えーと25、6ページ目まで読んだよな、っし。 本は使う為に
「遺体処理しないん?」
「周りを見てみなよ」
「あー」
ちらほら転がる遺体達のおこぼれにあやかる連中が此方の目も気にせずに貪り続け、辛うじて原型を留めてはいたが戦争を知らぬ子らに一度でも見せたらトラウマもんだろう。
「〜ぁ」
「通りで血生臭えと思ったわ」
「衛生兵に処理まで任せられないからね」
「どうかこの世を恨まず、来世に期待してくれや」
「どうだろう、アンデットの割合は年々増えてるって噂だし」
「せっかく生まれ変われるってのに」
「――どうしてこの星に星を滅ぼせる存在が次々と生まれてくるか、不思議に思ったことはない?」
「毎日、憎しみに溺れている俺に言うかね、それを」
「あの中で最も有名な政策は何だと思う?」
「人類の平均値、底上げだろ?」
「うん。あれが無ければきっと今の僕らに虹龍の大厄災を乗り越えるだけの術は無かったと思う」
「綺麗事だな」
「そんな浅ましい考えだから呪われるのさ」
「跳ね返す力さえあれば然程、問題ではねぇっての」
「さっき云ったように、この世には輪廻転生があるんだから今回は諦めればいいのに。わざわざ先代が指し示してくれたじゃん」
「間違ってんな。人間生まれ落ちた瞬間から矜持を持って生きてくもんだ。それに歩いてりゃ失敗なんて幾らでも拭えるさ」
「そうかな」
「そうだよ」
「うーん」
「だから味方に後ろから刺されんだよ」
「でも、君のお父さんは最後まで忠誠を尽くしたみたいだよ」
「そうらしいな」
「誇りに思っていい」
「言われんでもそのつもりでいるさ。覚えてる限りはな」
跪く体勢で遠方を互い違いに見渡しつつ、俺は肌寒さと砂埃に負けじと焚き火を撒く。
しかし砂嵐に吹かれ、絶やされるばかり。
ならば、
「えーと25、6ページ目まで読んだよな、っし」
疑問符を頭に浮かべるヒロを横目に本を破く。
勿論、要らない部分なので問題ないだろう。
そのまま火種として焚べてやった。
「え、馬鹿なの。馬鹿なんっじゃないの? だからぁ馬鹿なんじゃないの⁉︎」
「何その三段活用。ちょっと荒っぽくない?」
「えー。だから馬鹿なの」
「寒いのは辛いの!」
「あげたモノだから良いのだけれど」
「本は使う為に。俺みたいなのはいずれ埃被る羽目になんのがオチだもん」
「……話、戻そっか」
「どっからだっけ?」
「じゃぁ剣からで」
「俺の敬愛する父は南なりの計らいか、慰霊碑の代わりにたった一つの剣を立てていた。それはまるで十字架のように見えて、手に取った瞬間に、これは運命だと思ったんだよ」
「うん」
「でも、でも、最初から間違ってたんだな。古くから命を吸い続けてきた刃は今も尚、錆びることなく血を求め、争いを求め、死を求めている」
けど、手放せずにいる現状。
「俺は過去を見ずに生きてきた」
めっちゃ乖離してんな。
「誰もがそうさ、前見てる時、後ろは見ちゃいねぇ。進むべき道を見定めるってのは、全てを把握しなきゃならねぇのに、結局、同じ運命を繰り返す。お前だってそうだろ……?」
「うん。僕もこの剣だって全ては思い出。兄者の為に生まれ、生きて、死ぬのが願いだ。あとね、いっぱい貴方についてきたけど、僕は四代目を支持している」
「お前――」
「オルスッ・クライン‼︎」
狙ったかのようなタイミング。
人影は正に希望のシンボルであった存在。
「大魔導士様ァ。大っ変、見窄らしいお姿で」
腹抑えて足引き摺って血塗れの舞台上がりとは、演者としても一流だとしか覚えない。
「貴様をっ、殺す!」
「あら、カッコいい」
既に満身創痍だというのに、誰がやった?
俺は咄嗟に殊更ながらに保険で己が身のローブを王女に被せ、進行を防がんと問い質す。
「扉はどうなったんだ?」
「そんなことなど、どうでもよいこと!」
全然良くないけどね。
「……」
好奇心から来るであろう眼差しに耐え――本人かどうかを、意思が生きてるかの確認。
その両方を済ませ、皆の前で一歩下がる。
然し乍ら、撤退の意に反したのでしょうか。
「同類だね」
「何だと?」
「使命を全うしなくてはならないんだろ?」
「私が、逃げたとでも?」
「一々、頷かないと駄目?」
「貴様ァ! 小童風情が、図に乗りおってぇぇ」
小石に躓いたかと思わせるようなよろけ方しちゃったよ。そろそろ終わりも近そうだな。
「残念ですがあ、貴方の御友人は私が……」
闘魂逞しく堪えて食い下がったよ。涙ぐましい努力に俺もしっかりと答えてやらねば。
「ホントに? うわー助かるー」
「え?」
「赤の他人だけどよぉ、最後くらいは腹割って話そうや。まぁテメェ臓物かもしれねぇが」
「何を戯けた事を」
「もう遅ぇ、手遅れだ。侵されちまってる」
今正に芽吹かんと開花の時を待っていた妖精の群れが胸から美しく飛び出していった。
「これは……」
「やっと、感動の再会だね」
メリスを筆頭とした懐かしい少数部隊は大魔導士大隊を相手に無傷且つ連戦に挑まんと一人一人がより一層、泰然と闊歩してくる。
「元勇者、オルス・クライスター・クライン。貴様を捕縛連行の後、尋問及び処分を下す」
「嫌だと言ったら」
「実力でねじ伏せるまでだッ‼︎」
「お互い、仲が良いみたいだね」
「ぁぁ?」
「何⁉︎」
一点集中で注がれていた視線は、お隣へ。
「ふざけんなよ」
「神獣に加え、女子供まで拐かし、洗脳するとは。何処までもっ、地の底まで堕ちたな」
「煙で目が悪いのか? それとも元々、盲目なのか? どちらにせよ、改めた方がいい」
「ほう。では、俺は口を噤もう」
「最初からそうしとけ」
「これが最後だ。お前の成した唯一の貢献とも呼べる教え子たちとの別れの言葉に浸れ」
「……。ありがとよ」
一人一人、前へ出る。
卒業式ってこんな感じ、なのかな。
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