第15話 悪魔の棺
「その身体では辛そうだなぁ!」
ベリアルはさらなる連撃を浴びせてくる。ライアンの剣は人一倍大きい。そのうえ、全身に纏った魔力は、バリアであるだけでなく、身体能力も強化している。確かにこのままでは分が悪い。
「【魔剣】開帳」
俺は瞬時に全魔力を刀身に集中させ、高密度の魔力塊を作る。そして、その全魔力を乗せて斬撃を放った。
「ふんっ、」
ベリアルは剣で受け流そうとしたが、魔剣が掠った衝撃に耐えきれず、剣は砕け散った。そしてそのまま、魔剣は魔力の鎧を打ち破り、ついにライアンの左腕を斬り落とした。
「終わりだ、ベリアル。ライアンは左利きだ。もうその身体では戦えない。その身体から出ていけ」
剣の切っ先を向け、俺は降参を迫る。
ベリアルは苦悶の表情を浮かべるが、すぐに不気味な笑みを取り戻した。何が狙いだ?
「……【冥き深淵に潜む王よ。なぜあなたの威光は届かないのか】」
これは、【アビスプルートー】の詠唱か。何としてでも阻止せねば。
だが、もう魔力を練れない。アルクスの身体で無茶をしたので、全身の筋肉が痛み、骨は軋む。もう、身体を動かせない。
「【深淵の冥王の前では、全てが闇に染まる。そこには光も影もない。ただ虚無が広がるのみ。冥き底に沈め】極大魔法【アビスプルートー】」
黒の魔力塊が稲妻のように分岐し、炸裂する。まずい。伝説にある通りの広範囲攻撃が来れば、全滅は免れない。
だが。
「なんだこれ?」
【アビスプルートー】の魔力は、俺の右手へと吸収されていった。破壊は無効化されたようだ。黒の稲妻は、あるべきところへ還るかのように、俺の体に吸い込まれていく。
「なに!? まさかその身体、ルーライの用意した【棺】か?」
棺とは何のことだろうか。まさか、アルクスの身体自体が、ベリアルの力を封じることのできる器だというのか? ならば。
「吸い尽くしてやるよ、お前の力」
俺は右手に意識を集中させる。すると、水に溶けた絵の具のように、ライアンの身体から黒い魔力が吸い出されていく。
「くっ、ここまでやるとはな、ルーライ!」
ベリアルは何やら恨み言を言っているが、関係ない。俺はアルクスの身体を鍛えてやったのだから、この際活用させてもらう。ベリアルの魂が流れ込んでくるのが分かる。このまま聖属性の魔力を練れば、ベリアルを滅することができるはず。
思えば、アルクスと俺、2つの魂が1つの身体に同居できる時点で、おかしいと感じるべきだったのだ。アルクスの身体は、ベリアルを封じるため、予め複数の魂を格納できるようになっていたのか。どういう仕掛けは知らんが、今はこれに賭けるしかない。
「フッ、そろそろ限界か。【聖域のヒナビ】」
見ると、ヒナビの張っている結界は今に燃え尽きそうであった。マズい。ヘリオスからの攻撃に耐えきれていない。このままでは皆焼け死ぬ。
どうにかベリアルの魂全てを滅したかったが、仕方がない。
「シャルパン、魔力をよこせ!」
俺はすかさず叫ぶ。無言の返事とともに魔力が体内に満ちる。あとは聖属性の魔力に変換するのみだ。
「【血を流されよ。汝の子らは、育ての親を殺そうとする蛇となった】」
詠唱とともに、体内に聖気が満ちる。
「【セイクリッド・フレイム】」
俺は自らの、いや、アルクスの身体を白炎で燃やしにかかる。これでベリアルの魂の一部でも消し去れるはず。
「あがっ、」
悲鳴が聞こえる。だがそれはベリアルではなく、ヒナビのものだった。
「結界が持たなかったか!」
ヒナビの結界【禁裏御料】は完全に崩壊していた。同時に、ヘリオスからの攻撃も止まる。
「ほう、ヘリオスの限界出力まで耐えるとは。さすがの気概だな。聖騎士よ」
力なく倒れ込んだヒナビを、ライアンに取り憑いたベリアルが踏みつける。
「お前の仲間がまた一人死ぬなぁ、ユーク・イーゼルベルク?」
「くっ、」
俺は身を焼いていた白炎を剣に纏わせ、斬りかかる。だが。
「俺の魂を取り込んだんだ。させんよ」
右手に黒い魔力が纏わりつき、俺の動きを阻害していた。
「くそっ! 離せ! ヒナビまで殺させない!」
俺は足掻くが、ベリアルの魔力が俺の動きを封じる。
全てが裏目に出た。ベリアルの魂を取り込んで滅するなんて考えなければ良かった。それ以前に、3人だけで聖都に強襲をかけたのも間違いだったのかもしれない。
ここで終わりなのか?
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