05 辿り着いた先
眩しい光が弾け、あたりに静寂が満ちる。
痛いほどの耳鳴りが収まり、
「ここは……」
視界に広がるのは――冷たく湿った石壁。
先ほどまでいた地下室と、まるで変わらない光景だった。
「成功した……のか?」
しかし、周囲の状況は先ほどと全く同じではなかった。
鏡の配置が微妙に変わっている。
外から漂ってくる気配も、さっきとは違う。
差し込む朝の光が、暗がりに滲んだ緊張をあっけなく溶かしていく。
柔らかな風が頬を撫で、土と草の匂いが鼻先をかすめた。
「……よし、大丈夫だ」
参道の先には手入れの行き届いた立派な社殿が見え、
――成功、したんだ。
胸の奥で安堵が膨らんだ、その瞬間。
「……ん?」
「あ……」
参道を歩いてきた男と、不意に目が合った。
沈黙が流れ、空気がぴんと張りつめる。
「……なんだお前たち。どこの子供だ?」
男は目を細め、三人をしげしげと見つめている。
鋭い視線。しかしその奥には、どこか懐かしい温かさがあった。
「
間違いない。
その顔は仏壇の写真で見た若い頃の祖父そのものだ。
「てことは……ここ、昭和十二年か?」
「……ここからもう一回飛ばないと江戸時代には行けないってことか」
「鏡、どうすんの? あれないと――」
「鏡、だと!? ……今、鏡と言ったか!?」
ここは水害が起こったあとの昭和十二年。
「鏡とは、ご神体の鏡のことか? お前たち、何か知っているのかっ!?」
「ちょ、ちょっと待って、鏡がまだ地下に――」
「なに!? ――あるのか!!」
「説明するから……ちょっとだけ、待って!」
階段を降りかけた瞬間、地下の空気がひどく冷たく感じた。
さっきまでなかった、湿った気配――。
次の瞬間、黒い影が風より速くその脇をすり抜けた。
「うわっ!」
風圧のような衝撃が身体を弾き飛ばし、
背中に衝撃が走り、息が詰まる。
「
「
「だいじょ……ぶ……っ、けど……痛ってぇ……」
地上からの声に返答し、痛む肘を押さえながら石室の奥へライトを向ける。
白い光に照らされて――真っ黒な“影”が立ち上がるのが見えた。
「イザナミ……!」
黒い影と化した女の姿。その輪郭には確かに
イザナミは時を超え、
「――――!!」
とっさに構えた
その手が鏡に触れた瞬間、ジュッと音を立てて白煙が上がる。
「こんな……もの、が……あるから……ッ!」
怒りに震えた声とともに、イザナミは狂ったように鏡を締めあげた。
煙はいっそう激しく立ちのぼり、軋むような金属音が地下室に響く。
「やめろ!」
「黙っててよッ! わ、たしは……
その声は
地下室を埋め尽くさんばかりの執念が轟々と渦を巻き、黒く塗り潰された顔が怒りに歪んでいるのが見えるようだった。
けれど、その奥で迷子のように揺れる
逃げる前に考えるべきことがある。
そんな当たり前の思考が、なぜかすっと戻ってきた。
何ができる? どう動けば、みんなを守れる?
イザナミの位置。鏡の場所。階段との距離。
地下室全体の“絵”が、すべて一度に頭へ流れ込み、整理されていく。
「おい」
「――なに!? 邪魔しないでよ!!」
「状況。ちゃんと見てみろよ」
「――!?」
イザナミは鏡に気を取られて、地下室の奥まで入り込んでいる。
その間に
出口はその背後――
「ちょっと……ちょっと待ってよ……」
鏡を抱えたまま、イザナミが向き直る。
「私は……ただ
懇願にも似た声。
胸の奥にかつての
振り返れば迷うと分かっていた。だから
そのまま一気に階段を駆け上がり、石蓋に手をかける。
「やめっ……!」
音を立てながら石蓋が井戸を塞いでいく。
その隙間から、黒い霧がうねるように噴き上がる。
しかし
ゴウン――
重い音が響き、地下室は完全に閉ざされた。
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