18 残された手がかり

 なぎの家に戻った二人は、すぐさま帳面の調査に取りかかった。


 あれから、他にも何か手がかりはないかと集落内を回ってみたのだが――特にめぼしいものは見つからず、結局持ち帰れたのはこの帳面一冊だけだった。


「うわ、ボロボロだ……」


 長年放置されていた帳面はひどく劣化しており、少しでも雑に扱えばページが破れてしまいそうだ。

 なぎは息を飲み、慎重にその表紙をめくる。


 中のページは全体が黄ばんで、ところどころに茶色い染みが浮かんでいた。

 しかし、鉛筆書きで残された文字はかろうじて判読できる。


「これは……」


 そこに綴られていたのは、見覚えのあるメッセージの数々。

 どうやらこの帳面は、菊枝きくえが記録帳として使っていたもののようだ。

 彼女はここに、なぎたちとの交信内容を一つ残らず書き留めていたのだ。


菊枝きくえ……」


 なぎは思わず名をつぶやいた。これまでの思い出が、一気によみがえる。

 その傍らでは紗名さなもまた、真剣な眼差しで記された文字を追っていた。


 なぎはページを一枚ずつめくっていく。

 どれもかつて交わしたやり取りばかりで、内容には見覚えがあった。

 だがあるページで、その指はぴたりと止まった。



 “ 大人にみつかりました ”



 菊枝きくえから届いた最後のメッセージ。


 あれ以来、いくら呼びかけても返事はなかった。

 この後善三ぜんぞうに鏡を取り上げられてしまったのだから、応答がなくなるのも当然だ。


 しかしどういうわけか――書き込みはそこで終わってはいなかった。



 “ もうあの鏡は使えません ”


 “ こちらで届いていますでしょうか ”


 “ どうか見つけてくれますことを ”



 まるで、まだ交信を続けようとしているかのような内容だ。

 鏡を使えないはずの菊枝きくえが、一体どうやってこのメッセージを送るつもりだったのか。

 なぎも毎日鏡をチェックしていたが、これらのメッセージを見た記憶はまったくない。


 疑問を抱きつつページをめくったなぎは、そこで思いもよらない記述と出会うことになる。

 それは、なぎたちの知らない『誰か』とのやり取りの記録だった。



 “ 繋がってよかった

  こちらは天原あまはら村の清吉せいきちという者だ

  鏡を使ってそちらの送った文字を見ている “



「誰だよ、これ……」


「交信……してる?」


 記録を追うと、菊枝きくえの呼びかけに応じていた相手は『安政四年』に生きる人物のようだった。


「安政……四年?」


「――江戸時代」


「鏡が……別の時代に繋がったってことか?」


 相手の住む場所は、やはり天原あまはら。それは変わっていない。

 だが、菊枝きくえからの接続先が『未来』ではなく『過去』に変わっている。


 過去の天原あまはらに存在した、鏡について知る人物。

 やり取りを追っていくと、清吉せいきち菊枝きくえに驚くべき事実を伝えていた。


 彼女は『イザナミ』という存在に命を狙われているというのだ。


「イザナミ……!」


 夢に出てきた、あの名前だ。

 なぎの背中に、冷たいものが走った。

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