第22話
「つまり」
マリは手を挙げて、ポツリと呟いた。
「……泳がされているのですか、お姉様は?」
あまり考えたくはない仮説だ。
しかしながら、それもまた十分に可能性としては有り得るものだと言うこと——それも事実である。と言うことは、その可能性を完全に排除するわけにもいかず、結果的には、その可能性も十分検証することもしなければならないだろうけれど。
「泳がされているかどうかは分からない。ただ、真実に辿り着くまでは——きっと敵も接触しては来ないのだと思う」
「何故?」
「イブと共に行動していること……、それが理由だと思うよ。イブを隠していきながらも、何故彼女が襲われなければならなかったのかと言うこと、それについて調べ上げ真実を突き止める。それがきっと、今のわたしの使命だと思うのよね」
「……成程ね」
マリはスマートフォンを操作しながら、幾度か頷いた。
「何を調べているの?」
「……EAM圏内で起きている事件と、ネオワールドが関わっている可能性があるであろう事件について、ある程度調べているところです。まあ、直ぐに見つかるとは思えないけれど」
「……ありがとう。よもや、そう簡単に信じてくれるとは」
「嘘を吐いているようには見えませんから」
「そう?」
マリはこういう空気を読んでくれることに関しては早いから、非常に有難い。
物事を一から十まで言う必要がないから、省力化に繋がるとでも言えば良いのかな。
「ネオワールドを探して、それから如何すれば良いのでしょうか?」
質問をしたのはイブだ。暫く話をしてこなかったから、スリープモードにでも突入していたかと思っていたけれど、その質問をした感じからすればきちんと会話を聞いていた、ということになるのだろう。
「如何すれば……ね」
わたしは反芻する。
まあ、イブがそう言いたくなる気持ちも分かる——しかしながら、それを考えるのがこれからの仕事であるので、それを急かされるのもちょっと困るのだけれどね。
「ネオワールドは少なくとも今回の事件に関わっている――それは間違いないだろうと思う」
「何故?」
「何故……って、勘かな。正直、何か当たり前のパラメータで論理的に考えた訳ではないよ。それは紛れもない事実だ。でも、わたしの勘は――外したことはないよ」
「そんな非科学的な……」
「確かに非科学的ですわね。……でも、お姉様の言う通り、お姉様が思ったことが外れていた――なんてことはありませんでした。そういう意味では信じるべきなのでしょう、と思います」
「マリ……」
「そうなのですか? 何というか、人間というのは変わった生き物ですね。あるときはデータを重視し、あるときはデータを全く考慮しない――と。何とも都合の良い生き方をしているような気もしますが」
「それで良いんだよ、イブ。人間ってのは万能なようで、結構曖昧なところもあるんだから」
「……そんなものですか」
イブも未だ未だ人間について勉強せねばならないこともある。人間というのはロボットとは違って、ゼロとイチでは解釈しようのない、非常に曖昧なパラメータも持ち合わせているということを。
「――見つけました」
暫しマリがスマートフォンの画面と睨めっこしていたところだったが、不意にそう呟いてわたしは顔を上げた。
「見つかったのか、ネオワールド……その痕跡が」
「あくまで、可能性の一つ、ですけれど」
「何だ、その曖昧な言い方は」
「正確にはネオワールドが関与しているとは正式には認知されていないということです。……けれど、長年ここに居るわたくしならば分かります。この事件にネオワールドが関与している可能性が非常に高い、と」
「――内容は?」
こういうときは、勘を頼った方が良い。
「EAMの
「……いや、」
わたしは、少し引っかかる点があった。
「もしかして……そのホームレスは『記憶にない』と証言を繰り返していないか?」
「えっ?」
「わたしの方でもあったんだよ、自殺しようとする人間が、なぜかそうなった経緯を覚えていないという事件が……。今思い返すと、それは本人の意志だったのではなく、何者かによって操作されていた――つまり本人の意志など全く存在しなかったのではないか? そう思っているんだよね。まあ、これを言ったところできちんとした証拠が見つからない以上、まともに取り合ってはくれないのだろうけれど」
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