕方なかったとはいえ自分が負かした相手だ。どう声をかければいいか分からない。
「俺の方はもう大丈夫だ……」
「そうか……」
「‥‥‥」
うぅ‥‥‥めちゃくちゃ気まずい。こういう空気が一番キツイんだよ。
「妹さんは病気なのか?」
「ああ。日を重ねるごとにどんどん衰弱していく病なんだが、薬は高くて払えない。だから優勝して治療してもらうためにここまで来たんだが……」
そういう事だったのか。
「その薬はいくらだ」
「確か金貨500枚だったはずが、なぜそんなことを?」
そのくらいなら残っている、まぁいいか。
ポケットから取り出したのは先程受け取った小切手だ。
残り1000枚しかないが。
「これやるよ。充分足りるだろうし使ってくれ」
「い、いやいやこんな大金、受け取ることはできない……」
「遠慮しなくていい。どうせ自分じゃ使い切れない金だ、有意義に使ってくれるならその方がいい」
「しかしだな……」
「いいから受け取っておけって。それともいらないのか?」
「そんなことはない!‥‥‥わかった。ありがたく頂くことにする」
「ああ、そうしてくれ。それで、あんたはこれからどうする?」
「そうだな、今からにでも教会に行こうと思う。妹にできるだけ早く薬を飲ませてやりたいからな」
「そうか、気を付けて行けよ」
「ああ、この礼は必ず」
そう言い残して剣士は立ち去って行った。
最悪のグレイ~The Demise of Mythology~ @Heyadehitori00
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