第46話 エピローグ

 星を戻してから数週間が過ぎた。その後、新しい依頼は舞い込んでおらず、僕と綾見は平和な高校生活を過ごしている。他の事務所のメンバーはというと、匠さんは足の怪我が完全に癒え、マリアさんと一緒に(何をしてるのか相変わらず不明だが)忙しそうに毎日いろいろな場所に飛び回っている(らしい)。

「次はどこに行くんですか?」

僕の質問に匠さんはニヤリと笑う。

「世界を救ってくる」

 同行するマリアさんも特に否定しないので、僕と綾見は案外真実なのではないかと思っている。最近は顔を合わせる機会も減ってしまって少し寂しいが、これ以上差を広げられてなるものかと綾見と一緒に日々彼方の世界に対応できるよう「こんなときどうするか」とお互いにテーマを出し合いイメージトレーニングに励んでいる。綾見の伯父である大文字さんは毎日事務所で暇そうにしているが、思い出したように時折僕らにアドバイスを出してくれている。曰く、昔とった杵柄によるものらしい。

「どうする、も大切だが、何故そうするのかまで考えてみろ。なんとなくの判断と理由を持った判断では全然違う」

「はい!」

 僕と綾見の返事に満足すると、大文字さんは欠伸を噛み殺しながら難しそうな本に視線を戻す。

最近は身体も鍛えるようにも指摘されていて、これまた綾見と具体的方法を相談中、梅雨明けが発表されたら本格的に始める予定だ。

 依頼の件だが、本音を言えば期末テストが終わるまで来ないでほしい。勉強が手に付かなくなることは明らかだし、万が一、テスト前夜が狭間の世界に通じる日となれば成績の急降下は避けられない。そもそも、親にはどんな理由をつけて家から抜け出せばいいのか見当もつかない。いざとなったら大文字さんが手伝うと言ってくれているが、こんな大男が家に来ても親の警戒は増すだけで逆効果だと思う。だから、できるなら次の依頼はテストが終わった夏休み中に受けたい。教室でも夏休みの話題が早くも上がっている。彼女が欲しい、部活漬け、バイト……etc。

「夏休みはどうする? 二見はどっか行くの?」

 級友からの何気ない質問に別のグループで談笑している綾見がちらっと視線を僕に向けた。「言えるはずない」と視線で返す。夏の予定について、そろそろ綾見と口裏を合わせておいたほうが良さそうだ。

「まだ決まってないけど、どこか遠く、かな」

「まさか海外か!? 二見の家って金持ちなのか!?」

「そんなんじゃないんだけど」

 羨望と嫉妬が混じった表情の旧友に返す濁した答えがもどかしい。綾見がこちらを見て小さく笑っている。笑ってないで助け舟を出してくれよ。君ならなんて答えるんだ?


 僕らの本当の答えは決まっている。


 僕らの行き先は、境界線の向こう側、『彼方の世界』だ。

                                      

           了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界との境界線が見えるので、向こう側の世界へ落とし物を届けます あおきたもつ @tamotsu_aoki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ